レコードは果てしなく

好きなレコードや観たライヴのことを喋ります。'79年生まれ。

BAND EXPOな人たち① 河野薫さん

BAND EXPOという私にとっての夢のスーパーバンドがついに9/28に1stアルバムを発売する、という嬉しすぎるニュースが届きました!まだ聴いていないにも関わらず、今年のベストアルバムではないかという勢いです。青木孝明、西村哲也、河野薫、という知る人ぞ知る国内屈指のメロディーメイカー揃い踏み、もちろんそれぞれ優れたシンガーであり演奏家でもあるわけで、言うなれば表情の違うポール・マッカートニーが三人もいるかのようなロックバンドです。そんな三人が互いに刺激しあい創られたアルバムでしょうから、素晴しい傑作に仕上がっているのは間違いないですし、きっと1stアルバムらしい魔法がかったフレッシュさに満ちているはずです。あとは予想・想像をどれだけ超えてくれるか?楽しみで仕方ありません。なんかもうやたら気分が盛り上がってきたので、ここからはそのBAND EXPOのメンバーを私なりに紹介していきたいと思います。まずは最年少(!)の河野薫さんから。

BAND EXPO(仮タイトル)

BAND EXPO(仮タイトル)

河野薫(コウノカオル、コーノカオル)さんと言えば、セロファンのメンバーとして最も知られていると思います。関西出身のバンドで90年代から活動していたオルタナギターポップバンド、メジャーデビューも果たして、ヤング・カーネーションとかポスト・スピッツなんて言われてましたっけ。ちょうどメジャーデビューした頃、ラジオで聴いた「Maybe Tomorrow」という曲でセロファンの音楽を知りました(存在自体はもう少し前から知っていましたが)。彼らのCDを買ったのは、私が大学生の頃、2000年発表の『WANDERING MAN』を京都三条の十字屋にて。まるで古今東西のポップス万華鏡のような作品で、今聴いてもワクワクする名盤です。前年に発表されたカーネーション『Parakeet & Ghost』よりも愛聴していましたね。その『WANDERING MAN』の中で、「恋はグルグル」というまさしくグルグルしたヘンテコな曲を最初に気に入ったのですが、それが河野さん作曲ナンバーでした。確か、NHK-FMミュージックスクエア(か別の特番)で、音楽評論家が次にブレイクしてほしいバンドを紹介するコーナーがあって、萩原健太さんがセロファン推しでその曲をかけていたと記憶しています。セロファンでは河野さんの曲はそれほど多くは無いのですが、彼の得意とするロマンチックでメロウなナンバーがアルバムの良いアクセントになっています。2001年の『HALF LIFE』に収録されている「クランベリー」なんて、Pilot「Girl Next Door」を思わせるリズムの小粋なポップナンバーで、ファンの間でも人気のある曲ではないでしょうか?そんな名曲は、BAND EXPOでも西村哲也さんボーカルで度々演奏されているようです(観たい!)。しかし、セロファンはいいバンドです。前にムジカジャポニカでジャック達のライヴが終わった後、ぱぱぼっくすのたるたにさんがかけていたセロファンの曲を聴きながら(たるたにさんはセロファン最初期のライヴから観ていたそう)、一色進さんが「セロファンはカッコイイよ」と仰っていました。今でもよく聴きますし、ずっと活動再開を願っているバンドの一つです。

HALF LIFE

HALF LIFE

結局、セロファンはレコードは聴いていても、ライヴは観たことないまま活動休止してしまいました。それで、私が初めてライヴで動いている河野薫さんを目撃したのは、タマコウォルズというバンドでした。2008年の5月ですかね、拾得で西村哲也さんとの対バンでタマコウォルズを観ました。河野さんに、西池崇さん、鳥羽修さん、中原由貴さん、佐藤友亮さん(sugarbeans)、高橋結子さん、という猛者揃いの最狂のライヴバンドでした。竜巻を真正面から身体に浴びているかのようなグルーヴの嵐がもうとにかく凄まじかったです。その彼らの豪快なステージで私が密かに目を奪われていたのは、河野さんのクールに熱いベースプレイでした。グルーヴをグイグイと推進させながらも、各人の派手なプレイと音を渋く一つに束ねているように感じたのです。ベーシスト河野薫を強力に印象付けられたライヴなのでした。とか思っているうちに、このバンドもアルバムは一枚残してくれましたが、いつの間にか活動休止してしまいました。うーん、惜しい...


2008/5/18 「シナンノワザ」タマコウォルズ@京都拾得

さて、現在の河野薫さんはTRICKY HUMAN SPECIALという名義でソロ活動もしておられます。2014年発表の『孤独の巨人』は隠れたシンガーソングライター名作、ピアノを中心としたどことなくスペーシーな味付けで、胸をじわりと打つメロウな佳曲揃いです。ギターで青木孝明さんも参加されていますよ。そして、それ以来のTRICKY HUMAN SPECIALの新アルバム『黄金の足跡』がBAND EXPOと同時発売されるそうです。参加メンバーも主にBAND EXPOなので、ここはひとつ2枚買いで行っておきましょう!


陽は沈みまた昇る

黄金の足跡

黄金の足跡

あ、そうだ!河野薫さんは最近取り上げたdodo specialのメンバーでもありまして、『ドードーよ永遠に!』収録の「月待人」はしっとりした色気のある河野さんらしい逸品ですので、是非チェックしてみて下さいね。では最後に、BAND EXPOでの河野さん作詞作曲ナンバーのライヴVerをご覧頂きましょう。エンディングで意外な展開を見せます、ワンダフル!


The End of Century - BAND EXPO

ミュージックビデオが公開されました!3人のボーカル回しが泣ける感動の名曲「Memories」です。何と言っても、この普遍的な愛に満ちた歌をバンド最年少のコーノさんが書いているというのが素敵じゃないか。


Memories/BAND EXPO

『Multimodal Sentiment』 カーネーション

ニッポンの夏、カーネーションの夏。

この感じ、なんだか久しぶりのような気がします。カーネーションの4年ぶり通算16枚目(!!)のニューアルバム『Multimodal Sentiment』が届きました。私的には、前作『Sweet Romance』が周囲の大絶賛に反して、3.11の暗い影に覆われたどことなくフォークシンガーな雰囲気に気分良く乗れなかった(ごめんなさい)ので、今作はどうなのだろう?とちょっと身構えたりしていたのですが、これがスコーンと左中間スタンドに飛び込んでいくような痛快なポップ&ロックアルバムで、嬉しくなってニヤニヤが止まりませんでした。私の好きなカーネーションの要素である気だるくグルーヴィーも復活、とは言え、あのコロムビア時代のソウル風味とはまた違ったギターロックサウンド、とは言え、トリオ時代のあのやさぐれたビンテージな質感でもない、スペーシーなオルタナティヴギターロックで、これまでとも雰囲気が異なる、またしても新しいカーネーションサウンドが堪能できます。大田譲さんのリードボーカル曲が無いのはやや寂しいですが、その代わりに、ベースの存在感はいつにも増して強力のように感じます。気持ちよくブルンブルン弾いておられる顔が目に浮かびますね。そのあたりも注目して聴いて、踊ってみましょう。

Multimodal Sentiment

Multimodal Sentiment

カーネーションはいつもそうではあるのですが、曲調がこれまで以上にこれでもかとバラエティに富んでいて、それでいてアルバムとしての一貫性があるのは流石のひと言。それはやはり直枝政広さんが綴る歌詞の影響も大きいのでしょう。アルバムの至るところに散りばめられた、だらしなさや情けなさ。特に今作はストレートにさらけ出されているような気がします。私が初めて買ったカーネーションのアルバムは『GIRL FRIEND ARMY』('96)で、高校二年の夏でした。当時の直枝さんは37歳、ちょうど今の私の年齢なのですが、「Garden City Life」で”どうすれば大人になれるんだろう”と歌っていて(私も実感を持ってまさしくそう思ってます)、それから20年経ったアルバムの1曲目が「まともになりたい」ですからね。巷ではびこる夢や希望を持とうという前向きなメッセージなんかよりも、はるかに勇気が湧きます。50を過ぎてもそんな風に相変わらず思い悩んでいていいんだ、という(笑)。アルバムタイトルのMultimodal Sentimentとは、多様な感情という意味だそうですが、喜怒哀楽だけでは割り切れないようなあやふやな切なさを歌うのが直枝節でカーネーション節でしょうか。だからこそグッとくるのです。


カーネーション「いつかここで会いましょう」MUSIC VIDEO

ウィルコをお手本にしたような幾何学的なギターアンサンブルで吠える「まともになりたい」、ロックやポップスで初めて聞く”土器”という言葉に衝撃を受ける。トーキング・ヘッズよろしくアフロファンキーな「WARUGI」は、直枝さんのデヴィッド・バーン唱法や大田さんの激ヤバなベースプレイ、グレイプバイン西川弘剛さんとの白熱ギターバトルと聴きどころだらけ。宇宙空間を星くず蹴散らし切なく疾走する「Lost in the Stars」コロムビア期を思わせる直枝さん曰くEdo Riverの続編的メロウグルーヴ名曲「いつかここで会いましょう」を聴きながら、自分の原風景を思い浮かべてみる、そして涙。ジャック達やタイツの一色進さんっぽいと言ったらアレだけど、妙な展開がクセになる捻じれロック「Pendulum Lab」。沼の底からジワジワと這い上がってくるようなフォークロック風「跳べ!アオガエル」。先行シングル曲のアルバムミックス、鋭く燃え上がるSFパワーポップアダムスキー大谷能生さんのラップ?をフィーチャーした「Autumn's End」はとにかく謎すぎるエレクトロポップ、エンケンの哀愁の東京タワーを思い出したり。直枝さんお得意のニール・ヤングもの(実際のモデルはティーンエイジ・ファンクラブだそうだが)「E.B.I.」鈴木博文さんにも通じるやるせなさ、海老フライがやたらカッコよく響くのは一体。大森靖子さんとの狂おしいデュエットナンバー「続・無修正ロマンティック~泥仕合~」は後半戦のハイライト、佐藤優介さんアレンジのキラめくストリングスが夜の街の孤独なふたりを包み込む。折り重なるひしゃげた轟音ギターの艶めかしい快楽に浸る「Blank and Margin」。かったるいしやる気が出ないという疲れた心情だけで描き切った「メテオ定食」、でも何か忘れてないか?ズーンと胸に落ちる。仕掛けがいっぱいで、1周目より2周目の方がぐんと旨味が増す、これからもずっと聴き続けたくなるアルバム。そういう意味でも、実にカーネーションらしい作品だと思う。

やっぱり、カーネーション先輩にはいつだって刺激を受けます。ありがたい。


『Multimodal Sentiment』 カーネーション(2016年)

01. まともになりたい
02. WARUGI
03. Lost in the Stars
04. いつかここで会いましょう
05. Pendulum Lab
06. 跳べ!アオガエル
07. アダムスキー (Album Mix)
08. Autumn's End
09. E.B.I.
10. 続・無修正ロマンティック~泥仕合
11. Blank and Margin
12. メテオ定食 (Album Mix)

カーネーション直枝政広、大田譲

参加メンバー:大谷能生大森靖子川本真琴佐藤優介、sugarbeans、徳澤青弦、西川弘剛、張替智広、松江潤 etc

『ドードーよ永遠に!』 dodo special

どーよ?どーよ?どー?どーよ?どーなのよ?いきなりなんだかよく分かりませんが、先月発売されたdodo specialの新作アルバムが面白すぎてヘビロテであります。当ブログではこれまでroppenやクララズの作品を取り上げてきたように、東京は渋谷のワインバーCabotteや喫茶SMiLE辺りで密かに盛り上がっているようなアーティストがとても気になる今日この頃で、今回紹介するdodo specialもそのひとつ。うちだあやこさんと不知火庵さんという一風変わったポップソングを奏でる男女デュオdodoに、セロファンやBAND EXPOでもお馴染みTRICKY HUMAN SPECIALことコーノカオルさん(Bass)と喫茶SMiLE店主でroppenのメンバーでもある北山昌樹さん(Drums)が加わったスペシャルなバンド編成で、dodo special。あ、読みはドードースペシャルですよ、ドゥードゥーじゃくて、ドードー鳥のドードー。ちなみに、ドードー鳥は人間のせいであっという間に絶滅に追いやられた鳥だそうですが、彼らの1stアルバム『ドードーよ永遠に!』は、けっこう前からちょっと前までの速い流行の変化にいつの間にか取り残されてしまったような音楽を掘り起こして、今の感覚でユーモラスに描いたちょっぴり懐かしく新しいポップアルバムです。80'sUKニューウェイヴバンドのヒューマン・リーグの日本盤シングルをパロったという、人を食ったようなジャケットからもほのかに漂うチープなB級感(褒め言葉!)も実に私好みです

ドードーよ、永遠に

ドードーよ、永遠に

AIBOと言えば黒柳徹子さんを思い出すが、近未来の2030年にAIBOと暮らす女性を想像するだけで泣けてくる不思議な哀愁「アイボ2030」。2000年前後のエレクトロニカな味付けゆるふわポップ「マカロニ柑橘楼」。不知火庵作詞・うちだあやこ作曲のスウィートなオリエンタルディスコ「花魁の手紙~壱~」は、同じ詞にコーノさんが曲をつけたTRICKY HUMAN SPECIAL版(『孤独の巨人』に~其ノ弐~として収録)と聴き比べすべし。90年代オルタナティヴロック的ささくれフォーキーな「はじまりのうた」ザ・スミススピッツを思わせるインディーギターポップサウンドでJ-POPを歌っているような切ない名曲「アマリリス(思い切りメジャー感あるアレンジでも聴いてみたい!)。まさしくコーノカオルワールド全開のjazzyなロマンチックナンバーを気だるく艶やかに歌う「月待人」。インストのInterludeを挟んで、アナログレコードで例えるならここからがB面。ほんのささやかなラヴソング(のような気がする)「きみのおかげ」。何やら平安時代から聞こえてくるかのような男女ユニゾンボーカルが芳しい謎のエキゾナンバー「なにもかも」。聴いた人は洩れなく度肝を抜かれるであろう大注目曲!ここまで突き抜ければダサいを通り越してクールなエレクトロダンス歌謡「わたしをさがして」ホーリーナイ、アッハ~♪やけっぱちなテンションで盛り上がるホーリーナイト」。そして、最後は80年代AOR「誰かの足音」で、都会のアダルトでロンリーなムードに浸りながら、そっとアルバムを閉じる...そんな風に親しみやすさの中にチラッと狂気を忍ばせる素敵なポップスが12曲。とにかく、うちださんと不知火さんの異なる作風のバランスが絶妙(歌声のハーモニーも!)で、いろんなタイプの曲調があって飽きさせない。歌詞についても、基本的にうちだあやこさんがリードボーカルなので、(男性の)不知火さんが文学的に綴った女心と、うちださんが表現する抽象的に揺れる女心との対比も楽しい。ライトに聴いても、じっくり聴いても、聴き応えのあるアルバムですよ、永遠に!


dodo special「マカロニ柑気楼」MV


君のおかげ/dodo special


ドードーよ永遠に!』 dodo special(2016年)

01. アイボ2030(作詞/作曲 不知火庵)
02. マカロニ柑橘楼(作詞/作曲 不知火庵)
03. 花魁の手紙~壱~(作詞 不知火庵 作曲 うちだあやこ)
04. はじまりのうた(作詞/作曲 うちだあやこ)
05. アマリリス(作詞/作曲 不知火庵)
06. 月待人(作詞/作曲 コーノカオル)
07. Interlude(作曲 コーノカオル)
08. 君のおかげ(作詞/作曲 うちだあやこ)
09. なにもかも(作詞/作曲 うちだあやこ)
10. わたしをさがして(作詞/作曲 不知火庵)
11. ホーリーナイト(作詞/作曲 うちだあやこ)
12. 誰かの足音(作詞/作曲 不知火庵)

dodo special
うちだあやこ 不知火庵 コーノカオル 北山昌樹

スーマー/冬支度@音凪 2016.6.25

2週続けて土曜日は大阪天満宮近くの音凪へ。前週は福岡史朗&松平賢一&大久保由希という唯一無二でキレキレのロックンロールショーに舌鼓を打った、ひたすら打ち続けた。その時、一緒に観ていたのは冬支度の安田支度さんで、「来週はここでスーマーさんと一緒にやるんですよ」「そうなんだってね」。というわけで、今週はスーマーさんと冬支度の2マン。音凪は5周年記念イベント月間真っ只中、しかも、sakanaの西脇一弘さんのイラスト展期間中(店の壁面にびっしりとあの素敵すぎるイラストの数々)ということで、sakanaに関連のあるアーティスト同士の組み合わせなのでしょうか。1月の雲州堂でのいちかたいとしまささんに続き、名のある方との共演で、好調をキープしている冬支度です。一方で、私にとってのスーマーさんというと、失礼ながら、お名前もお顔もよく存じているし、どんな音楽をやっているのかは何となく想像はついているのですが、実際の音楽を聴いたことがありません。もうどうせなら白紙で向かおうと、あえてYouTubeなどもチェックしないでいました。開場時間を少し過ぎたくらいに音凪に到着して、冬支度のお二人とどうもどうもと挨拶したら、「スーマーさんは二度寝したみたいで、リハも入れ違いになっちゃって、まだお会いしてないんですよ。あはは」。前日のスーマーさんはツアーの空き日だったそうで、京橋ではしご酒しておられたようです(笑)。開演直前にスーマーさんが帰ってこられ、冬支度とはじめましての挨拶を交わしてからライヴが始まりました。

まずは冬支度(安田支度+斎藤祢々子)。この日は最初から燻し銀ギタリスト藤江隆さんが加わり冬支度トリオで。安田さん曰く、「今日はスーマーさんと共演ということで、スーマーさんと同じくヤマハのダイナミックギターの使い手である藤江さんを是非とも紹介したかったんです」。とにかく私はギタリスト藤江さんのファンなので、たっぷり藤江さんの演奏が観れるのが嬉しい。前週、お馴染みの福岡史朗&松平賢一コンビにお久しぶりの大久保由希さんのドラムが加わった時の最強っぷりに、鬼に金棒というのはこういうことを言うのだなと実感したのですが、冬支度と藤江さんの関係もまさしくそう。さりげない日常風景を素朴にちょいとユーモラスに描く冬支度の音世界を、藤江さんはその味を壊さずに鮮やかに色づけしていきます。ライヴ前、藤江さんに今日はフルで参加するんですね?と言ったら、「途中から出て行くの恥ずかしいんですよ。変に注目されるでしょう」と。そんな控え目な言動は、歌を引き立てるギタープレイにも表れているし、安田さんの的確なリズミカルなギターとの呼吸も絶対に外しません。そして、藤江さんが選曲してお蔵入り寸前から救出されたというレア曲「雨傘と日傘」が間違いなくこの日のハイライト。斎藤さんはアコーディオンで、スローな音数の少ない曲なのですが、アウトロを長尺にして、藤江さんがロックなスライドソロをキめまくる。胸がじわりと熱くなって、グッとくる、というか、かなりウルッときてました。斎藤さんがラリーパパ&カーネギーママ「終りの季節に」みたいなイメージと仰っていて、確かにあの匂いがしてましたね。コンパクトなポップソングが多い冬支度ですが、こういうスケールの大きな冬支度もアリだなと思いました。あと、「桜の見ごろは終わったみたい」間奏での藤江さんの滋味深い歌うギターソロも石田長生さんを彷彿とさせるムードで素晴らしかったです。スーマーさんが藤江さんの演奏を「めちゃくちゃ上手い」と褒めておられましたが、もちろん、その「上手い」は単に技術的な意味だけではないのです(とりあえず生で聴いたら分かります!)。って、なんだか藤江さんのことばかり話していますが、たぶんこれくらい言っても冬支度の二人は許してくれるはずです。もしかすると藤江さんには、いやいや俺が目立つのは良くないんですよ、なんて思われてそうですが。心配しないでください、音楽に溶け込んで全く目立ってない時間もしっかりありましたので。いやはや、派手ではないけど観応え聴き応えのあるトリオです。またこの三人の歌と演奏を観たいですし、録音もしてほしいなぁなんて期待してみます。

たっぷり休憩を取って(本当に始まるのか?っていうくらい)からスーマーさんのステージ。前述のとおり、スーマーさんの音楽を全く聴いていない状態で、ちょっとしたワクワク気分。藤江さんと同じくヤマハのダイナミックギター(六千円で買ったそう)とバンジョーを使っての弾き語り。ストローハットに丸メガネに髭面、まさしくその風貌通りの音楽というか。60年代のアメリカのフォークソングに根差した音楽性なのでしょう、日本的なドロッとした湿り気は感じず、乾いているのが心地良いです。力強いアルペジオに弾かれて男らしく優しい歌声が伸びていき、陽気なバンジョーの音色に反して、寂し気な歌が唄われます。浅川マキさんのお墓参りのすべらないお話(とっておきのMCネタだそうなので、詳しくは言うまい)をしてから、「少年」の沁みるカヴァーなんかもありつつ。リラックスしたスーマーさんの歌と演奏とお喋りをアテにお酒をチビチビやっていると酔いも軽やかに進み、あっという間に終盤へ。ダブルアンコールの最後はファンのリクエストに応えて「死んだ男の残したものは」、ズシリと重く心に響いたのでした。今回はスーマーさんの二度寝のおかげで(笑)冬支度とのセッションが無かったのが少し残念でしたが、それはまた次のお楽しみに。藤江さんとのツイン・ダイナミックギターなんてのも観てみたいですね。

目をつむれば、今は1970年代かと錯覚してしまうようなぬくもりのある時間を過ごせて楽しかったです。そして、音凪のお酒とおつまみは旨いのです。

『60』 一色進

え、今なの?必ず書くと言って、放ったらかしにしていた。寝かせてたまに聴くと、めっちゃええやん!と思って、また寝かせていた。機は熟した、ということにしておこう。というわけで、愛すべき永遠のB級ロックバンドマン一色進さんが還暦を迎えて発表した2ndソロアルバム『60』。蓋を開けたら、打ち込みバリバリ、まさかまさかのEDMだった。EDの音楽じゃないよ、エレクトロニック・ダンス・ミュージック。踊れるかどうかはあなた次第。一色「俺もたまには駄作を作るんだよということを証明したかった」!?と言いながらも、史上屈指にポップでキャッチーな曲が揃っている(ような気がする)。バックトラック作りはタイツ時代からの盟友・松田信男さんが担当。悪ふざけするつもりがつい本気になってしまい妙に完成度が高いトラックが逆に笑える。それでもなんかイナたいテクノポップは、中田ヤスタカには出せないだろう(出す必要はない)。懐かしいのか新しいのかはどうでもよくなる、ただひたすら可愛いアルバム。

60

60

いきなり航空会社のCMに流れそうな洗練されたトラックに乗せて、腹上死したいと歌う「ガチャ・ガチャ」。タイツ「RAN-SAW SAMBA」の続編か?みんなで歌って楽しい問題作「閉経ベイビー」。一色さんのはっきり聞き取れないピロートークがセクシーな「生まれて30分の恋」。”待ちわびてぇ~♪”の調子っぱずれな”てぇ~”にやたら胸を打たれる「待ちわびて」。あの娘めがけて街を全速力で駆けていくトレンディドラマの1シーンが思い浮かぶ「Chance」(鈴木茂「レイニー・ステイション」に繋げたい!と思ったが、実際は痴漢を我慢する歌)。一色さんのラップ、意外とイケるやん「ラムチョップ」。出来れば12インチシングルで聴きたいディスコなキラーチューン「恋のTRANSIT」。愛した女は必ず何かに狂ってる、ボブ・ディランを意識したイカれたトーキングブルース「HOLIC-HOLIC」。前作『歪』の匂いがする美しくダウナーな「Small Mercy」。お茶目でキュートでコミカルなインスト「エアポート急行」。情けなくヘヴィーにファンクする「ネコババと40代の課長さん」。メロディー自体は素朴で愛らしいがやたらアレンジが壮大な「背徳の女神」。そんなこんなのお節料理のようなめでたい?全12曲47分。最&高、かもしれない。


『60』 一色進(2015年)

01. ガチャ・ガチャ/02. 閉経ベイビー/03. 生まれて30分の恋/04. 待ちわびて
05. Chance/06. ラムチョップ/07. 恋のTRANSIT/08. HOLIC-HOLIC
09. Small Mercy/10. エアポート急行/11. ネコババと40代の課長さん/12. 背徳の女神

Produced by 松田信男

『Saramountain』 河野沙羅

今や京都を超えてワールドワイドな活躍を見せているパイレーツ・カヌー。3年くらい前に拾得で東京ローカル・ホンクと一緒にやったライヴを観たが、老若男女お客さんいっぱいであまりの人気の高さにビビった。あ、そうだ。思い返せば、パイレーツ・カヌーのそれぞれのメンバーはそれよりも前に西村哲也さんとの共演ライヴで観ていた。男性陣はテキサス・シュー★シャイン・ボーイズ(通称・靴ピカ)というゴキゲンなバンドで演奏していた(2008年1月12日@ネガポジ)。河野沙羅さん&エリザベス・エタさんは西村哲也生誕50周年記念ライヴ(2009年12月27日@拾得)のゲストで初めて観て、あまりに本格的な歌声の美しさと歌の上手さはちょっと衝撃的だった。その後、二人のデュオはコモンカフェ(2011年8月20日)でも観たのだけど、グランドファーザーズ「恋の元素記号」を西村さんが歌い、彼女らがコーラスするという今考えればすさまじくレアな光景があった。もっと思い返すと、河野沙羅さんは二人乗りというマンドリンデュオをやっており、西村さんと一緒にツアーを回ったりしていたようだ。いつだったか西村さんの拾得でのライヴ後、マスターのテリーさんが「二人乗りの次のアルバムは鈴木茂プロデュースらしいよ!」と西村さんやバンドメンバーと喋っているのを聞いたことがあった(マジかよ、と心の中でつぶやいた)。結局、私は二人乗りを観れず仕舞いだったが、ずっと気にはなっていた。そんなこんなで沙羅さんと西村さんとの付き合いは長く、そして、密かにこんな素敵なレコードを作っていたという。

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Produced, Recorded & Mixed by 西村哲也
All songs written by 河野沙羅

全7曲日本語詞の懐かしく心地良い名曲揃い。どれも後にパイレーツ・カヌーでは英語詞で再演されているが、フォーキーで土の匂いのするパイレーツ・カヌー版とは随分と趣が違って、ここでは(パイレーツ・カヌーの面々が参加していても)非常にカラフルでポップな仕上がりになっている。西村哲也 played Guitar & Bass, and Other Cool Stuffで、もちろんエレクトリックギターやスライドギターはアーシーに泣く西村哲也節全開、これはもう完全に西村哲也サウンドと言ってもよいだろう。出来れば、同時期に録音されていた西村ソロ『ORANGE』(2010年)と共に聴いてもらうと面白いのではと思う。

ORANGE

ORANGE

そうそう、『ORANGE』収録の「蛙」では沙羅さんがコーラスで参加しているのだが、西村さんが「〇〇の蛙」というタイトルにしたいのだけど何がいいかな?と沙羅さんに訊いたところ、西村さんだったら「蛙」でいいじゃないですかと答えたという微笑ましいエピソード。そして、この『Saramountain』では、沙羅さんは(見た目とは異なる?たくましく母性ある)ボーカルとマンドリンを弾いていて、あとは西村さんにお任せという感じだったらしく、いつの間にかロック調に変身していたり、ゴージャスなストリングスが入ってハリウッドみたいになっていたりして驚きの連続だったようだ。そんな自由奔放なアイデア溢れるアレンジと人肌の温もりある宅録サウンドが調和したチャーミングなポップス集。ひしゃげたエレキギターの響きが狂おしいスワンプロック「クレイジー・クリシー」、細野晴臣風味のんびりエキゾな「船長さん」、ザ・バンドで健気な不倫ソング「山男とシティーガール」あたりがお気に入り。さりげなく、名盤。


『Saramountain』 河野沙羅(2010年)
01. サイン/02. クレイジー・クリシー/03. ほたる/04. 忘れておくれ
05. カーテン/06. 船長さん/07. 山男とシティーガー

Musicians:
河野沙羅、西村哲也、進藤了彦、岩城一彦、夏秋文尚、田辺晋一
塩浜玲子、曽根川昭雄、ハント鈴加

<PLAY LIST> '16.5.5 『GO!GO!カブトムシ』@池袋鈴ん小屋

BGMを選曲しました。以下、プレイリストです。※全曲アナログ音源

2016.5.5 『GO!GO!カブトムシ』@池袋鈴ん小屋
出演:Y・O・M・A / 5mm

■ 開場

Java ジャワの夜は更けて / Al Hirt And His Orchestra
Woman Don't You Cry For Me / George Harrison
Come And Get Your Love / Redbone
青空 / 佐藤博
Harmony Grits / Peter Gallway
Da Doo Ron Ron (When He Walked Me Home) ダ・ドゥー・ロン・ロン / Ian Matthews
Ooh I Do 恋のウー・アイ・ドゥ / Lynsey De Paul
Roll Away The Stone 土曜日の誘惑 / Mott The Hoople
Goin' Down The Road (A Scottish Reggae Song) / Roy Wood
Hey Jude / John Hartford
Fresh Wound / Bonzo Dog Band

■【5mm】LIVE

びんぼう / 大瀧詠一
La Bamba ラ・バンバ / ジャッキー吉川とブルー・コメッツ
バン!バン! / ザ・スパイダース
遺憾に存じます / 植木等
私がケメ子よ / 松平ケメ子
オブラディ・オブラダ Ob-La-Di, Ob-La-Da / ザ・カーナビーツ
HELLO! BABY MY LOVE / ザ・ランチャーズ
Dance To The Music / フォーリーブス

■【Y・O・M・A】LIVE

55° North 3° West 北緯55度、西経3度 / Pilot
Xanadu ザナドゥ / Olivia Newton-John/Electric Light Orchestra
SHOW BOAT / 中原理恵
(Medley) Just A Gigolo~I Ain't Got Nobody ジャスト・ア・ジゴロ(~ノーバディ)/ David Lee Roth
The Things We Do For Love 愛ゆえに / 10cc
Can We Still Be Friends? / Robert Palmer
No More Lonely Nights (ballad) ひとりぽっちのロンリー・ナイト(バラード篇)/ Paul McCartney
Just The Way You Are (karaoke version) / NRBQ

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★1曲目「ジャワの夜は更けて」ですが、村松邦男さんフィーチャーの多羅尾伴内楽團のレコードにこの曲のカヴァーが入ってますね。あと、NRBQジョン・セバスチャンとの共演ライヴ盤がこの曲で始まり、それが最高なので影響受けてます。「青空」は村松さんギター弾いてますよ。

★開場からはシュガーベイブ~ナイアガラ風というか。「Harmony Grits」なんて、もろシュガーベイブでしょう。間奏のギターソロを村松さんが弾いてると言われても信じちゃいそう。5mmの時間に合わせて、フィル・スペクターぽいのから徐々に変な曲にしていくと。

★GO!GO!カブトムシというイベント名から勝手にビートルズかと思い込み。なので、何となく出囃子がビートルズの曲になればいいかなと思って、出てきそうな時間にカヴァーを入れました。「Hey Jude」と「オブラディ・オブラダ」、押したりで外れたかもですが。

★5mmのステージが終わったらいきなり台詞が聞こえてくると面白いかもと思いついてしまったので、「びんぼう」は頭に「希望退職者募る...」っていう台詞が付いてる『僕は天使ぢゃないよ』サントラのを使いました。

★転換の15分という短時間にいっぱい詰め込んでやれと60年代和モノ、GSなムードで。R・O・M・Aもヨナフィさんが作る曲にしても、ノベルティソングが多いように思うので、ふざけてもいいだろうと。「遺憾に存じます」~「私がケメ子よ」の萩原哲晶つなぎがハイライトか!?

★パイロット「北緯55度、西経3度」は映画で言うところのエンドロール的なイメージです。ザナドゥ~SHOW BOAT(ELO歌謡)は安田謙一さんの影響、ジャスト・ア・ジゴロは三匹夜会の影響(笑)。ここからは楽しいパーティーが終わっていく切ない展開に...

★5mm堀尾さんに敬意を表して、10ccは入れなあかんやろと思ったのですが、ひねりすぎて1周回って王道の「愛ゆえに」にしてしまいました...好きだからしょうがない。トッド曲も必須ですが、これはちょいひねりでロバート・パーマー版で。コクのある仕上がりでコレも好き。

★「ひとりぽっちのロンリー・ナイト」は、この前に堀尾さんとヨナフィさんが一緒にセッションしたそうで、ポールのを聴き返したらえらく感動してしまったので。ラストのNRBQがカラオケで歌う「素顔のままで」は、閉店時に流れる蛍の光的なイメージ。なんかほっこり泣けるのよ。