レコードは果てしなく

好きなレコードや観たライヴのことを喋ります。'79年生まれ。

『ア、町あかり』町あかり

ハ、ハマッている。完全にハマッている。ロックと同じく(昭和の)歌謡曲を愛する私にとって、彼女の登場はめちゃくちゃ痛快、特大ホームラン級である。私が町あかりという歌手がいると認識したのは、2年前の面影ラッキーホールがOnly Love Hurtsに改名リニューアルするライヴに彼女がゲスト出演するというニュースでだったが、その時は不覚にもスルーしてしまった。なので、今回のメジャーデビューがきっかけでちゃんと知った。YouTubeで彼女の映像をいろいろ観ていると面白すぎて止まらなかった。2年前よりもはるかに歌謡曲狂になっているので、今がジャストタイミングなのだろう、と思うことにする。

これまでも今でも歌謡曲をやっている人がいないわけではないが、得てしてアングラっぽくなったり泥臭くなったりしがちで、もちろんそれはそれで楽しいのだけども、町あかりさんの場合はそういった要素がほとんどなくあっけらかんとカラッとしている。91年生まれの24歳ということで、平成のJ-POP世代。たまたまテレビでやっていた懐メロ番組を観て歌謡曲にハマっていったそうだが、全く歌謡曲世代じゃない人ならではの時代の距離感がこういったユニークな音楽に繋がっているのだろうか。先日彼女が出ていたラジオ番組で、歌謡曲は旧いものというよりも新しいものとして聴いているというようなことを言っていて、思わずそれ分かる!と膝を打った。私は彼女の一回り年上の79年生まれで80年代の歌謡曲はテレビで耳にしていただろうが、正直おぼろげな記憶なので、まさしく彼女と同じように新鮮な感覚で歌謡曲を聴いている。また、YouTubeの町あかり放送局で取り上げているカヴァー曲もいちいちツボだし、おまけにお葬式には岩崎宏美の「未来」を流したい発言まで飛び出すしで...マ、参りました。

そんなわけでメジャーデビューアルバム『ア、町あかり』にハマッている。超ハマッている。80年代風チープな打ち込みのバックトラックとメロディーに素直に乗るスコーンと抜ける明快なボーカルがひたすらに心地良い(変なフェイクでごまかそうとしない本物の歌唱力)。曲名をサビのフレーズにして何度も繰り返し、一度聴いただけで覚えられるメロディーと歌詞の平易さ(しかも、ユーモラス)はこのご時世においてある意味革命的かも。何よりも歌謡曲は歌われてナンボである。代表曲でスーパーウルトラキャッチーな「もぐらたたきのような人」「コテンパン」を聴いて、口ずさまない人なんているのだろうか?我慢しなくていいんだよ。リードトラック「ア、アイシャドウ」の完全無欠なメロディーメイカーぶりもまた素ん晴らしい(“ア、”を付け加えるなんてもう天才!)。ムーディーな演歌ポップス「横浜のすずめ」は高校生の頃に初めて作った曲だそうだが、妙な完成度に嘘だろと驚愕するしかない。祭り囃子アレンジが楽しい「ちょっとここじゃあ言えません」は、何か分からないが嫌味を言われて腹が立ったので復讐しようと思うんだけど“具体的には...ちょっとここじゃあ言えません♪”。言わへんのかい!とツッコミを入れつつも、なんでもかんでも説明しなきゃ気が済まないJ-POPに反して、あまりに何も言わないのに感動した。しかも、きっと無意識に作ってそうなのがまたスゴイんだなぁ。とにかく最初から最後まで全てがキラーチューンで、とてつもなくチャーミングなアルバム。ハイ、コテンパンにされました。

ア、町あかり

ア、町あかり

そんな個性的な音楽だけでなく、(音楽性と見事に一致した)親しみやすいルックス、微笑ましい手作り衣装やイラスト、結構な勢いでのピコピコハンマーの叩きっぷりなどキャラクターも絶妙で、今すぐ大ブレイクしてもおかしくない(本人はそんなにガツガツした上昇志向は無さそうだが)。街や町でどんどん彼女の歌が流れていたら、なんか平和だなぁと思う。


『ア、町あかり』町あかり(2015年)

01. ア、アイシャドウ
02. もぐらたたきのような人
03. それ分かる!
04. さっきも聞いたわその話
05. No Problem(お安い御用)
06. ちょっとここじゃあ言えません
07. 夢という小鳥
08. 横浜のすずめ
09. コテンパン
10. お悩み相談室

全曲 作詞・作曲・歌:町あかり


町あかり - コテンパン(MVショートバージョン) - YouTube