レコードは果てしなく

好きなレコードや観たライヴのことを喋ります。'79年生まれ。

『Saramountain』 河野沙羅

今や京都を超えてワールドワイドな活躍を見せているパイレーツ・カヌー。3年くらい前に拾得で東京ローカル・ホンクと一緒にやったライヴを観たが、老若男女お客さんいっぱいであまりの人気の高さにビビった。あ、そうだ。思い返せば、パイレーツ・カヌーのそれぞれのメンバーはそれよりも前に西村哲也さんとの共演ライヴで観ていた。男性陣はテキサス・シュー★シャイン・ボーイズ(通称・靴ピカ)というゴキゲンなバンドで演奏していた(2008年1月12日@ネガポジ)。河野沙羅さん&エリザベス・エタさんは西村哲也生誕50周年記念ライヴ(2009年12月27日@拾得)のゲストで初めて観て、あまりに本格的な歌声の美しさと歌の上手さはちょっと衝撃的だった。その後、二人のデュオはコモンカフェ(2011年8月20日)でも観たのだけど、グランドファーザーズ「恋の元素記号」を西村さんが歌い、彼女らがコーラスするという今考えればすさまじくレアな光景があった。もっと思い返すと、河野沙羅さんは二人乗りというマンドリンデュオをやっており、西村さんと一緒にツアーを回ったりしていたようだ。いつだったか西村さんの拾得でのライヴ後、マスターのテリーさんが「二人乗りの次のアルバムは鈴木茂プロデュースらしいよ!」と西村さんやバンドメンバーと喋っているのを聞いたことがあった(マジかよ、と心の中でつぶやいた)。結局、私は二人乗りを観れず仕舞いだったが、ずっと気にはなっていた。そんなこんなで沙羅さんと西村さんとの付き合いは長く、そして、密かにこんな素敵なレコードを作っていたという。

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Produced, Recorded & Mixed by 西村哲也
All songs written by 河野沙羅

全7曲日本語詞の懐かしく心地良い名曲揃い。どれも後にパイレーツ・カヌーでは英語詞で再演されているが、フォーキーで土の匂いのするパイレーツ・カヌー版とは随分と趣が違って、ここでは(パイレーツ・カヌーの面々が参加していても)非常にカラフルでポップな仕上がりになっている。西村哲也 played Guitar & Bass, and Other Cool Stuffで、もちろんエレクトリックギターやスライドギターはアーシーに泣く西村哲也節全開、これはもう完全に西村哲也サウンドと言ってもよいだろう。出来れば、同時期に録音されていた西村ソロ『ORANGE』(2010年)と共に聴いてもらうと面白いのではと思う。

ORANGE

ORANGE

そうそう、『ORANGE』収録の「蛙」では沙羅さんがコーラスで参加しているのだが、西村さんが「〇〇の蛙」というタイトルにしたいのだけど何がいいかな?と沙羅さんに訊いたところ、西村さんだったら「蛙」でいいじゃないですかと答えたという微笑ましいエピソード。そして、この『Saramountain』では、沙羅さんは(見た目とは異なる?たくましく母性ある)ボーカルとマンドリンを弾いていて、あとは西村さんにお任せという感じだったらしく、いつの間にかロック調に変身していたり、ゴージャスなストリングスが入ってハリウッドみたいになっていたりして驚きの連続だったようだ。そんな自由奔放なアイデア溢れるアレンジと人肌の温もりある宅録サウンドが調和したチャーミングなポップス集。ひしゃげたエレキギターの響きが狂おしいスワンプロック「クレイジー・クリシー」、細野晴臣風味のんびりエキゾな「船長さん」、ザ・バンドで健気な不倫ソング「山男とシティーガール」あたりがお気に入り。さりげなく、名盤。


『Saramountain』 河野沙羅(2010年)
01. サイン/02. クレイジー・クリシー/03. ほたる/04. 忘れておくれ
05. カーテン/06. 船長さん/07. 山男とシティーガー

Musicians:
河野沙羅、西村哲也、進藤了彦、岩城一彦、夏秋文尚、田辺晋一
塩浜玲子、曽根川昭雄、ハント鈴加