レコードは果てしなく

好きなレコードや観たライヴのことを喋ります。'79年生まれ。

『海が見えたら』 クララズ

はっぴいえんどとティーンエイジファンクラブが出会ったかのような風に乗ってどこまでも歩いて行ける名曲「コンコース」にハートを撃ち抜かれたのは2年前、未だ我が家のiTunesでは最多再生数を誇っているベストヒット。その年のクリスマスにコンピ盤に収録された「サンタ、今でも信じてる」もウルトラキャッチーなパワーポップで爽快であった。そんなクララズが満を持しての1stアルバムを発表、その名は『海が見えたら』。実に旅好きのクララさんらしいタイトルであるが、内容もまさしく旅で目にした美しくも何気ない景色や揺れ動く心象風景がスケッチされた思わず旅に出たくなる、もしくは、旅をした気分になってしまうようなアルバムだ。私は聴いていて青春18切符で電車の旅に出たことを思い出したが、車窓から唐突にバーッと広大な海が見えたら、それだけでテンションはめちゃくちゃ上がるし、オレ旅してるな~とあっさり悦に入ったものである。クララさんのブログで旅日記を読んでいると、会話もいっぱいで必ず良い出会いがあって旅上手だなぁといつも感心する。私なんて黙々と歩いてるだけだから、特別語れるような旅の思い出はないが、ここではないどこかの風景や匂いを感じるだけでも心は清々しく開放される。できれば定期的に旅したいものだが、なかなかそうはいかないので、このアルバムを聴いて、いつもの通勤電車を旅の途中の1シーン化している。ありがたい存在だ。

海が見えたら

海が見えたら

基本的にクララズのバンド編成はクララさん(Vo,Gt)+アダチヨウスケさん(Ba)+橋本あさ子さん(Dr)というトリオで、そこに名エレキギタリスト渡瀬賢吾さん(roppen, bjons)が加わればハイパークララズ。アルバム7曲中トリオで1曲、ハイパーで5曲、弾き語りで1曲という構成。バンドの演奏はとにかく歯切れのいい骨太なリズムのパワーポップグルーヴで、クララさんの言葉を明瞭に歌う芯の通った伸びやかな歌声との馴染みが良い。オープニングを飾る英語詞の「Just Coffee For Now!」は自主制作EP『ブレンド』収録曲をハイパークララズで録り直したもので、渡瀬さんの風雲急を告げる豪快な砂煙舞うスライドギターの轟きに私のロック魂が刺激される。渡瀬さんはレーナード・スキナード「Free Bird」を意識したそうだが、USインディーポップ調の曲にこういうルーツ感溢れるギターが重なる面白さよ、毎度ワクワクする。テンポもよりズシリと重くなって(と言っても2分22秒)、ますますイカしたロックナンバーに仕上がった...からのクララズ節全開の颯爽とドライヴする超ポップナンバー「エアメール」への繋ぎがあまりにも鮮やか。それこそ海が眼前に広がった時の昂揚感、それは感動的すらある新たな代表曲だ。フォーキーな味わいの「車窓」の歌詞がビシバシくる、”変わればなんか言われ、変わらなくてもなんか言われる”にいやホントそうだよなと...それでも悠然と海を飛びまわるカモメの鳴き声のようなスライドギターの響きにふっと一息。くるりを思わせるノイジーで歪んだ音像のオルタナロック「Lost and Found」では、ちょっぴり懐かしい気持ちになったり。続く「リバー」(そう言えば、くるりにも同じタイトルの曲あったな)はポツンと弾き語り、柔らかく確かに爪弾かれるアコースティックギターの調べと共にしみじみと聴き入る”転げようぜ、石のように”。ニック・ロウのアルバムに1曲だけ入ってるロンサムな弾き語り曲を思い出す、彼女の弾き語りもとても魅力的だ。気怠くぼんやりと海を眺める「12月の海」、やはり似合うのは日本海だろうか。なにもウキウキするだけが旅ではない、どこかセンチメンタルな気分に浸るのもひとつの醍醐味なのだろう。ラストは、こみ上げてくる思いや感情がじわじわと放たれる力強いロックナンバー「TODAY」で、そろそろうちに帰ろうかと旅の終り...であるが新たな旅の始まりでもある。”そうやってずっと、ずっとやってきた”、これからもそうやってずっとやってくのだろう。頼もしいぞクララズ!


クララズ「エアメール」MV

↑ 楽しい!クララズ界隈の人たちが一挙総出演(と言っても、バンドメンバーは出てない!)、たけとんぼの平松さんや中村ジョーさんがイイ味出してます。しかし、みんな仲良しですなぁ。


『海が見えたら』 クララズ(2018年)

01. Just Coffee For Now!
02. エアメール
03. 車窓
04. Lost and Found
05. リバー
06. 12月の海
07. TODAY

All songs written by クララズ(山内光)

クララズ Vocal, Guitar [All]
渡瀬賢吾 Guitar [M1, M2, M3, M6, M7]
アダチヨウスケ Bass [M1, M2, M3, M4, M6, M7]
橋本あさ子 Drums [M1, M2, M3, M4, M6, M7]