レコードは果てしなく

好きなレコードや観たライヴのことを喋ります。'79年生まれ。

【私の好きな歌024】「Drift Away」Dobie Gray

明けましておめでとうございます!ようこそ2019年。今年は平成から次の年号へ変わるという大きな転換点を迎え、何やら激動の年になりそうなムードですが、当ブログは相変わらず良くも悪くも時代の流れに鈍感に、自分の好きなレコードについてマイペースに書いていきたいと思います。引き続き御贔屓に、よろしくお願いいたします。

さて、ちょっと振り返って昨年末の話。12/27難波の絵本カフェholo holoにて行われた三匹夜会のライヴが私のライヴ見納め2018でした。メトロファルス残党組のライオンメリィ、西村哲也、熊谷太輔という愉快なトリオによる愉快なライヴ。三人のゆる~い会話のやり取りはなんだかパンダを見ているような癒しがありながら、演奏はオリジナル、カヴァーの区別なくロック万国博覧会と言うべきジャンルの世界地図を縦横無尽に旅する実はスゴイ音楽なのです。今回のライヴの目玉は映画『ボヘミアン・ラプソディ』の人気にあやかり!?QUEEN「Killer Queen」のカヴァーで、西村さんがフレディ・マーキュリー(歌)とブライアン・メイ(ギター)を両方やるという離れ業を見せてくれ、大変に盛り上がりました。そして、アンコールの最後は西村さんオリジナルの名曲「牛の群れになって走る」で締めたわけですが、その曲の最後の最後に西村さんがアコースティックギターからエレキギターに持ち替えて、まるでニール・ヤングリチャード・トンプソンが合わさったかのような、文字通り泥沼を牛が群れになって押し寄せてくるロックとしか言いようのないギターソロを弾いてくれ、胸の奥深くからぐわぁと込み上げてきて心の中では号泣していました(4月末に左手指の骨折という大怪我でまともにギターが弾けない西村さんも知っていたので、より一層に感慨が...)。それともうひとつ号泣で言えば、大晦日NHK紅白歌合戦でのユーミンのステージ。「やさしさに包まれたなら」で演奏していたバックのメンバーが、鈴木茂林立夫小原礼松任谷正隆というほぼキャラメル・ママというバンドでもうその姿を観ただけでウルウルきていましたが、間奏での鈴木茂さんのストラトキャスターによる”あのギターソロ”で涙腺のダム崩壊...ポイントは違うところかもしれないけど号泣していたaikoの気持ち、分かる。年が明けて正月休みという文字は無く元日と二日は普通に仕事でクサクサしてましたが、この二つのギターソロの余韻で何とか前向きに乗り切りました。

思い返すと、私は歌よりもむしろギターの響きに泣くことの方が多いのかもしれません。歌は感情に届くまでに言葉を聴いて解釈するという作業が要りますが、ギターの響きはダイレクトに感情に触れますから。西村哲也さんも鈴木茂さんも代えがきかない特有の音とフレーズを鳴らすギタリスト、もちろん歌が真ん中にあってのギターということも誰よりも理解している方ですが、時に歌よりも詞の世界をよく表しているのではないかと思う場面も多々あるように感じます。お気に入りの歌手だけでなく、お気に入りのギタリストを見つけていると音楽をより深く味わえるのでオススメです(もちろん他のパートも)。

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Dobie Gray『Drift Away』

洋楽に目を向けてみると、昨年に再発見して夢中になったギタリストがレジー・ヤング(Reggie Young)です。1936年生まれアメリカはメンフィスを拠点に活躍、特に60年代末チップス・モーマンのアメリカン・サウンド・スタジオにてそのいぶし銀のギタープレイの数々で米国南部スワンプロックサウンドを創り出した立役者の一人。代表作はDusty Springfield「Son Of A Preacher Man」、Elvis Presley「Suspicious Minds」など、The Box Tops「Cry Like A Baby」の印象的なエレキシタールもレジーの演奏です。決してソロを弾きまくるタイプではないですが、オブリガートでギターの一音の響きだけでムードを演出することができる歌伴奏の奥義のような演奏。テレキャスターをメインに、カントリー風味の乾いた土臭い音とトレモロを効かせたロマンチックな音を絶妙にブレンドしたコクのある甘さにウットリ酔いしれます。そんなレジーの魅力が存分に味わえる曲がDobie Gray「Drift Away」(1973年発表。全米ポップチャート最高5位)、間違いなく70年代の代表作でしょう。歌っているドビー・グレイは黒人シンガーですが、バリバリのソウルというよりはソウルフルなスワンプロックシンガーという趣きで、「Drift Away」に付いている「明日なきさすらい」という邦題からも匂ってくるように、アメリカの演歌と言ってもいいようなコブシの効いた泥臭い熱唱が胸を打ちます。”俺にビートをくれ 魂を解き放させてくれ ロックンロールの海をさ迷って漂っていたいんだよ”(私の訳詞)というロックンロール讃歌、そのメッセージにもグッときて仕方ありません(作詞曲はMentor Williams、ポール・ウィリアムスの弟)。そして、その歌をその歌世界を傍で哀愁いっぱいに背中を押すレジー・ヤングのギター。孤独と力強さが混ざりあったイントロのフレーズからほんの少しタメて、歌に入る直前のとろけるようなメロウな響き一発で必ず涙します。ドビーはさらに”気分が沈んだ時は ギターの響きが心に入り込んできて 和らげてくれる”と歌っていますが、まさにレジーのギターがそうなのです。メロウ・マイ・マインド。

「Drift Away(明日なきさすらい)」Dobie Gray
作詞曲:Mentor Williams
from 『Drift Away』(1973年)

※「明日なきさすらい」は、同年に元ズー・ニー・ヴー町田義人が『白いサンゴ礁』というレコードで、ヤング101と共に安井かずみの日本語詞でカヴァーしています(編曲は木田高介)。ドビーにも負けず劣らずの熱唱で素晴らしい出来のカヴァー、愛聴しています。

※この記事をアップしてから間もなく1月17日にレジー・ヤングが亡くなったとの報せが...。そんなことになるなら書くんではなかったと思ったけども、生前に書けたから追悼文にならなくてよかったとも思う。彼の名演が記録されたレコードはたくさんあるので、これからもまだまだ聴くのが楽しみなギタリストなのです。私の心の奥底まで響く素晴らしいギター演奏をありがとうございます。