『丘をこえて』たけとんぼ
世の中は”平成最後の”祭り絶賛開催中、なんだか浮かれてる感じで終わりって気がしませんが。そんな中で、ロックスターのユーヤさんとショーケンが続けて逝ってしまうという悲しみと寂しさで頭が冷静に...やはりひとつの時代の終わりを感じざるを得ません。それは平成というよりも、私の心の中で続いている昭和の終わりというか...(思わず顔が思い浮かんだジュリーには長生きしてもらわないと)。とか言いながら、年号が変わっても私自身は相変わらずだろうし、音楽が無くなるわけでもないし、別に悲観してるわけでもないですよ。気軽にいろんな時代の音楽にアクセスできる環境を生かして、今の若い人たちでもえらく昭和の香りを放っているバンドが思いの外たくさん出てきているような印象もあります。むしろ、リアルタイム世代じゃないからこその面白さや新しさがあったり。なので、もうすぐ中年入りする私も「最近の若いモンわ~」なんて偉そうに分かったようなこと言わないように気をつけねばと改めて戒める今日この頃です。
そんな私が今最も期待しているナウなヤングのロックバンド、平成最後の、もとい、心の昭和最後のブライテストホープが ”たけとんぼ” です。ギター&ボーカル平松稜大さんとドラムス&ボーカルきむらさとしさんによるフォークロック歌謡バンド。はっぴいえんど、はちみつぱい、ごまのはえ...70年代のひらがなバンドの系譜にあるフォーキーでアーシーな味わい、AMERICAやCS&Nなどから影響を受けた米国西海岸系コーラス、ふぉーくや昭和歌謡にも通ずる一緒に歌いたくなる親しみやすいメロディーがとても魅力的。72年くらいからそのまま飛び出てきたようなルックスやギター弾いて歌い出したら止まらない心から歌が溢れてるキャラクターも人懐こくチャーミングで、老若男女幅広い世代から愛されるでしょう。三年ほど前のある日の夕方サンテレビでテレ東「5時に夢中」(ゲストが弘田三枝子さんだった!)を観ていると、途中の追跡ベスト8のコーナーで今若者の間で昭和歌謡ブームが来てるらしいが本当か?を調査するということで、インタビューを受けていたディスクユニオン昭和歌謡館から出てきたある青年が、昭和歌謡の想いを饒舌に語り歌いまくり、何だコイツは?ヤバイ奴がいると思っていたら、それが平松さんだったというエピソードも(笑)。昨年、拾得での世田谷ピンポンズのレコ発でバックバンドやサポートアクトとして一緒に来ていたたけとんぼの面々と初めて会って話して、いーはとーゔの菊地芳将さんと共に三人が並んで歌ったりキャッキャしてる感じが微笑ましくずっと観ていたかった(平松さんは私の音楽語りを愛情があって好きですと褒めてくれたし)。また、私の持論に ”斉藤哲夫好きは信用できる” というのがあるのだけど、彼らもまさにそう...どころか、今や哲夫さんから可愛がられているほど。たけとんぼは、斉藤哲夫さんが若き哲学者と呼ばれていた初期のURCフォーク期からCBSソニーに移って以降の肩の力が抜けてビートルズ的なポップセンスがふわりと表に出てきた頃の音楽性に近いかもしれない。あるいは『東京』のサニーデイ・サービスなんかも思い出したけど、それよりもむしろ70年代のサニーデイと呼ばれた?銀河鉄道だろうか(メガネのボーカルと似てるし)。とかなんとか思い浮かぶものがいっぱい、話すと長くなるのでここらで止めよう(笑)。
では、昨年のその拾得ライヴに合わせて持って来てくれた、たけとんぼの2nd EPというかファーストミニアルバム『丘をこえて』の話を。このレコードは、平松さんの田舎のおばあちゃん家に機材を持ち込んで気の合う演奏仲間たちと合宿生活しながらセッション録音した文字通りのホームレコーディング作品。70年代のシンガーソングライター系の音楽を愛するものならきっと憧れる、細野晴臣『HOSONO HOUSE』やジェイムス・テイラー『One Man Dog』のあの独特な風合いの温もりサウンドを目指したのだろうが、まさしくそれが成功しているし、彼らの音楽やキャラクターになんのストレスもなくハマっている。部屋のスピーカーで鳴らして炬燵の中で聴くとホント気持ちいいバンドサウンド、心と体がポカポカだ。みんなでせーので録っているので、演奏が始まる前の合図の”ハイっ”や”行きまぁす”とか曲終わりのノイズまでが愛おしい。そんな見事なバランスの録音とミックスは足立洋介さん、「あいつらは音楽以外のことはどうしようもない何も決められないから、オレがやるしかないんですよ(笑)」と話してくれた面倒見のいい頼りになる先輩だ。集ったゲストミュージシャンのニクイばかりの歌心で渋く瑞々しいレイドバック感溢れる演奏もまた素晴らしく、平松&きむらの青春のハーモニーをしっかり引き立てている。全5曲のミニアルバムというボリュームではあるが、みそさざい氏が描く雰囲気バッチリの素敵すぎるジャケット含め、今のたけとんぼワールドが余すことなくパッケージされている軽やかに濃い名盤だと思う。さぁ、空高く丘をこえてどこまでも飛んで行け、たけとんぼ。
電車にガタゴト揺られて弾むようなリズムで青年のむず痒い苦悩を歌う「こころにテレフォン」、似ているというわけではないが、イントロでつまびかれるアコースティックギターの調べを聴いてGAROのファーストアルバムA面1曲目「一人で行くさ」と同じ景色が思い浮かんだ。アルバムタイトル曲「丘をこえて」はザ・バンドの「ザ・ウェイト」を彷彿とさせるフォークロックの名曲、マンドリンが効いたイナタいグルーヴにグッと酔いしれてると切り込んでくる三輪卓也さんの熱くロックなギターソロにジリジリと胸を焦がす。「水平線」はほのぼのとしたフォークソングでほっこりするが、ひと夏の淡い恋心を思い出し、ちょっぴりしょっぱい気持ちに。ハーモニカが狂おしく鳴り響くニール・ヤング「孤独の旅路」調のヘヴィーな「ぼくはトマトくん」はTHE FOWLSというバンドの金延幸子に名前が似た安延沙希子さんという方の曲、不思議な歌詞だがヌメリと突き刺さるものがある。一転してラストは曲名通りの儚く爽やかなAMERICA直系のメロウなソフトロック「秋風の少女」、ルルルーと歌うハミングとアコースティックギターの音色との美しい重なりにときめきが止まらない。さぁて、炬燵から出ようか。
『丘をこえて』 たけとんぼ(2018年)
01. こころにテレフォン(平松稜大)
02. 丘をこえて(平松稜大)
03. 水平線(平松稜大)
04. ぼくはトマトくん(安延沙季子)
05. 秋風の少女(平松稜大)
たけとんぼ...
平松稜大(vo, a.guitar)、きむらさとし(drs, cho)
Guest Player...
三輪卓也(e.guitar)、ベラ氏(e.guitar, ba)、菊地芳将(ba, mandolin)
録音・ミックス・マスタリング...
足立洋介
録音場所...
伊那市 平松邸
イラストレーション...
仲本直輝(みそさざい)
デザイン...
きむらさとし、仲本直輝(みそさざい)