レコードは果てしなく

好きなレコードや観たライヴのことを喋ります。'79年生まれ。

『sweet twilight』 roppen

長い一週間だった...。火曜の関西への巨大台風直撃。労働中に1階のフロアに水が浸入してきたと思えば職場付近は見る見る冠水し、これはヤバイと2階に全員が一時避難、窓の隙間から見た水浸しの光景に背筋が凍る...帰りは信号や街灯が消え真っ暗闇でドブ川を歩く場面もあった。今でも道の真ん中にコンテナが転がっている。翌日、欠勤していた同僚に大変だったよと言ったら「そもそも、行っちゃダメですよ」と返され、ハイ、その通りです。体力、精神力共に大ダメージ、いっぺんに口内炎が出来た。水曜もヘトヘトながら働き、帰ってからは木曜休みなので夜更かししていたら、北海道で巨大地震のニュース...もうどうなっちゃってるの?幸い生きているし、家も停電とかもなく無事ではあったので、結果私自身には大した被害は無かったのだけど、ほとほとに疲れた。

冠水によるドブ川で泥まみれになった足で駅から家までトボトボ帰る道すがら、私のiPodからふと流れてきたB.J.トーマス「雨にぬれたら」。もはや雨にぬれるどころの状況ではなかったが、バート・バカラックによる完璧なポップソングのあまりの美しさにただ聴き惚れた。その3分の間は現実なんかどこかに行って、音楽ってええなぁと単純に感動。少しだけ気分がシフトする、癒しとは違う何か。私は労働帰りのバスの中で、意図的にroppen「スイートトワイライト」をよく聴く。バスから見える夜の街の風景とまろやかに溶け込み、疲れた身体と心に沁み込んでくる。現実なんかどこかに行って、ただひたすら、メロウな名曲に沁みているメロウな俺、に酔いしれる。三文役者のような人間だが、映画やドラマの主人公になった気分、音楽聴いている時くらいええやないの。


roppen 「Sweet Twilight」MV

東京発ウッドストックサウンドを標榜するroppenの待望の1stフルアルバム『sweet twilight』は、表題曲のみならず、全体的にメロウな空気に包まれた、まさしくスイートでトワイライトな名盤だ。前作のミニアルバム『旅の途中』よりもバラエティに富んだ楽曲を聴かせてくれ、サウンドもグッと洗練された印象。フロントマン中村浩章さんの生々しいアコースティックギターとちょっと頼りなくも色っぽい歌声も前面に出てきて堂々と響き渡る、意外にハートは熱い。名人・渡瀬賢吾さんの歌心たっぷりのオブリとソロをキメまくるエレクトリックギターと松野寛広さんの水面を揺れる光の粒のごとく柔らかいエレクトリックピアノの響きはやはりroppen特有なメロウの肝。ジョー・ママのジョエル・オブライエン&チャールズ・ラーキーを彷彿とさせる新加入のドラムス竹川悟史さん(ex.森は生きている)&ベース橋本大輔さんのリズム隊による隙間を活かした熟練のグルーヴ心地良し。ゲスト陣の仕事ぶりも素晴らしく、山田竜輝さんのサックスはオトナのムードをムンムンに演出し、「みちかけ」での鳥羽修さんVS渡瀬賢吾さんの白熱のギターソロ合戦は愉快痛快で、dodoうちだあやこさんのコーラスは今作でもしっとり艶やかに花を添える。私は来年で40歳を迎える若さにかまけていられなくなってきて草臥れてきた(笑)年齢だが、ほぼ同世代の彼らの音楽&サウンドは、そんな自分にジャストフィット。勝手に同志と思ってます、嬉しい。

SWEET TWILIGHT

SWEET TWILIGHT

アルバムは軽やかなグッドタイムポップ「走馬灯」でスタート、影絵の馬がスキップするようなドラムにスライドギターがゴキゲンに歌っている。イントロから一瞬にして昼間から夜明け前へ、メロウすぎる名曲「スイートトワイライト」。間奏のエイモス・ギャレット風味の星屑ギターソロとラストのむせび泣くサックスソロに酔いどれ朝帰りのスイートな悲哀、うちだコーラスは酔っぱらいに優しい。二日酔いの寝起きは「曇り空」が似合う晴れないセンチメンタル、アコースティックギターのフレットをキュッキュッと滑るノイズが切なく響く。ニューオーリンズなリズムに乗ってはっちゃけるドンチャン騒ぎ「みちかけ」、切れ味鋭い憧れの鳥羽ギターを迎え撃つ渡瀬ギターの奮闘ぶりに注耳。そんな賑やかな興奮はすぐさま涙へと変わるロマンチックなバラード「小さな羽根」、溢れんばかりのロンリネス...にジーンときてウットリしていたらムーディー極まりないサックスが鳴り響いてきて背筋がゾクッとする「セピアの馬車」、サビに向かってどんどんと開放されていく曲展開が堪らない。この2曲の繋ぎが私的ハイライトかも。都会の喧騒を緩やかに風を切るシティポップ「話の続き」、曲調が似ているからか前作の「ときめきの花」のギターフレーズを密かに入れ込む遊び心にニヤリ。見事なまでに文字通りのトレインソング「発車のベルが鳴り響く」はナイスグルーヴ!の一言、間奏のメンバーソロ回しセッション燃える!roppenいいバンドだねぇと酒が進む。ラストは新機軸か?どこか風変わりなポップナンバー「喫煙所」、打ち込みではないがテクノポップのような質感で謎の疾走感に満ちている。煙草を吸わない松野さんが書いたやけっぱちな喫煙者の歌詞も最高で、曲も含めなぜだかはっぴいえんど「抱きしめたい」が思い浮かんだり。と言いながら思いついたが、別名『夜街ろまん』とでも名付けたいアルバムである。


roppen 1st Full Album 「Sweet Twilight」trailer

『sweet twilight』 roppen(2018年)

01. 走馬灯
02. スイートトワイライト
03. 曇り空
04. みちかけ
05. 小さな羽根
06. セピアの馬車
07. 話の続き
08. 発車のベルが鳴り響く
09. 喫煙所

roppen
中村浩章 Vocal, A.Guitar
橋本大輔 Bass, Chorus
渡瀬賢吾 E.Guitar, Chorus
松野寛広 Keyboard
竹川悟史 Drums, Chorus

Guest Musician
鳥羽修 E.Guitar (M4)
山田竜輝 Sax (M2,M6,M9)
うちだあやこ Chorus (M1,M2)

All songs written by 中村浩章
(except M7 lyrics by 渡瀬賢吾、M9 lyrics by 松野寛広)

Produced & Arranged by roppen
Recorded by 小谷和秀、アダチヨウスケ
Mixed by 谷口雄
Mastered by 鳥羽修 (smalltown studio)

Photography by サイダカオリ
Design by アヤ

※roppenとメンバーが重なる弟分的バンドbjons『SILLY POPS』も併せて聴くと楽しいよ!音楽的な違いを例えるとbjonsがシュガー・ベイブなら、roppenはセンチメンタル・シティ・ロマンス?ちょっと違うか。


bjons / roppen Live at パイドパイパーハウス 2018.07.27