レコードは果てしなく

好きなレコードや観たライヴのことを喋ります。'79年生まれ。

2022.5.29『青木孝明「声」CD発売記念ライブ』青木孝明/綿内克幸/冬支度/西村哲也@雲州堂

カーリングにハマっている。冬の北京五輪で日本代表ロコ・ソラーレが銀メダルを獲得、彼女たちのジェットコースターのように笑いあり涙あり感情が溢れ出す戦いぶりを観ていて(元々カーリング好きではあったが)ブーム再燃、もっと深くカーリングを知りたいと過去の様々な大会の試合映像を観ているうちにズブズブと...沼である。この日(5月29日)は例年よりも長いオリンピックシーズン最後の締めくくりの大きな大会、日本カーリング選手権の男女の決勝が行われる日でもあった。音楽脳の私なので、カーリングを観ているとチームが何だかロックバンドのように見えてくる。4人組(+1)というメンバー構成、リードとセカンドは展開の土台とリズムを作るドラム&ベース、サードは渋いプレイや華やかなプレイでお膳立てするギタリスト、フォースは最後に試合をビシッと決めるボーカリスト、フィフス(リザーブ)はどこでも対応できるキーボードだろうか、そんなことを想像すると余計に...。カーリング選手(カーラー)はインタビューなどでよく「カーリングを楽しみます」と言うが、実際に試合中でも笑顔がよく見られ時には大爆笑している。他の団体競技ではあまり見られない光景である。カーリングはなかなか思い通りに行かないのが魅力、刻々と変化するアイスの上で相手との戦いというよりも自分との戦いの要素が強いようで、メンタルの影響がもろにショットに出るように思える。だから、ミスが出て難しい局面になったとしても、その状況を楽しむ、笑顔で前向きに気持ちを上げていくことはとても大切で、ピンチをいっぺんに打開するミラクルショットや思わぬラッキーショットが生まれたりする。いわゆるスポ根的なものではない形で、とても人間臭いスポーツだなぁと思うし、そこが大好き。えっと...カーリングの話じゃないか(笑)。けれども、青木孝明さんのステージングはそれに似た人間臭さが全身から出ていて、歌って演奏するのが楽しい!嬉しい!という姿を観ていると本当に幸せな気持ちになる。これが観たかった、清々しい。

雲州堂にて、青木孝明さんのニューアルバム『声』CD発売記念ライブ・大阪編。元々は2月に開催される予定だったが、新型コロナウィルス感染拡大により5月に延期されるという...延期には慣れっことは言え、心から楽しみにしていたイベントなので、この3か月の延期期間がとてつもなく長かった。何とか感染状況も落ち着いてきて無事に開催、共演陣が豪華ということもあり、待ちに待ったファンが各地から雲州堂に集結し増席の満席。皆さんのお元気そうな顔が見れて嬉しい、「お久しぶりですね」を何度言っただろうか。光が差してきました。

トップバッターは、地元から冬支度。安田支度(vo,a.g)、斎藤祢々子(vo,fl,acc)、渡瀬"SEN"千尋(dr,cho)+北里修(key)の4人組、浪速のグッドタイムフォークロックバンド。2020年2月の東京での冬支度イベントで青木孝明さんと共演し、その縁もあり今回の大抜擢出演に。これほどたくさんのお客さん、初見の方も多いという状況はかなり久しぶりでは無かろうか、観てる私も緊張していたが、初っ端の挨拶での「ありがとうございました」「もう打ち上げですか」というやり取りでほぐれた。会場の雲州堂は冬支度のホームグラウンド、「主」と言ってもよいくらい知り尽くしているし、PA小谷さんとの音作りバランスは完璧、もういつも通りの演奏で会場を心地良く温める。セットリストは「初雪」「週に三日は自己嫌悪」「顔立ち」「コンビニコーヒーブルース」「天気屋」など最新曲「夜半過ぎ」まで冬支度ベストヒットパレードで、きっと初見の方のハートも掴んだであろう(ことを祈る)。このコロナ禍でも隙間を縫って歩みを止めずライヴ活動を続け、歌とバンドアンサンブルはどんどん逞しくなってきた(久々に観られた方も驚いたのでは)。ラストは、斎藤さんのフルート祭り「眠り羊が丘越えて」、お馴染みではあるが、この大舞台でもインストナンバーで締める心意気、カッコいいなぁと思う。

青木孝明さんの盟友・綿内克幸さんは、青木さんとのデュオ編成で。綿内さんのライヴを観るのは2020年11月同じく雲州堂での『almost green』発売記念ライヴ以来、あの時は青木さんのギター&ピアノ、小里誠さんと阿部耕作さんの強力リズム隊、ゲストに西村哲也さんというスーパーロックバンド編成だった。今回はちょっと寂しいデュオ...と思いきや、二人だけでも百人力、バンドにも劣らぬ力強い歌と演奏で素晴らしかった。特に、冒頭のアコースティックギター二本でのエヴァリー・ブラザーズのような土埃舞うハーモニーが雲州堂に合っていて、実に爽快だった。思わず、アメリカやぁ...と唸った。それにしても、綿内さんと青木さんはシュッと身長が高く、ただでさえ高い雲州堂の舞台で、ステージ映えハンパない。綿内さんの男臭く骨太でロマンチックな歌声と青木さんの全力ギター全力コーラスもとにかくでっかい、ズドーンと飛び込んできた。また、途中で今回のスペシャルギターゲスト西村哲也さんが加わりトリオになる場面もあり。「FLOWERS IN THE SUN~風がはこぶ詩」「星に祈りを」の2曲、レコードでは前者は西村さん、後者は名手・駒沢裕城さんの演奏によるどちらもペダルスティールが印象的なメロウナンバーで、今回はそれを西村さんがエレキギター(黒のストラト)でボリューム奏法を駆使しながら再現...というか、また新たな色彩を施すトロトロにとろける演奏。スライドバーを使ったりディレイもかけていたのか、どこかサイケでドリーミーなサウンド...綿内さんとのアメリカンな世界とは異なる色合いだが、不思議にマッチしていて、ものすごい、ウットリ時間だった。それで、そのトリオでのステージ中、綿内さんのギターの4弦が切れて張り替えている時に...青木さんが「朝に西村さんと二人で練習したスタジオの店員が、ずっとHOTEIモデルのギターをぶら下げて接客していて、可笑しくてしょうがなくて」と涙を流して思い出し笑いをしていたら、綿内さんがドン!ドン!と工具を落とすというツッコミ?で見事なコンビネーションを見せてくれた。あと、青木さんが出だしのギターをミスってしまった時に、青木さんが綿内さんに「言っておくけど、(イントロで)一人で演奏するのは嫌いなんだよ!」と愚痴ってたり、微笑ましい光景も見られて、ますます楽しかった。

今宵の主役、青木孝さんのステージ。3曲ほど青木さんが一人で演奏してからは西村哲也さんとのデュオ編成で、もちろんニューアルバム『声』の曲を中心に。アルバム自体もタイトルが示す通りに青木さんの歌「声」をしっかり聴かせる為のシンプルなアレンジと最小限のアンサンブルで作られているので、デュオという形が自然である。言葉のひとつひとつを噛みしめるように丁寧に心を込めて歌う青木さんに、そっと寄り添い、こちらもひとつひとつ大事に音を紡いでいく西村さん。人の気持ちの奥底を見つめる内省的で決して明るくはない青木さんの歌世界と、西村さんのリリカルなギタープレイとの相性がピッタリなのである。そんな風に静かでスローな曲が多いのだけど、決してまったりとしない緊張感と青木さんの歌った後の弾けっぷりで、前述したとおりに清々しい気分になる。私的にはピアノを弾き歌う青木さんがとりわけ好きで、ガンガンとロッキンなリズムが最高なのだなぁ(西村さんもその勢いに必死に食らいつく)。青木さんは西村さんと演奏できることが本当に嬉しそうで、女子高生みたいにキャッキャと喜んでいるシーンもあった。綿内さんとの時もそうだったが、西村さんはレコードではエレキシタールやペダルスティール、マンドリンなどエレキギター以外の楽器も弾いており、そのフィーリングを取り入れた演奏やアレンジも素晴らしく、引き出しの多さに改めて感動。鳴らしたい音や旋律があってこその技、ただのパフォーマンスではない。BAND EXPOでも歌っていたコーノカオル作「流星塵」では、音源だとフェードアウトする西村さんの美しすぎる星屑ギターソロの続きが聴けて感涙、感無量である。続いて、BAND EXPO繋ぎで青木さん作の名曲「Switch」を演奏してくれたのだが、これがもう熱いのなんの!バンドの時の西村さんのあの「キレまくっていた」ギターソロが復活、この大興奮は久しぶりである。西村さんにそうさせるのは今や青木さんしかいないかもしれない、感謝感謝。本編最後は青春の爽やかカントリーロック「君の名前」で、鳴りやまない拍手の中...アンコール1曲目は、青木さんと言えばの代表曲「ドライヴ」で感動の嵐再び、青木さんはまだ旅の途中。そして、フィナーレは今また絶好調のみんなのロックの先輩ムーンライダーズ「くれない埠頭」を出演者全員でのセッション、コアなライダーズファンが見つめる中を冬支度が健闘して、まさしく大団円。

最後の出演者全員セッション「くれない埠頭」演奏前、緊張気味の冬支度の面々...

というわけで間違いなく大満足の夜だったのだけど、ひとつだけ惜しむらくはアルバムの中で屈指に好きだったゴスペルバラード「邂逅」が聴けなかったこと。伊藤隆博さんが弾くピアノが無いと難しい曲なので仕方がないのだけど...これは次の楽しみに取っておくということで。青木さん、関西でワンマンもやりたいと仰っていました、伊藤さんと西村さんと一緒に...どうか実現しますように。

あと...今回のイベントでは、光栄なことに幕間時間に流すBGMの選曲をさせて頂きました。綿内さんの雲州堂でのライヴの時、青木さんが「(BGM係に)頼めばよかったなぁ」と言ってくれ、主催者さんから依頼がありました。即決で、やります!ということで。青木さんと言えば、「幻の国 EXPO'70」なんて曲もありますが、真っ先に日本万国博覧会が思い浮かんだので、1970年に発表された洋楽ポップスを選びました。大ヒット曲があれば全くヒットしてない曲も、ちょっと捻ったカヴァー曲もミックスして、なかなか楽しい内容になったかなぁと。音源は実際に70年当時のレコードを使っているので、リアルガチな特集となっております...

ソフトロック多め、そういう時代なのですね。ちなみに、私はまだ全然生まれてません...