レコードは果てしなく

好きなレコードや観たライヴのことを喋ります。'79年生まれ。

【私の好きな歌027】「スプリンクラー」山下達郎

平成31年4月8日、塚本ハウリンバーで伊藤広規・Nacomi・前島文子によるユニット ”NA-KOKI with FUMIchan" のライヴを観る。言わずもがな山下達郎バンドの40年にも渡って不動のベーシストである伊藤広規さんと大好きな京都屈指の可憐なブルースドラマー前島文子さんがリズム隊を組むというので、居ても立ってもいられなくなった。数多くのセッションで引っ張りだこの前島さんですが、私にとっては京都版の西村哲也バンドでの彼女がお馴染み。西村バンドの前ドラマー五十川清さん(あのEP-4三条通さんです)が亡くなられて、失意の西村さんを救ってくれた(つまり、私にとっても救世主)前島さんは、2010年11月15日の拾得ライヴ以来PORK PIE HATS~彼のラビッツとかれこれ9年のお付き合い。様々な音楽要素が散らばる西村ワールドにも柔軟に対応し、歌心を真ん中にしなやかにキレキレのビートを叩き出す姿にいつも惚れ惚れする。私と同い年なので、そういう意味でも、特別な存在で自慢のドラマー。西村さんのライヴの時は、もしかしたら彼女の気持ちになって観ていたりするかもしれない(怖い)。そんな前島さんに「好きなドラマーは誰ですか?」と訊くと、即座に「青山純さん!」と返ってくる。7年前に前島さんがNacomiさんのバンドで伊藤広規さんのバンドと共演した時に、憧れの青山純さんのドラムセットで叩いたという話を聞いて驚いたのだけど、今回はついに青山さんの相棒の広規さんとのセッション、想いは通じるんだなぁとまざまざと実感。心から楽しそうに演奏する前島さんを観ていると、私まで嬉しくなる。広規さんからも「ドラムいいねぇ~、青山純子に改名したら?」という最上の誉め言葉をもらっていた。この日のライヴは、ボニー・レイットみたく粋で麗しいブルースシンガー&ギタリストNacomiさんのオリジナル曲(『Bluesy Pop』というアルバムは広規さんのプロデュース)だけでなく、カヴァーも多数演奏。クリーム「サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ」やレッド・ツェッペリン「ブラック・ドッグ」(マジかよ!と客席から)、スティング「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」からレディオヘッドまで!Nacomiさん曰く「普段はアンプ直結かエフェクター1個つなぐくらいですが、今日は4個つないでます」というロックナンバーがズラリ。カッコイイのになんか可笑しくて、ニヤニヤが止まらない。1曲デュエットで歌ったTAKU&ブギーロケッツというバンドのボーカル&ギターTAKUさんの見た目も歌声も男前な歌いっぷりも印象的だった。そして...皆が頭の片隅で思っていた演るのか?演らないのか?のモヤモヤが晴れる時!本編ラストは満を持して達郎ナンバーを。しかも、まさかの「アトムの子」だ!! 生フィル・スペクターというべき大人数で生み出すグルーヴと音圧の塊のような曲をたった三人のトリオ(+お客さんのタンバリン)で演奏、広規さんも初めての試みだったそうだが、前島さんがアフリカの陣太鼓のごとくタムを乱れ打ち始めた途端に興奮マックス、そこに絡みつく広規さんのあのベースライン!あの音!が...ここは何千人規模ではなく40人でぎっしり満員の空間と距離感で浴びる贅沢な幸せよ(涙)。この多幸感溢れる余韻で今年は生きていけそうな気さえする。とにかくこんな夢のような機会を作ってくれたNacomiさんに感謝感謝、もちろん歌もギタープレイ(青山純さんが言うところのイイ塩梅にレイドバックした感じ)も最高でした。

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山下達郎スプリンクラー」シングル盤。鈴木英人さんのイラストジャケ。

伊藤広規さんにお会いできるので、あわよくばサインをもらおうとバッグに忍ばせていたのが、山下達郎「アトムの子」ではなく、スプリンクラーのシングル盤。結局、いろんなお客さん(人生の先輩方)と話されている中を突っ込んでいく勇気はなく、サインはもらえなかったが...。「スプリンクラー」は1983年の11作目のシングルで、オリジナルアルバムには未収録。”君なしでは生きられない 悲しい言葉さ” 達郎さんのロック魂がジリジリと滲み出たこの曲がもう好きで好きで堪らない。歌だけでなくバンドの演奏からも、雨に降られずぶ濡れになった孤独で寂しい都会の男の背中が見える。伊藤広規さん特有のゴリゴリと鳴る音色で奏でる、雨を含んだ革靴で物憂げに歩く重たい足取りのベースラインはロックの名演だろう。もちろん、アスファルトを冷たく打ちつける雨のように刻まれるドラムは青山純さん。そして、間奏でブルーコメッツ井上大輔さんがブロウする愛の炎を吹き消すテナーサックスソロに泣き濡れるのだ。ナイーヴなハードボイルド、憧れる。

スプリンクラー山下達郎(1983年)
作詞・作曲・編曲:山下達郎

カーネーション「One Day」は「スプリンクラー」のグルーヴやムードに影響を受けているのではないかと勝手に思っている...

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ライヴ終了後の記念撮影。左から前島文子さん、伊藤広規さん、Nacomiさん。まさしく両手に花の広規さんの図。ハウリンバーの雰囲気もグッドでした。