レコードは果てしなく

好きなレコードや観たライヴのことを喋ります。'79年生まれ。

「メトロノーム/アスリート」 CHAINS

twitterで流行している?「ほんとうに衝撃を受け、かつ今でも聴き続けている生涯のお気に入りアルバムを10枚」選ぶ企画のバトンが冬支度の安田支度さんから回ってきて、20代くらいまでに驚き愛聴していた盤を選びながら振り返りが楽しかった。

では、ごく最近に受けた大きな衝撃と言えば何?と訊かれたら、随分と久しぶりに体感したCHAINSのライヴだろう。6月9日ロックの日に京都アバンギルトで開催された、チョウ・ヒョンレとPiCas with 中井大介西村哲也と彼のラビッツ、CHAINSという関西のバンド3組が集結したイベント。三者三様のロックであるも、素晴らしい楽曲と素晴らしい歌唱と素晴らしい演奏しかない凄味を堪能、互いが刺激し合って最後のセッションまで熱のこもった名演が数多く観れた今年上半期屈指の充実したイベントだった。皆キャリアをしっかり重ねもう若くは無いけども(失礼)、今が一番カッコイイと思えるなんて最高じゃないですか!中でも、CHAINSの闘志をメラメラと燃やす気迫と迫力に満ちたROCKとしか言いようのない演奏が半端なかった。彼らのライヴを観るのは、2003年5月30日の心斎橋KNAVEで観たイベント(w/倉橋ヨエコ残像カフェRUNT STAR)以来の15年ぶり(!)2回目。当時から今でもレコードは愛聴しているのにご無沙汰しすぎて申し訳ないと思いつつも、15年後の彼らの地に足が着いた幹の太いたくましい演奏を目の前にして、嗚呼、地道にライヴを積み重ね年輪を増やしてきたのだなぁと感じ入り、猛烈に感動した。カーティス・メイフィールドニール・ヤングの歌声を併せ持ち、ローウェル・ジョージばりの凄まじいスライドギターを弾く新村敦史さんの圧倒的な存在感はもちろんであるが、その後方で、ギターソロは新村さんに任せ、ひたすらリズムギターを弾き続ける横山道明さんの頑固職人ぶりに痺れまくった。ラリー藤本&伊藤拓史リズム隊の歌心が躍動するグルーヴ、丸山桂さんのさりげなく小技の効いた鍵盤の味付けも絶妙で、息を合わせ一致団結して楽曲を盛り立てCHAINSの音楽世界を築き上げていく様に、つくづくBANDだなぁと感じ入り、猛烈に感動(2回目)。彼らの関係は、もはや腐れ縁ならぬ鎖縁ですな(ウマい!?)。

chains-kyoto.blogspot.com

そんなCHAINSも今年で結成25周年だそうで、それを記念して15年ぶり(!!)にニューシングルが配信された(私はOTOTOYハイレゾ購入)。「メトロノーム」と「アスリート」という2曲のカップリングで、件のライヴでも演奏されていたが、どちらもミドルテンポでじわじわと身体が熱くなるイカしたロックナンバーだ。メトロノームのイントロでドラムがスタンッと鳴ってちょっとトレモロがかったギターが入りキーボードがヒャ~と鳴り始めた瞬間に、嗚呼、これぞCHAINSだ...とニヤリ。ビバ☆シェリーのSATOさんがコーラスで友情出演しているのも嬉しい。良い時と悪い時をメトロノームのように行ったり来たり、バンドを続けて行く大変さと喜びを歌っているのだろうと私的勝手な拡大解釈。「アスリート」はオリンピックを目指すアスリートを歌った曲だが、まさしくCHAINSは寡黙でストイックなアスリートのよう、腰の入った軸がぶれないロック。しかも、京都のリトル・フィート!と思わず叫びたくなるファンキーな粘り腰だ。この最新の2曲も不変のCHAINS節で、奥に潜むブルーズ魂とどこかアングラな匂いを醸し出すサウンドは、やはり他の誰よりも京都を感じる。そうだ、京都にはCHAINSがいる。もうずっとすごいし、これからもすごいぞ先輩。


アスリート CHAINS@paradice 4th.Jun.2017

↑ドラムス伊藤さん中心の「アスリート」ライヴ映像ですが、伊藤さんのニュアンス豊かな粋なドラミング大好きです!

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メトロノーム/アスリート」CHAINS(2018年)
CHAINS are 新村敦史、横山道明、ラリー藤本、丸山桂、伊藤拓史

【PLAYLIST】『西村哲也、魅惑のギターサウンド』

相変わらず茹だるような熱すぎる夏は続きますが、そんな暑さを吹っ飛ばすにはエレクトリックギターに限る!というわけで、私の敬愛するギタリスト西村哲也さんの歌伴エレクトリックギター名演集プレイリストを作ってみました。しっかりと歌を支え盛り立てながら、とても骨太でロックな調べを堪能できます。気づいたらスライドギター多め!そして、名曲ばかりの名アルバムになっちゃいました(自画自賛)。全11曲50分。

西村哲也、魅惑のギターサウンド』

01.「何処へ(History)」 BAND EXPO
02.「クレイジークリシー」 河野沙羅
03.「蛙」 西村哲也
04.「君の名前」 青木孝
05.「二つの魚影」 Grandfathers
06.「グッド・ルゥは待ってる」 一色進
07.「余白」 福岡史朗
08.「誰か虹を見た」 コルネッツ
09.「日向へ」 柴山一幸
10.「リチャードの帰宅」 鈴木博文
11.「陽は沈みまた昇る」 TRICKY HUMAN SPECIAL

M01:『BAND EXPO』(2016)/M02:『Saramountain』(2010)/M03:『ORANGE』(2010)/M04:『Melody Circle』(1996) /M05:『BBB』(1991)/M06:『歪』(2012)/M07:『Let's Frog!』(2013)/M08:『乳の実』(1992)/M09:『Everything/(2001)/M10:『凹凸』(2008)/M11:『黄金の足跡』(2016)

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『SILLY POPS』 bjons

猛暑を通り越して全くもってSILLYな夏なので、クーラーの効いた部屋で涼やかなPOPSを聴いて、おとなしく過ごしましょう(汗)。

当ブログにおける西村哲也さんと並ぶ看板ギタリストと言えば、渡瀬賢吾さんですね。彼が参加しているアルバムはとにかく買っちゃいますし、そのどれもが素晴らしい作品で、名盤請負人なんて呼びたくなります(褒めすぎか・笑)。そんな渡瀬さんが新しく始めたバンドがbjons。私は思い切りビジョンズと読んでいましたが、正しくは”ビョーンズ”と読みます。風変わりですが、思わず声に出したくなるバンド名ですよね。渡瀬さんが静岡の学生時代からの音楽仲間である今泉雄貴さんを熱心に誘い、roppenのクールなグルーヴ職人ベーシスト橋本大輔さんを加えた3人でbjonsとしてスタートしたのが2017年だそう。私の耳にも噂が届いてきて、おおそうなんだ!と気になった途端に、早くも名刺代わりの1stアルバム『SILLY POPS』が出る、というスピード感。それゆえに、ライヴでもサポートしている売れっ子奇才キーボーディスト谷口雄さんと素敵な敏腕ドラマー岡田梨沙さんと共に、生まれて間もないバンドの新鮮な勢いをパッケージした瑞々しい作品に仕上がっています。CITY POPSをモジってSILLY POPS、そんなお茶目な捻りが効いた洒落たポップス集。と言っても、70年代のアメリカンポップスの匂いがする都会的でありながら人肌の温もりのあるバンドアンサンブルは、堂々とシティポップスと名乗っても良いのではないでしょうか。彼らとは世代が近いので、オレたちのシティポップス登場!とまで言いたくなりますが、オレたち照れ屋なのでやめときます(笑)。渋谷の憧れのレコード名店パイドパイパーハウス(店長は音楽の魔法を信じる長門芳郎さん!)がroppenの弟バンドとして激烈プッシュしていますが、もうビョーンと行ってほしいですね!

SILLY POPS

SILLY POPS

プレイボタンを押すと意表を突かれるくらいゆったりとしたリズムが心地良い、ある意味お見事なオープニングナンバー「けもの」。今泉さんの気怠く少し鼻にかかった歌声は、女性に甘えるのが上手そうな、ズルい歌声で羨ましい...。渡瀬さんのワウワウギターが冴え渡る艶めかしくグルーヴィーな「lonestar」は、私にとってはキラーチューン。”あのね”で始まり”I Don't Care”で韻を踏んで終わるという実に巧みな構成のニクいポップナンバー「I Don't Care」。旧いラジオから聞こえてくるような録音でピアノと歌だけの裸の「ダーティーボーイ」。みんなでワイワイ賑やかなグッドタイムミュージックハンバーガー」、いたずらっぽく”下着をなぞって戯れている”ちょっぴりエッチだよね今泉さん。セクシーな”んああぁ...”が痛快な夜のシティポップストレンジャーは、オトナな雰囲気だけどオトナになりきれてないところがお気に入りポイント。ジョージ・ハリスン味のスライドギターとバンジョーが芳しい中期ビートルズ風ポップバラード「いらっしゃいませこんばんは」は、梨沙さんのコーラスも効いて聴けば聴くほどじわじわとくる名曲(カーネーション「レオナルド」を思い出したり)。謎だけど妙にしっくりくるbjonsらしい声に出したくなるタイトルで歌いたくなるサビの「そろりっそわ」、ほんわかしてそうだがギターソロ始めバンド全体がそろりとぞわぞわ燃える、そろりっぞわな演奏でちょっと感動的なエンドロール。


5/30発売 bjons(ビョーンズ) 1stアルバム「SILLY POPS」トレイラー

『SILLY POPS』 bjons (2018年)

01. けもの
02. lonestar
03. I Don't Care
04. ダーティーボーイ
05. ハンバーガ
06. ストレンジャー
07. いらっしゃいませこんばんは
08. そろりっそわ

bjons are...
今泉雄貴 Vocals, Acoustic Guitar, Electric Guitar
渡瀬賢吾 Electric Guitar, Electric Slide Guitar
橋本大輔 Bass

谷口雄 Piano, Electric Piano, Organ, Accordion, Synthesizer, Clavinet, Toy Piano, 12strings Guitar
岡田梨沙 Drums, Percussions
アダチヨウスケ Banjo

All songs written by 今泉雄貴
Produced & Arranged by bjons
Recorded by 平野栄二(Studio Happiness), 谷口雄, 今泉雄貴
Mixed by 今泉雄貴
Mastered by 中村宗一郎(PEACE MUSIC)

※なんとパイドパイパーハウスから「ハンバーガー/そろりっそわ」を7インチシングルで発売するとのこと!マジかよ

『Trickster Sessions』 西村哲也

グランドファーザーズ、BAND EXPO、三匹夜会、Only Love Hurts (a.k.a. 面影ラッキーホール)、メトロファルスにおけるバンドサウンドの肝。私のハートを最も熱くするギターヒーロー、極上のメロディーメイカー&アレンジャーであり深遠な詩人、そして、じわりと胸を打つシンガー...もう何から何まで(シャイでオタク気質なお人柄も含め)敬愛してやまないシンガーロックライター西村哲也さんの5作目のニューアルバム『Trickster Sessions』がいよいよ届いた。前作『運命の彼のメロディ』から4年をかけて(いつものごとく)じっくり精魂込めて丹念に練り上げられたまたしてもロック名曲集。このロック暗黒時代に恐れを知らぬ!?ゲーテの『ファウスト』をテーマにした(ほぼ)コンセプトアルバムという点からも、今作はより一層聴き応えある、聴き応えしかない傑作だ。

Trickster Sessions

Trickster Sessions

前作ではそれ以前のアメリカンロック的要素は薄まりヨーロピアンロックの香りが漂うほの暗くメランコリックな作品であったが、今作ではその路線を引き継ぎつつ切なさよりも躍動感に満ち溢れたグルーヴィーなバンドサウンドで攻めまくるアグレッシヴなアルバムだ。何と言っても、今回は東京のライヴバンドメンバーであり盟友の大田譲ベース!矢部浩志ドラム!伊藤隆博ピアノ!にもちろん西村哲也ギター!のベーシックな4リズムはスタジオでせーので一発録りだそうで、これまで以上にライヴ感と迫力と太さがぐぐぐいっと前面に出ている。スピーカーでもヘッドホンでも出来るだけ大きめの音で聴いて、リズムに身体を任せて、踊るべし。更にそこに西村さんはリズム以外のギターパートはもちろん、ペダルスティールやエレキシタールシンセサイザーなどを重ね、川口義之さんはサックスやフルートでMVP級の大活躍、大田真緒さん&ほりおみわさんのクールに寄り添う女声コーラス、これまでの西村ソロでもお馴染み田辺晋一さんのユーモラスなパーカッションと様々な音を絶妙に組み合わせ、一筋縄でいかない極彩色のポップロックに仕上げている。スピーカーでもヘッドホンでも出来るだけ大きめの音で聴いて、踊りながら、細部の音にも耳を注ぐべし。ライヴで再現できないような実験もたくさんで、まさにトリックスター達のセッションだ。レコードは録音芸術であるということをいつも西村さんは教えてくれる。

ロキシー・ミュージックの1stを意識している」「デヴィッド・ボウイから受けた影響を全部出します」は制作過程中のライヴでの西村さんのMCで飛び出ていた言葉で、ミックスを務めている鳥羽修さんからも同じような感想を聞いたが、それに違わぬ内容だと思う。そんなファンキーなグラムロック魂だけではなく、合間に挟まれる静かでダークな楽曲ではジェネシスあたりのプログレ魂がかなり濃厚に噴出している。アメリカンロックやブリティッシュロックをやる人は多くても、このあたりの退廃美ロックをやる人はあまりいないので、後方宙返り3回ひねりして今ではとても新鮮に響くのではないかと思うのだが、どうだろう。

ところで、コンセプトになっているゲーテファウスト』については?...読んだことが無いので何も語れないが、もちろん読んでいなくても存分に楽しめるので大丈夫。『ファウスト』ってなんかわからんけどスゴイような気がする、でいいんです(笑)。ウィキペディアとかであらすじだけでも調べてもいいかも(ちゃんと物語通りに曲は並んでいる)。西村さん曰く「なんか『ファウスト』読むの難しそうだと思う人は、手塚治虫が漫画で描いてますので。3回描いてます」とのこと。西村哲也も『ファウスト』をロックで描きました。


西村哲也「Trickster Sessions」

01. 円環の終わり Loop End
プレイボタンを押せば謎めいたエレキシタールの響き...終わりのような始まりなのか始まりのような終わりなのか「円環の終わり」で物語は始まる。とても短い寂しげな曲だが、リピートでまたこの曲に帰ってくると魅力が増す。歌詞については『魔法少女まどか☆マギカ』を参照(観たことない)。

02. 愛の再生 Reincarnation Love
悪魔の黒い犬メフィストーフェレスの登場シーンは、ベルリン三部作の頃のデヴィッド・ボウイを彷彿とするミドルテンポのスペーシーなロックナンバー。後半に行くに従って、じわりじわじわと力強くロックのスイッチが入る。ひしゃげたヘヴィーなリズムギターロバート・フリップ風?伸びていくギターの絡み合いや粘っこくハネてウネるベースが聴きどころ。”犬 in the sky” ”黒 in the sky”という言い回しは斬新だ。

03. 黒犬の勧誘 Black Dog Guidance
黒犬メフィストファウスト博士がそそのかされ契約を結ぶシーン?ロキシー・ミュージックの1stとはまさにこの曲、グルーヴの鬼。間違いなく序盤のハイライトだ。強力ファンキーなクラヴィネットにドゥーンドゥーンと吠えるベース、アンディ・マッケイ顔負けにブロウしまくる川口さんのサックスからは炎が見える!けたたましいブルースハープもほりおさんのエモいコーラスも全部が猛烈に熱い、最高!の一言。

04. 彼女の愉しみの選択 Grateful Girl's Story
若返ったファウストが普通の町娘グレートヒェンに恋に堕ちるシーン?ちょっと分からなくなってきました(笑)。「黒犬の勧誘」で一気に沸騰した興奮をこの曲で少しクールダウン、ペダルスティールが隠し味の初期スティーリー・ダンのごとく洗練されたバンドサウンドに酔いしれる(カーネーション『Suburban Baroque』収録の「Little Jetty」と併聴されたし。同じリズム隊だし、同い年の直枝さんと西村さんが思い描くスティーリー・ダンは一緒!)。終盤はジャムセッションっぽくなるのだけど、実は本来終わるべきところで気づかずに大田さんがベースを弾き続けてしまったために、それに皆が合わせて演奏が長くなっているのだそう。西村さんと矢部さんはミスに気づいてなかったようだが、気づいていた伊藤さんはチッと若干キレ気味にピアノを叩いているのが凄まじくロックで、結果オッケーテイクに。一発録音の嬉しい誤算、そのおかげで私的にかなり好きな曲。

05. 光の庭 Sunshine of Our Garden
ファウストとグレートヒェンが光の庭で戯れるシーン?心がウキウキ弾む、ちょっとおどけたようなリズムが楽しい曲。途中で曲調が変わり、ポール・マッカートニー&ウイングス「幸せのノック」みたいなベースラインが飛び出てくるところがお気に入り。そして、西村さんお得意のユニゾンギターソロに滅法弱い私です。

06. 堕天使ハープ Harp
堕天使ハープってメフィストのこと?いよいよどういうシーンなのかわかりません(笑)。ハープというだけあってブルースハープを狂おしく吹きながらアコースティックギターをかき鳴らす、ボブ・ディラン風のフォークロック。と言っても凡百のフォークロックで終わってないのは、矢部さんが何度も繰り出すハイハットのスコーッ(説明できん)があまりにも痛快だから。最後の伊藤さんの砂嵐のようなオルガンソロも流石の名人ぶり、アガります。

07. 逢瀬 A Secret
ファウストとグレートヒェンの秘めやかな愛の育み?最初からほりおみわさんとデュエットすることを意識して書かれた曲だという。繊細に奏でられるアコースティックギターの美しいを超えてサイケデリックアルペジオハーモニー、二人の歌声の重なりの清らかな色気にうっとり。川口さんのフルートソロ(要望はイアン・マクドナルド)はもはやあの世からの幽玄な響き...意識が遠のきます。密かに、強烈に、印象に残る名曲。

08. 彼女を救い出せ Save Her Before Sunrise
あれやこれや不幸の連続で地に堕ちてしまったグレートヒェンをファウストが救い出そうとするシーン?『ファウスト』物語はここでフィナーレを迎える。イントロの勇猛果敢なドラムソロに唸り声をあげるバリトンサックス、ほりおさんの逞しいコーラスなどから並々ならぬファウストの気合いを感じるが、果たして彼女を救い出せたのだろうか?

09. 妖精の指輪 Red Ring
それでもアルバムは続く。この曲はアルバム曲の中で初めてライヴで聴いた曲で、それから幾度となく聴いてきたが、聴くたびになんて素敵な曲なんだ!とどんどん引き込まれていく。こうやってレコードとして聴いても同じだ。怪しくもロマンチックでエロティック、オトナのムードロック。間奏のスティーヴ・ハケットばりのプログレギターソロは渾身の名演、あまりにも滑らかに撫でるように感情を掻きむしられる。ベストトラックかもしれない。

10. 去っていった鳩 Isomers of The Soul
大なり><小なり「ハトなんですが」、コルネッツ「鳩」に続く、(私的)鳩の名曲。隠れ人気曲のような気がする。コンガ&ボンゴの軽やかなリズムとエレキシタールのエキゾチックな響きは、シールズ&クロフツを匂わせる穏やかなフォークポップ。隅々まで神経の行き届いた歌唱、西村さんの切ない歌声の魅力を堪能できる。タイトルは鳩であるが、歌詞は絵本の「ねずみ女房」にインスパイアされているそうだ(読んだことない)。

11. 崩壊の涙 Tear of A Fall
ラストナンバーは前作「ケヴィンのブルース」でも披露されたシンセベースが奔放に弾むテクノポップ調、そこにペダルスティールやマンドリンなど土臭い楽器が絡むのが面白い。一人多重オクターブユニゾンボーカルも心地良いが、歌詞に込められたメッセージは...憤ってます。


Trickster Sessions』 西村哲也(2018年)

01, 円環の終わり Loop End
02. 愛の再生 Reincarnation Love
03. 黒犬の勧誘 Black Dog Guidance
04. 彼女の愉しみの選択 Grateful Girl's Story
05. 光の庭 Sunshine of Our Garden
06. 堕天使ハープ Harp
07. 逢瀬 A Secret
08. 彼女を救い出せ Save Her Before Sunrise
09. 妖精の指輪 Red Ring
10. 去っていった鳩 Isomers of The Soul
11. 崩壊の涙 Tear of A Fall

大田譲:Bass, Chorus
矢部浩志:Drums
伊藤隆博:Piano, Organ, Clavinet, Wurlitzer
川口義之:Sax, Flute
田辺晋一:Conga, Bongo, Percussions
大田真緒:Chorus
ほりおみわ:Chorus
西村哲也:Other All Instruments

Recorded by TETSUYA NISHIMURA (Heron Studio), EIJI HIRANO (Studio Happiness), SHINICHI TANABE (Amigo Studio)
Mixed and Mastered by OSAMU TOBA (Smalltown Studio)

Art Direction and Design by HIDEAKI SUZUKI (ahg)

※なんと!ディスクユニオンの6/12付 週間日本のロックチャート3位を記録しました(aikoの上!)。ちなみに、ディスクユニオンでの購入特典はデモ音源CD-R(9曲も!)なのですが、それがまた非常に素晴らしい内容なのですよ(レヴュー書こうかなと思うくらい)。

『海が見えたら』 クララズ

はっぴいえんどとティーンエイジファンクラブが出会ったかのような風に乗ってどこまでも歩いて行ける名曲「コンコース」にハートを撃ち抜かれたのは2年前、未だ我が家のiTunesでは最多再生数を誇っているベストヒット。その年のクリスマスにコンピ盤に収録された「サンタ、今でも信じてる」もウルトラキャッチーなパワーポップで爽快であった。そんなクララズが満を持しての1stアルバムを発表、その名は『海が見えたら』。実に旅好きのクララさんらしいタイトルであるが、内容もまさしく旅で目にした美しくも何気ない景色や揺れ動く心象風景がスケッチされた思わず旅に出たくなる、もしくは、旅をした気分になってしまうようなアルバムだ。私は聴いていて青春18切符で電車の旅に出たことを思い出したが、車窓から唐突にバーッと広大な海が見えたら、それだけでテンションはめちゃくちゃ上がるし、オレ旅してるな~とあっさり悦に入ったものである。クララさんのブログで旅日記を読んでいると、会話もいっぱいで必ず良い出会いがあって旅上手だなぁといつも感心する。私なんて黙々と歩いてるだけだから、特別語れるような旅の思い出はないが、ここではないどこかの風景や匂いを感じるだけでも心は清々しく開放される。できれば定期的に旅したいものだが、なかなかそうはいかないので、このアルバムを聴いて、いつもの通勤電車を旅の途中の1シーン化している。ありがたい存在だ。

海が見えたら

海が見えたら

基本的にクララズのバンド編成はクララさん(Vo,Gt)+アダチヨウスケさん(Ba)+橋本あさ子さん(Dr)というトリオで、そこに名エレキギタリスト渡瀬賢吾さん(roppen, bjons)が加わればハイパークララズ。アルバム7曲中トリオで1曲、ハイパーで5曲、弾き語りで1曲という構成。バンドの演奏はとにかく歯切れのいい骨太なリズムのパワーポップグルーヴで、クララさんの言葉を明瞭に歌う芯の通った伸びやかな歌声との馴染みが良い。オープニングを飾る英語詞の「Just Coffee For Now!」は自主制作EP『ブレンド』収録曲をハイパークララズで録り直したもので、渡瀬さんの風雲急を告げる豪快な砂煙舞うスライドギターの轟きに私のロック魂が刺激される。渡瀬さんはレーナード・スキナード「Free Bird」を意識したそうだが、USインディーポップ調の曲にこういうルーツ感溢れるギターが重なる面白さよ、毎度ワクワクする。テンポもよりズシリと重くなって(と言っても2分22秒)、ますますイカしたロックナンバーに仕上がった...からのクララズ節全開の颯爽とドライヴする超ポップナンバー「エアメール」への繋ぎがあまりにも鮮やか。それこそ海が眼前に広がった時の昂揚感、それは感動的すらある新たな代表曲だ。フォーキーな味わいの「車窓」の歌詞がビシバシくる、”変わればなんか言われ、変わらなくてもなんか言われる”にいやホントそうだよなと...それでも悠然と海を飛びまわるカモメの鳴き声のようなスライドギターの響きにふっと一息。くるりを思わせるノイジーで歪んだ音像のオルタナロック「Lost and Found」では、ちょっぴり懐かしい気持ちになったり。続く「リバー」(そう言えば、くるりにも同じタイトルの曲あったな)はポツンと弾き語り、柔らかく確かに爪弾かれるアコースティックギターの調べと共にしみじみと聴き入る”転げようぜ、石のように”。ニック・ロウのアルバムに1曲だけ入ってるロンサムな弾き語り曲を思い出す、彼女の弾き語りもとても魅力的だ。気怠くぼんやりと海を眺める「12月の海」、やはり似合うのは日本海だろうか。なにもウキウキするだけが旅ではない、どこかセンチメンタルな気分に浸るのもひとつの醍醐味なのだろう。ラストは、こみ上げてくる思いや感情がじわじわと放たれる力強いロックナンバー「TODAY」で、そろそろうちに帰ろうかと旅の終り...であるが新たな旅の始まりでもある。”そうやってずっと、ずっとやってきた”、これからもそうやってずっとやってくのだろう。頼もしいぞクララズ!


クララズ「エアメール」MV

↑ 楽しい!クララズ界隈の人たちが一挙総出演(と言っても、バンドメンバーは出てない!)、たけとんぼの平松さんや中村ジョーさんがイイ味出してます。しかし、みんな仲良しですなぁ。


『海が見えたら』 クララズ(2018年)

01. Just Coffee For Now!
02. エアメール
03. 車窓
04. Lost and Found
05. リバー
06. 12月の海
07. TODAY

All songs written by クララズ(山内光)

クララズ Vocal, Guitar [All]
渡瀬賢吾 Guitar [M1, M2, M3, M6, M7]
アダチヨウスケ Bass [M1, M2, M3, M4, M6, M7]
橋本あさ子 Drums [M1, M2, M3, M4, M6, M7]

『べいくあっぷ』 カランツバターサブレ

もう春です、古いものはすてましょう(by斉藤哲夫)。というか、今日なんて春をすっ飛ばして初夏のような陽気。神戸では桜も一気に咲き始め、すぐにでもお花見に行きたい気分です。私は完全に桜を肴にお酒を一杯(いっぱい⁉)な人間ですが、今年は桜を愛でながら静かにスイーツを味わうお洒落さんで行きたいと思います。花より団子、いや、花よりカランツバターサブレ...どんなスイーツかイマイチ分かってませんが(笑)。

べいくあっぷ

べいくあっぷ

そんなこんなで?春の訪れと共に、カランツバターサブレの1stアルバム『べいくあっぷ』が我が家に届きました。カランツバターサブレとは、ヨシンバというバンドで知られる吉井功さんが新たに結成した5人組フォークロックバンド。新たに、と言っても、もう10年くらい活動しているそうで、まさしく満を持しての1stアルバム完成。吉井さんが頭に描く音楽を一緒に演奏したいと集めたメンバーは、藤田厚史(e.guitar)、福島ピート幹夫(bass,sax)、藤原マヒト(piano)、SACHI-A(drums)というツワモノ揃い、もう名前を見るだけで美味しそうな音が鳴っています。私は最近の海外のバンドにはとんと疎いのですが、吉井さんはbeirutやPunch Brothersなど海外で盛り上がっている新世代のフォークロックに感銘を受けて、そういう音楽を日本でも鳴らしたいという想いがあったようです。ヨシンバはコーラスハーモニーを存分に盛り込んだ骨太な演奏によるソウルフルなポップロックという印象ですが、カランツバターサブレではアコースティックを基調としたもっとゆったりとした地に足の着いたアーシーなサウンド。とは言え、60年代~70年代の伝統的なイナタいフォークロックで終わらない、ずっと現代的な響きや味付けがされているのが楽しいです。昨年見事な傑作アルバムを発表した若きフォークロックバンド秘密のミーニーズのサイケデリックな雰囲気ともまた違う、狂おしいまどろみ感とでも言いましょうか。ただ心地良いだけではありません。そして、吉井さんならではの気怠く艶やかなボーカルはますます色気が増し増し、ジェントルなオトナのバンドサウンドと相俟って、その歌声の大ファンの私は悶絶しっぱなしです。じっくり丁寧にこんがり焼き上がった風味豊かな名曲だらけの名盤『べいくあっぷ』、賞味期限は百年どころか無期限!是非ご賞味あれ。


カランツバターサブレ1stアルバム「べいくあっぷ」ティーザー映像

危うい夢の世界に入り込むかのような短いサウンドコラージュ「プロローグ」から、一瞬で目覚めて現実世界に引き戻されるリードトラック「百年」への流れがいきなり素晴らしい。百年前も百年後も君も僕もいない ”だから もうすこし やさしく してほしい” 強力かつ切実な言葉が艶めかしく心に響く。アコースティックギターとヴァイオリンが奏でるリズムが麗しい「逃避行」、じわりじわりと熱を帯びてくる。イントロのジョージ・ハリスンよろしくスライドギターの響きがマイ・スウィート・ロード感満載でニンマリする軽快な西海岸ポップチューン「そのボタン」、元々はロン・セクスミス風だった弾き語り曲をバンドに持ち込んだらこうなったというイカしたバンドマジック。トイピアノの可愛らしい音色と波の音にうたた寝しそうな「ブレイク」で、しばしブレイク。そんなほのぼのは束の間、エレクトリックギターにホーンセクションがおどろおどろしく吠え、ひたすらダークで美しい「花びら」は私的ハイライト。またも一転して、愛らしいベースラインや陽気でおとぼけたホーンに乗ってスキップしたくなる、ラヴィン・スプーンフル風小粋なグッドタイムポップス「はねをやすめて」で、しばしはねやすめ。まさしくタイトル通り、吉井さんらしいネジレた曲展開がクセになる「ネジレル!」、豪快でぶっとい最高のホーンアレンジはピートさん(曰く、ザ・バンド(ホーンアレンジはアラン・トゥーサンですね)と「サヴォイ・トラッフル」をイメージしたそう。なるほど!)。ここから終盤4曲はtoncoさん&うちだあやこさん(dodo)による女性コーラス隊が加わり、より華々しく...と思いきや、どこか影のあるヘヴィーに粘りつく愛の囁き「名無しのマリア」で気持ちがズシリと静まり返る。真夜中に寝つけない時にやたらと耳に飛び込んでくる時計の秒針のようなリズムボックスのリズム、突如として悪夢にうなされる「僕の右手」で少し不安げに...なるも、必ず朝が訪れ、カーテンの隙間から眩しい陽の光が差してくる。感動的に開放感に満ちた「溶け始めた君を」で幸せいっぱいの気分になりアルバムは幕を閉じる、いや、幕が開いたのかもしれない。アルバムって、イイですね。


カランツバターサブレ『百年』

『べいくあっぷ (Bake Up)』 カランツバターサブレ(2018年)
全曲、作詞・作曲:吉井功

01. プロローグ
02. 百年
03. 逃避行
04. そのボタン
05. ブレイク
06. 花びら(ホーン&弦アレンジ:藤原マヒト)
07. はねをやすめて(ホーンアレンジ:佐藤綾音)
08. ネジレル!(ホーンアレンジ:福島ピート幹夫)
09. 名無しのマリア
10. 僕の右手
11. 溶け始めた君を

カランツバターサブレ...
吉井功/藤田厚史/福島ピート幹夫/藤原マヒト/SACHI-A

参加ミュージシャン...
江藤有希(Vn)/熊谷太輔(Snare,Djembe)/佐藤綾音(Cl,Sax)/関口新一郎(Tb)/リョコモンスター(Tb)/tonco(Chorus)/うちだあやこ(Chorus)

※ヨシンバは今年でデビューから20周年(!!)だそうなので、12年ぶりのニューアルバムが出そうな予感です。楽しみ!

【私の好きな歌022】「ビューティフル・ユー」 ニール・セダカ

普段見られない冬の競技が一挙に観られ、日本選手の大躍進に毎日がワクワクだった平昌五輪が終わり、ちょっとしたロスに...ていうか、カーリング女子代表のLS北見ロスなんですけどね(銅メダル獲得おめでとうございます!)。元々カーリングが大好きで、冬季オリンピックでは毎度熱を上げていたのですが、今回のLS北見の選手たちのプレイぶりは本当に活き活きしていて、観ていて痛快でした。みんなで作戦会議している会話のムードが、真剣でありながら和気藹々としたちょっと女子会っぽい感じも愛らしくて。そだねーとかもそうですが、プレイ中にみんなで爆笑してるシーンとか(ソチ五輪での吉田知那美さんはあんなに感情豊かだったっけ?)。そんな彼女たちに昨年夢中になったNHK朝ドラ『ひよっこ』の向島電機乙女寮をふと思い出し、思い入れも増幅(笑)。リザーブでも頼れる存在感バリバリの本橋麻里さん含め、みんなの個性がハッキリしていて、それが見事にチームワークに繋がっているような。中でも、私はセカンド鈴木夕湖さんに注目していました。ショットにはムラがあったけども、吉田夕梨花さんとのコンビで、145cmというサイズを生かした重心の低い小気味いいスイープは仲間のナイスショットを数多く演出(3位決定戦後のインタビューでの「仕事は投げるだけじゃないので」にはグッときた)。あのみんなの笑いを誘うおとぼけたコメントは人見知りの裏返しだろうと勝手に思い込み、人見知りの私は勝手に共感したり。もちろん、スキップの藤澤五月さんが戦術の中心ではあるけども、みんなで意見を出し合い、みんなが納得し、しっかりと意思を統一した上でショットを投じるというスタイルは斬新ながら、とても日本人らしいやり方だなぁと感心しました(彼女たちのおかげで、カーリングの面白さをより深く知れたし)。あれやこれやいろいろと話題ですが、とにかく彼女たちはプレイしている時がますます魅力的で、「ビューティフル・ユー」だ!という本題への無理やりな繋ぎ...
(この結果できっと他のライバルチームも燃えているでしょう、是非ともカーリング全体が盛り上がってほしい。そして、生で試合を観てみたい)

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木蔭で体育座りしてこちらをじっと見つめる複雑な髪型のイイ男!?ニール・セダカの「ビューティフル・ユー(Beautiful You)」は1972年のシングルA面曲。ニール・セダカと言えば、1960年前後のオールディーズポップスの代表選手だが、70年代にはもうすっかり流行遅れ的な存在だったであろう悲哀がジャケットの表情からもどことなく感じる(当時、33歳くらいか)。とは言え、ポップメロディーメイカーぶりはずっと健在で、エルトン・ジョンみたくピアノ弾きシンガーソングライター的な味わいも出てきて、私は70年代のニールが大好きである。この「ビューティフル・ユー」も衒いなくめちゃくちゃポップで素直にウキウキする素敵な名曲。それでもって、何と言っても、バックで演奏しているのは10ccだ!彼ら特有のマニアックな捻くれは控え目だが、それゆえにシンプルに骨太な演奏が実にロックバンドしていてカッコイイ。ケヴィン・ゴドレイのお茶目に跳ねるドラムとグレアム・グールドマンのゴムまりのように躍動するベースは、ニールがガンガン叩くピアノと重なり合い、力強く弾けるリズムがまるでダブルテイクアウトショットが完璧に決まったかのように爽快(シングル盤で聴くべし)。そして、ニールの甘く伸びやかな歌声が素晴らしくビューティフル!一瞬で温かい気持ちに。こんな晴れ晴れとしたラブソングがピタッとくる季節、春が近づいてきましたね。

「ビューティフル・ユー」 ニール・セダカ(1972年)
Beautiful You / Neil Sedaka (N.Sedaka-P. Cody)

※ウーラーラ~♪に福岡史朗&ハム「ULALALA」を思い出したりも...たぶん、むしろフェイセズなのだろうけど。(そして、「ビューティフル・ユー」の方は貼り付けない私)


【PV】Ulalala/福岡史朗&ハム