レコードは果てしなく

好きなレコードや観たライヴのことを喋ります。'79年生まれ。

『rooftop talks』夢見る港

春ですね、春ですか?ここ最近の寒暖差の激しさになかなか身体がついて行けませんが、春先っていつもこんな感じでしたっけね。季節の記憶力が悪すぎて、思い出せませんが...。そんな今のこの気温よりあともう少し暖かい春らしい春になってくれたら、自然と聴きたくなる曲がありまして。それがメリー・ホプキンの「夢みる港(Temma Harbour)」(1970)、春の光が差してキラキラ反射する海の水面が目に浮かぶフォーキーでキュートなポップナンバーです。聴きながら日本盤シングルのジャケットに写る美しいメリー・ホプキンを眺めてほっこりし、その上の曲名に目を遣れば、続けて聴きたくなるのが...

”夢見る港” という、まさにその春の名曲の邦題を名前に頂戴した素敵なバンドの『rooftop talks』 という素敵なアルバム。夢見る港とは、長坂雅司さん(ex. chikisounds)率いる6人組の大所帯フォークロック楽団(roppenやbjonsのメンバーがいてややこしいとパイドパイパーハウスでもっぱら話題に・笑)で、『rooftop talks』は昨年発表された彼らの2ndアルバム(配信)。トロンボーンやフルートの温もり、バンジョーマンドリンが効いたアーシーでありながら足取りは軽やかなバンドサウンド。ふわりと心地良い潮風が吹く。プロコル・ハルムが ”海のザ・バンド” であれば、夢見る港はそのまんま ”波止場のザ・バンド” とでも呼びたいような。とか言うと渋いルーツ系のバンドかと思われそうだけど、決してそういうわけではなく、色んな音楽の要素がまぶされた今の時代にもしっかり通ずる開かれたポップなイイ曲満載。エモい、なんていう流行りの言葉があてはまるような瞬間も多々ある。そして、アルバムを聴き終えた時に、長坂さんのじんと胸に響く気だるく色っぽいソウルフルなボーカルが耳に残るのが、何より素晴らしい。もう大好きなボーカリストだ。『rooftop talks』というタイトルの通り、屋根の上で気の置けない人と温度や匂いや風を感じながら他愛ない世間話だったり思い出話だったりシリアスな話だったり時間を忘れて緩やかに続くお喋りのようなアルバム。リリースは秋だったけど、これからの春から夏にかけてピッタリだと思う。

rooftop talks

rooftop talks

  • 夢見る港
  • J-Pop
  • ¥1650

力強くも切ないイントロがワクワクと不安が混ざり合う春の到来を告げるオープニングナンバー「spring」、軽快なマンドリンのリズムに乗って桜並木をスキップしたくなる。続く「run run run」はその名のごとく疾走する夏の風切るポップナンバーで、今度は海に向かって全速力で駆け出したくなる。ウキウキする二曲の後はしっとりと「夜の夏」、夏の夜ではなく夜の夏というちょっと捻じれたノスタルジー、都会に滲む風鈴の音色や蚊取り線香の匂い。アナログ7inchでシングルカットされたA面曲「コーヒー」は想像以上にエモく迫ってくる、一杯のコーヒーを命がけで淹れるマスターと命がけで飲む人、奥田民生以来の「コーヒー」ロックの名曲だろう。休みが必要だ、インスト曲の「真夜中にレオーネを想ふ」でふっと一息、とは言えdodoのハミングは摩訶不思議な味わい。風吹けよ風吹けよ、じわりじわりと感動的な「白い部屋」、歌心溢れる穏やかで狂おしいバンドの演奏にうっとりしながら白い壁をただぼんやり見つめ物思いに耽る。ヘヴィーにひしゃげたリズムにオルガンとワウギターによる強力なイントロやサイケに絡みつくフルートがトラフィックを思わせる「時間」、最初から最後まで淀みなく謎の展開を見せるヤバイ曲...と、ズブズブとディープな底なし沼に引きずり込まれそうなところでマリオのようにピョーンと跳ね上がりアルバム序盤に戻ったかのような清涼感溢れるギターポップならぬマンドリンポップ「8月の神」、高らかに鳴るトロンボーンよ、やたらと眩しい多幸感に包まれる。熱いスープを息吹きかけて冷ますかのように小刻みに刻まれるフルートのリズムが印象的な「日々のスープ」、ドラマチックに心を揺さぶられながら日々のささやかな喜びに感謝して、アルバムを閉じる。では、御茶ノ水あたりで会いましょう。


夢見る港 「rooftop talks」トレイラー

『rooftop talks』 夢見る港(2018年)

01. spring
02. run run run
03. 夜の夏
04. コーヒー
05. 真夜中にレオーネを想ふ
06. 白い部屋
07. 時間
08. 8月の神
09. 日々のスープ

夢見る港 ...
長坂雅司(Vo, A.G)、並木万実(Trombone, Flute, Cho)、アダチヨウスケ(Banjo, Mandolin, Cho)、橋本大輔(Ba)、北山昌樹(Drs)、松野寛広(Key)

Guest Player ...
kami(E.G)、コウノハイジ(E.G)、塚田直(E.G)、うちだあやこ(dodo. Cho)、不知火庵(dodo. Cho)


夢見る港「コーヒー」MV

☝なかなか衝撃な...失礼を承知で言いますが、長坂さんは女子にコーヒーをかけられるのが似合うような(笑)。昨年大阪の雲州堂で冬支度や大場ともよさんが出演のライヴで長坂さんと並木さんにお会いしましたが、とってもええ人たちでした。冬支度にも紹介できたので、関西でもフルメンバーの夢見る港のライヴが観れたらなぁと望んでいます。