レコードは果てしなく

好きなレコードや観たライヴのことを喋ります。'79年生まれ。

『嘘つきと音楽のはじまりに』 加藤千晶とガッタントンリズム

明けましておめでとうございます!本年もどうぞよろしくお願いします。って、新年のあいさつ遅すぎですが...このマイペースぶりが当ブログの売りです(言い訳)。気まぐれな更新は相変わらずなので、我慢強くこまめにチェックして頂くとありがたいです。さて、新年の私は初詣に近所の神社で引いたおみくじが大凶レベルで目も当てられない最悪の内容でもう忘れましたが、そのせいか先日は何十年ぶりかにインフルエンザに罹りまして1週間ほど臥せっておりました。病院でイナビルという吸入薬を処方され、看護師さんの目の前で粉を思い切り吸い込むだけなのですが、私はうどんをすすれないタイプで照れもあり、あまりに下手くそすぎて、「頑張れ~」と励まされた38歳のおっさんです...トホホ。そして、家に重い足取りで帰り、布団の中でうんうん唸りながら頭の中をぐるぐる巡っていたのは加藤千晶とガッタントンリズム「灰色の右」の”入り日かな♪”というフレーズでした。いよいよ、もう人生の入り日です(そんなことはない!)。

嘘つきと音楽のはじまりに

嘘つきと音楽のはじまりに

そんなわけで、今回紹介するニューアルバムは加藤千晶とガッタントンリズム『嘘つきと音楽のはじまりに』です。2012年発表の前作『蟻と梨』は歌アリ盤&歌ナシ盤2枚組のボリュームで笑いあり涙ありのまさしく集大成的な渾身の傑作で、倉科カナ主演のテレビドラマ「花のズボラ飯」のサウンドトラックとして深夜のお茶の間に流れたりも(最終回には加藤千晶+鳥羽修+高橋結子トリオで出演!毎年クリスマスに録画したそのシーンを観て、ほくそ笑むのが我が家の恒例行事)。2014年にはNHKみんなのうたで放送された(アニメーションは森雅之さん!)穏やかで心温まる「四つ角のメロディー」やおかあさんといっしょで子どもたちにも大人気だった「ほっとけーきはすてき」などを収録したミニアルバムがあり、それ以来の待望の新作『嘘つきと音楽のはじまりに』は加藤千晶とガッタントンリズムという初めてのバンド名義でのアルバム。加藤千晶(piano)、鳥羽修(guitar)、高橋結子(drums)、河瀬英樹(bass)という面々は前々作『おせっかいカレンダー』(2005年)からの不動のリズムセクション、そこに中尾勘二(trombone)、Mino Aketa(trumpet)、橋本剛秀(tenor sax)のホーンセクションを加えて、加藤千晶とガッタントンリズム。電車がガッタンゴットンではなくガッタントン、ちょいと不規則に素っ頓狂に揺れるリズムがウキウキする心地良さはますます全開に(NRBQが惚れ込むのもむべなるかな)。とりわけガッタントンホーンズを全面的にフィーチャーし、ビッグバンドのごとく華やかで厚みのあるサウンドがまた最高にゴキゲンだ(絶好調に躍動するバンドサウンドをそのままパッケージした鳥羽修録音&ミックスも相変わらずお見事!)。サザエさんのオープニングみたく老若男女に猫まで踊り出す、何気ない日常生活から滲み出るダンスミュージック決定盤。私もコレでインフルエンザが治りました、嘘のように元気になる、懐かしくもとびきり新鮮なグッドタイムポップスをご堪能下さい。


『嘘つきと音楽のはじまりに』Trailer / 加藤千晶とガッタントンリズム

オープニングはガッタントンリズムのテーマソング的な電車歌「隧道上々」、いきなりタイトルの漢字が読めません(笑)。ずいどうじょうじょう、隧道とはトンネルの意味だそう。加藤千晶さんの歌詞は、平易な表現の中にこういう聞きなれない難しい言葉を放り込んでくるのが面白い。「あまいからいすっぱいにがい」は発語した時点でもうすでにグルーヴィー、みんなで合唱しましょう!味覚を歌うことは人生を歌うこと。勢いはそのままにインストゥルメンタル「トッ拍子号」で一汗かいて(冷や汗かもしれないけど)。MVにもなっているほんわかニューオーリンズな雰囲気の「灰色の右」で、ハンドクラッピンに乗って身も心もほっこり。”針すべるマーティンデニー”の後の例の鳥?の鳴き声は中尾勘二さん、名演です。これまた言葉の魔法というか魔術的な「ぼんやりぼんぼん」、”ぼんやりぼん ぼーん ぼーん♪”という長閑な響きは聴き終わっても除夜の鐘のように鳴り続ける。もう!レコード2枚買っちゃおかな(私の場合)。愛着のある楽器を手放すことになってしまった無念さ寂しさを歌ったバラード「いとしのエレピアン」は涙なくして聴けません...。後半戦突入、溢れんばかりの疾走感で商店街の景色を描写したすずらん通り商店街。古いも新しいも賑やかも侘しさも混在する商店街はまさに加藤千晶さんの音楽そのものでしょう。続くインストゥルメンタル「不二屋洋服店」は実在している服屋さんをテーマにしているのかは分からないけど、きっと愛嬌のあるお店なんだろうなぁ。「10センチ」とは10cmの隙間を気まぐれに出入りする野良猫のこと、加藤千晶さんのツイッターにも度々登場。こちらは愛情いっぱいなのに好いてくれてるのかどうか判然としないセンチメンタルな気持ちが素敵に表現されている。ラグタイムを反対にしてタイムラグ、猫だけでなく時間も自分の思い通りにならないもどかしさを嘆きまくる「Time Time Rag」。詩情あるけども何とも不思議なタイトルだなと思ってたら回文だった「雪に添う靴の跡、あのつく嘘に消ゆ」、しんしんと心に雪が降り積もる。”嘘でもいいんだ ぼくは歌おう”に力強い何かを感じる、それが嘘でもいい。


灰色の右 / 加藤千晶とガッタントンリズム


『嘘つきと音楽のはじまりに』 加藤千晶とガッタントンリズム(2018年)

01. 隧道上々
02. あまいからいすっぱいにがい
03. トッ拍子号
04. 灰色の右
05. ぼんやりぼんぼん
06. いとしのエレピアン
07. すずらん通り商店街
08. 不二屋洋服店
09. 10センチ
10. Time Time Rag
11. 雪に添う靴の跡、あのつく嘘に消ゆ

加藤千晶とガッタントンリズム...
加藤千晶:Vocal, Piano
鳥羽修:Guitar, Chorus
高橋結子:Drums, Chorus
河瀬英樹:Contrabass, Chorus
中尾勘二:Trombone, Chorus & Birds
Mino Aketa:Trumpet, Chorus
橋本剛秀:Tenor Sax, Chorus

『双六亭』双六亭

メリークリスマス!に乗り遅れ、もういくつ寝るとお正月。2017年は間もなく暮れる...そんな時期なので今年を振り返ろうとも思うけども、このレコードを聴いていると何だかお正月のことしか考えられなくなる。旧き良きニッポンのお正月。凧揚げ、羽子板、独楽まわし、歌留多に双六...と云えば、双六亭のファーストアルバム『双六亭』を炬燵囲んでお雑煮食べながら。双六亭とは、ニシイケタカシ、中原由貴、鈴木晶久からなる東京の鯔背なスーパーロックバンド。いや、むしろ、”東京の”と言うよりも”江戸の”がふさわしい風情。双六亭の存在は随分と前から噂には聞いていたが、いかんせん関西の人間なもので、噂から音を想像するしかなかった。つまり、首を長くしてレコードを待っていた、待ちすぎてろくろ首くらいに伸びてはいたが、こうやって聴けて心から嬉しい。そんな夢にまで見た双六亭の音楽は、ロックは、ひたすらゴキゲンであった!ニシイケさんと中原さんはタマコウォルズの主要メンバーだが、あの米国南部ファンキースワンプロックとはまた違い、双六亭はタイトなグルーヴで疾風怒濤のロックンロール。ギュッと旨味が濃縮された鉄壁のバンドアンサンブルで、ニシイケさん作の踊らずにいられない「ハッピーエンドがあればの話」なんて曲もあるが、はっぴいえんどのゆでめんにも通じる得体の知れない熱気がスピーカーから吹き荒ぶ(アナログ盤で聴きたい)。とりわけ、中原さんが汗を飛び散らしながら東奔西走する爆裂ドラムのドタバタ喜劇リズムに、私は川島雄三監督の映画『幕末太陽傳』が目に浮かぶ(ということは、中原さんはフランキー堺!)。と云えば、カーディガンが似合う鈴木晶久氏が描く世にもユニークな落語ロックに衝撃が走りまくる、歌世界もギター演奏も若くして(私の一つ年上同世代)縁側のお爺ちゃんみたいなくたびれた老成ぶりは一体!?「与太がゆく」のサビでの、鼻くそぉ~~~♪に正気かよ(笑)。なぜだか妙に胸を打つ「せいろう」の"せいろう"を"Sail on"と歌う辺りも実にニクイんだな。居酒屋でしがないオヤジが酔いどれて管を巻いてるだけの「武蔵野」は、元・双六亭メンバーであるコーノカオルさんのTRICKY HUMAN SPECIAL「武蔵野心中」(from『黄金の足音』)と併せて聴かれたし。双六亭のロックは蕎麦と日本酒が合う粋な蕎麦屋的であり、ふらりと立ち寄れる大衆居酒屋的でもある(居酒屋と書いてパブと読む)。全曲強烈でカッコ良くハイライトだらけではあるが、私的一番のハイライトは、豪快極まりないロックンロール「門外漢」から、のんべんだらりとした「与太がゆく」への落差。その「門外漢」にはふとタマコウォルズ「からまわる男」を思い出したが、泥まみれになって七転八倒する男の嘆き節(ブルース)を歌わせたらニシイケさんは天下一品だ。そして、アルバム随所に聴かれる全員が全力で歌う人間味120%コーラスは、倒れても砂を掴んで立ち上がる活力になる。双六だけに、前進したり後退したり一回休んだり。もちろん、『双六亭』を聴き終わる(上がり)と自然に溢れ出る言葉は、”サイコウだな、サイワイだな”である。

双六亭

双六亭

『双六亭』 双六亭(2017年)

01. 泥の舟/馬のムク(作詞曲:ニシイケタカシ)
02. サイワイ(作詞曲:ニシイケタカシ)
03. はなこちゃん pt.2(作詞曲:ニシイケタカシ)
04. 武蔵野(作詞曲:鈴木晶久
05. ホラ吹きジイサン(作詞曲:ニシイケタカシ)
06. 捨て鉢、吾妻橋(作詞曲:鈴木晶久
07. 門外漢(作詞曲:ニシイケタカシ)
08. 与太がゆく(作詞曲:鈴木晶久
09. ハッピーエンドがあればの話(作詞曲:ニシイケタカシ)
10. せいろう(作詞曲:鈴木晶久

双六亭...ニシイケタカシ、鈴木晶久、中原由貴
E.Bass 時光真一郎
A.Piano ライオンメリー(M-4)

Produced and Arranged by 双六亭、時光真一郎
Mixed and Mastered by 鳥羽修(Smalltown Studio)
Recorded by 福岡史朗、鳥羽修、ニシイケタカシ
Recorded at ギンジンスタジオ、スタジオATLIO、スタジオ楽音、ニシイケの部屋
Designed by Niko Sanko


双六亭『泥の舟/馬のムク』2017.10.22@自由ヶ丘マルディグラ

※来年2月に、大阪の男女アコースティックグッドタイムミュージックデュオ冬支度が東京でライヴします!な・な・なんと双六亭とも共演!密かに、私は会場BGMの選曲をやらせて頂きますが、それはともかく、豪華出演陣できっとめっちゃ楽しい一夜になります。お近くの方も遠くの方も是非お越しくださいませ!ちなみに、翌日の冬支度は下北沢leteで田中亜矢さんとの素敵な2マンもあります。

2018年2月10日(土)「冬支度の旅支度2018」@LIVE SPOT テラ(西荻
出演:島へ行くボート、双六亭、冬支度with渡瀬千尋
OPEN 18:00/START 19:00
前売 2,500円/当日 3,000円(共に+1D)
詳細は、冬支度HPにて

『PASTORAL』 青野りえ

都会が似合う洗練された知性と美貌を兼ね備えたオトナの女性にいつだって憧れていますが、身分不相応すぎて近寄ることさえできない私です。恋するなんてとんでもない。リアルでは無理だとしても、レコードの中でだけでも、そんな高嶺の花の女性に恋に落ちたいじゃないですか、落とさせてちょうだい!というわけで、今の私は青野りえ『PASTORAL』にメロメロに惚れております。麗しのシティポップス決定盤!登場です。

PASTORAL

PASTORAL

昨今のシティポップブームにヒネクレ者の私は敢えて見ないふりをしていたけど、それでも目に飛び込んでくる印象的な美しいレコードジャケット。ダークブルーに浮かぶ鮮やかな赤。私の思う(好きな)シティポップスは、抑制と煌びやかが同居しているポップスであり、まさしくこのジャケットでの色のコントラストのイメージなのです。そして、その音楽もジャケット通り、というか、ますますエレガントで素晴らしい。シティポップスマエストロ関美彦さんによる作曲(思わず唸る名曲ばかり!)&プロデュースで、メロウな歌心たっぷりの名プレイヤーたちによる現代のティンパンアレーと呼びたくなるようなグルーヴィーな演奏は完璧としか言いようがない。それだけでも贅沢なのだが、更に素敵なのは、極上のバンドサウンドにまろやかに溶け込む青野りえさんの豊かな歌声歌唱である。変に出しゃばらないお淑やかさと気品のある色気、優しい包容力もあって、何とも癒される。歌と演奏の熱すぎず冷めてもいない絶妙な人肌の温もりがあまりに心地良いのです。また、インタールード的な小品を含め全9曲28分のほとんどが3分台というタイム感もジャストで(関さんのこだわりじゃないだろうか)、無意識にリピートせずにはいられない。多くを語らずも旨味を軽やかにギュッと詰め込んで余韻の香りまで楽しめる、私にとってポップスアルバムの理想形だ。


青野りえ「PASTORAL」ダイジェスト【全曲試聴】 full ver.

冒頭の伊賀航さんのウネるベースからジワジワと熱くなるアルバム表題曲「PASTORAL」。シティポップスのアルバムの1曲目で最強だと思うのはキラキラした疾走感が眩しい荒井由実COBALT HOUR」なのだが、そんなムードをもっとグッとオトナのファンキーさで攻めた最高にクールな名曲。話し声までウットリする青野さんの語り「prelude」に続いて、まさしくドライヴ中にFMラジオから流れてくると雰囲気バッチリな「On the Radio」へ。しっとりしたアカペラから一気にダンサブルなグルーヴになだれ込んでいく構成は、吉田美奈子「愛は彼方」を彷彿とさせる。チュッチュッチュッチュッフワァー♪というすこぶるキュートなコーラスにもキュンとやられた(青野さんの多彩なコーラスワークは流石)。これから大好きな彼に会いに行く爽快ウキウキ通り、ラヴがいっぱいの「Love Always」で街を歩く足取りもふわりと軽くなる。そんなラヴラヴモードから一転、最初の一節”返事はいらない”からもユーミンが匂い立つ、慈しみと切なさに満ちた別れのバラード「大桟橋」でメロウに黄昏れる。タメを効かせて見事に泣く伊賀航&北山ゆう子リズム隊は、細野晴臣林立夫コンビにも負けていない。新進気鋭のAORユニット、ブルー・ペパーズの井上薫さんが作曲した「晴海通り」はどことなくキリンジにも似たさりげなく変態的に凝ったポップナンバー。山之内俊夫さんのTighten Upっぽいリズムのカッティングギターやあれ?鈴木茂さんが弾いてるの?と(良い意味で)勘違いしてしまいそうな音色とフレージングのギターソロがツボど真ん中。当初アルバムタイトル候補だったというゆりかもめは、青野さんの芯のある伸びやかな歌声に海岸を颯爽と飛び回るゆりかもめのようにそれでも前を向いて生きていくわよという強い意志みたいなものを感じてグッとくる。続くチェルシーもまた然り”おろしたてのブーツで またひとり出掛けるわ”、重たく弾むオルガンのリズムと勇壮なギターソロに背中を押され、しっかりと地面を蹴って凛として街を歩いていく。最後は、ゆっくりと暗がりになる街にそっと手を振って家路につく穏やかな「夕さリ」。家に着いてふっと一息ついたら、ふっとアルバムは終わる。


『PASTORAL』 青野りえ(2017年)

01. PASTORAL
02. prelude
03. On the Radio
04. Love Always
05. 大桟橋
06. 晴海通り
07. ゆりかもめ
08. チェルシー
09. 夕さリ

録音メンバー...
青野りえ、関美彦、伊賀航、北山ゆう子、山之内俊夫、井上薫、吉田仁郎、長谷泰宏

Produced by: Yoshihiko Seki
Chorus Arranged by: Yoshihiko Seki, Rie Aono / (M03) Yoshihiko Seki, Jiro Yoshida, Rie Aono
Recorded by: Eiji Hirano at Studio Happiness / Jiro Yoshida / Toshihiro Mizuno(MOMO Records) at MOMO Studio
Mixed and Mastered by: Eiji Hirano

※おっ!これまたスタジオ・ハピネスで録音されている。当ブログで紹介した作品では、BAND EXPO『BAND EXPO』、TRICKY HUMAN SPECIAL『黄金の足跡』、大なり><小なり「PLUG AWAY」もスタジオ・ハピネス産。アナログの質感に近い70年代風のサウンドやフィーリングを出したいならここ、っていう感じですなぁ。

『ある日の続き』 吉上恭太

やっぱり秋はシンガーソングライターが似合うよね。なんて言いながら、70~74年くらいまでのシンガーソングライターのレコードを棚から引き抜く。という選択肢に、最近、もうひとつ増えた。70~74年くらいまでのシンガーソングライターのレコードか吉上恭太『ある日の続き』か、どれにしようかな?嬉しい悩み。...思わず前記事をサンプリングしてしまったが、実際に秘密のミーニーズ『It's no secret』と交互に聴いている。そんな豊かな秋。

ある日の続き

ある日の続き

文筆家でもある吉上恭太さんの還暦にして2ndアルバム『ある日の続き』。正直、吉上さんのことをよく存じていたわけではないけども、ツイッターの私のタイムラインでしばしば名前を目にしていた方。渋谷Cabotte辺りで若い人たちに混じってライヴをしていたり、古書ほうろう(一度だけふらっと訪れたことがある)での吉上さん主催のイベント”サウダージな夜”にクララズのクララさんがゲストで出ていたり、ちょっと気になる存在で。そんな折、roppenのギタリスト渡瀬賢吾さんよりレコーディングに参加しました(エレキギター、ペダルスティールで八面六臂の大活躍!)とアナウンスされた『ある日の続き』発売のニュース。プロデュースは谷口雄さん(元・森は生きている、現・1983など)と吉村類さん、何やらバンドメンバーも渡瀬さん始め若い精鋭たちが集っているという。親子ほど離れた(実際に谷口さんのお母さんと吉上さんは同い年だそう!)年の差どんくらい?セッションへの興味が沸々と。帯のコメントは憧れのパイドパイパーハウス店長の長門芳郎さんだし、トドメは売り文句の”新時代の「ワン・マン・ドッグ」”。『ワン・マン・ドッグ』というのは、ジェイムズ・テイラーの72年のハートウォームなシンガーソングライター名盤であり、私の心の名盤No.1である。もはや買わない理由なんて無い、ので買った聴いた惚れた。再生ボタンを押した瞬間に響き渡るアコースティックギターの洗練とイナタさが同居するつま弾きを聴いた瞬間、幸せな笑みがこぼれる。バンドの演奏もまさしく『ワン・マン・ドッグ』でバックを務めたザ・セクションのように、あのちょっとソウルミュージック入った温かい歌心のあるグルーヴだ。そこに乗る吉上さんの哀愁ある朴訥とした歌声は、これまた大好きな中川イサトさんを彷彿とさせる素敵さ。鶯じろ吉さん(長門さん曰く、バーニー・トーピンのよう)による何気ない街に生きるさりげない心象風景を小粋に切り取った詩もサウンドに見事に溶け込む。日常生活の延長線上で、あまりに自然にじっくりと歌と言葉と音とリズムに浸れるアルバムである。即ち、ある日の続きのソングブック。これでいいのだ、これがいい。

soundcloud.com

そう、笑っちゃうくらい頭からお尻までジェイムズ・テイラーしてる愛すべき「ぼくが生きるに必要なもの」でアルバムはスタート。特に竹川悟史さんのゴリッとしたベースプレイが実にリーランド・スクラー、ドラマーのイメージなので驚いた。5分で消えてしまう夕焼け、コバルトブルーの自転車...タイトル通りぼくが生きるに必要なものが訥々と並べられる、私は何よりも”クリムゾンレッドのギター”にグッとくる。1曲目がそれなら2曲目は「Nobody But You」風のバラードで...と思いきや、渡瀬さん弾くデュエイン・オールマンばりの泥沼スライドギターがけたたましいブルーズロック「かもつせん」は、豪快な”Shyness Is a Warm Gun”だった。すっかり度肝を抜かれるも、谷口さん(タニー・クーチ)と吉上さんとのアコースティックギターのハーモニーが美しく穏やかな「犬の瞳が月より冴えたら」は再びJTムードで、ホッと一息。ついたかと思えば、次はどこか情けなくも憎めないホーボーソング「ホーボーだって深海魚の夢を見る」中川イサト「プロペラ市さえ町あれば通り1の2の3」に通じるゴキゲンで能天気なカントリー&フォークな逸品だが、最後に唐突に吠える並木万実さんの狂暴なトロンボーンでガツンと夢から覚める。さぁ歩き疲れたから家に帰ろうか、暮れなずむインスト曲「ieji」で前篇(A面)終了。ヴィブラフォンとフルートの音色が麗しいサウダージ感いっぱいのボッサ「one day~或ル日ノ続キ」は、ジョン・セバスチャン「Magical Connection」を参考にしたであろうメロウなアレンジにうっとりするが、時折聞こえてくる珍妙なパーカッションは照れなのだろう、か。夜空を照らす明るく朗らかなポップナンバー「ほしどろぼう」、ワウワウギターとペダルスティールの幻想的な音の重なりに天の川が見え、”Don't cry!”に肩をポンと叩かれてなんだか元気が湧いてくる。アコースティックギターとペダルスティールとピアノだけのシンプルな語り口で、ぐっとロマンチックにしっとりと「十一月の寓話」、歌われる”ジョニ・ミッチェル”という名前の甘美な響きよ。そして、タイトルからしてもう掛け値なしの名曲「ごはんの湯気で泣くかもしれない」は間違いなくアルバムハイライトだろう、フィフス・アヴェニュー・バンドにも負けずとも劣らない爽快なシティポップスだ。渡瀬さんの土釜から染み出るような旨味あるオブリガートにギターソロ、谷口さんの炊きたてホヤホヤのごはん粒みたくエレクトリックピアノの艶やかな音、ちょうどいい固さ柔らかさの瑞々しく粘りのあるリズム隊、とにかく絶品のバンドサウンドに舌鼓を打つ。思わず何杯もおかわりしたくなるが、最後の曲へ。泣くかもしれないから結局泣いてしまう「涙」は、古書ほうろうでの旧いラヂオから聞こえてくるかのような音質の弾き語り録音。感情の行き場を失いひとりでに流れる十七の娘の涙(詩:菅原克己)、うっすらと聞こえる外の通りの雑音まで愛しいエンドロール。

これがぼくが生きるに必要なレコード。だなんて、ちょっと言い過ぎただろうか。心のレコード棚の手に取りやすいところには置いておこう。


「ごはんの湯気で泣くかもしれない」by 吉上 恭太 @ひしょう 5.3.2017

”鈍感だから 笑ってる/臆病だから 生きのこる”


『ある日の続き』 吉上恭太(2017年)

01. ぼくが生きるに必要なもの
02. かもつせん
03. 犬の瞳が月より冴えたら
04. ホーボーだって深海魚の夢を見る
05. ieji
06. one day~或ル日ノ続キ
07. ほしどろぼう
08. 十一月の寓話
09. ごはんの湯気で泣くかもしれない
10. 涙

録音メンバー...
吉上恭太、谷口雄、渡瀬賢吾、竹川悟史、北山ゆう子、増村和彦、並木万実、影山朋子、松村拓海

Produced by 谷口雄
Co-produced by 吉村類
Recording engineered by 馬場友美、谷口雄
Recorded by TANGOK Studio and some other nice places
Mixed by 谷口雄
Mastered by 原正人

Cover & booklet illustration by 山川直人
Photography by 鶯じろ吉、とも吉
Design by 板谷成雄

『It's no secret』 秘密のミーニーズ

やっぱり秋はフォークロックが似合うよね。なんて言いながら、60年代~70年代前半くらいまでのレコードを棚から引き抜く。という選択肢に、最近、もうひとつ増えた。60年代~70年代前半くらいまでのレコードか秘密のミーニーズ『It's no secret』か、どれにしようかな?嬉しい悩み。

秘密のミーニーズの1stフルアルバム『It's no secret』。ナウなヤング6人組ロックバンドによるイカした西海岸の風が吹くフォークロック名盤が誕生、ピンポイントでこういうレコードが聴きたかった!おお同志よ!と叫びたい気分だ。それはニール(な)ヤング『渚にて』(1974年)の渚でぼんやり佇む後ろ姿LPジャケットを模した、ツボすぎるCDジャケットから既にプンプン匂い立っており、思わずルーツロック愛好家はニヤリと手に取ってしまうだろう。そして、その音楽をサウンドを聴いて更に倍ニヤリ。CSN&Yザ・バーズザ・バンドグレイトフル・デッド、ジェファーソン・エアプレイン、はちみつぱいGARO...彼らの生まれるずっと前の憧れの音世界(私もそうだが、きっと彼らは新譜のように聴いているのだろう)に近づこうとする並々ならぬ気概と探究心、でありながら、マニアックに閉じて終わる気配など無く、ダイナミックで力強いライヴ感のあるすこぶる風通しの良い開けた作品になっている。のが何よりも嬉しい。前向きなレイドバック感、フレッシュな鮮度抜群のロックアルバムである。また、そんなユニークなサウンドだけでなく、曲良し、アレンジ良し、演奏良し、アルバム構成良し、何と言ってもボーカリスト三人の歌唱&ハーモニー素晴らし!『それは秘密ではない』というアルバムタイトルが示す通り、1stにして堂々と出し惜しみなく集大成的な充実ぶりに、今年の私的最優秀新人賞(3年前にミニアルバムを出しているので、もう新人じゃないかもだが)どころか、私的ベストアルバムに挙げてしまいたい。私のようなルーツおじさんだけでなく、ヒップなロックを求めている若い人たちにも聴いてほしいし、青春のレコードであってくれたら最高だなぁ。


秘密のミーニーズ1stアルバム『イッツ・ノー・シークレット』トレイラー

最初の一音から生々しくガツンとくるロックな生ギターの響きで一瞬にグイッと心を掴まれる「ねずはうす」でアルバムは始まる、一歩一歩ズシリと大地を踏みしめるような重厚なグルーヴが完璧なリードトラック。クロスフェードで続くのは、一転して、マンドリンがおどけてる軽快なカントリーロック「モーニングレイン」でゴキゲンに踊らないか。「アルカイックスマイル」は現代的なサイケデリックサウンド(Beachwood Sparksを意識したらしい)でまどろみの世界、ゆらゆらとゆらぐ渡辺たもつさんの歌声があまりに溶け込んでいる。ここまでのリードボーカルが1曲目は菅野みち子さん、2曲目は淡路遼さん、3曲目は渡辺さんと三人のボーカルを順に紹介するという流れだろうか。菅野さん作の「風はざわめき」はスティールギターを基調にしたしっとりとしたカントリーポップの名曲、タイトルからシュガーベイブにおける大貫妙子さんを思い出したりもしたが、菅野さんの可憐に美しくも幹のたくましい歌声は本当に素敵で聴き惚れる。クラシックギターでポツリと優雅な調べ「#無題1」から気怠くどこまでも心地良いジャムセッションハマナス特急/海岸線より」へとインストナンバーが2曲(後者はメドレーだから3曲か)続くという展開は他ではなかなか見られないだろうが、無意識に音に身をゆだねていると気が遠くなり思わず寝落ちする...『渚にて』もそうだが、往年の名盤は大抵途中で眠くなるものである。菅野さん作のこれまた名曲「虹の架かる丘を越えては、アルバム最後にリプライズが来ることからも分かるように、アルバムの核となるであろう壮大で荘厳なフォークロックナンバー。菅野さんの切ない歌とメロディーにうっとりと酔いしれたかと思えば、終盤の突如熱く燃え上がる(スティールギター含む)ギターソロバトルに心震える。


秘密のミーニーズ〜風はざわめき【PV】

まだふわり夢うつつ状態の中、アルバム後半戦は景気良くウエストコーストど真ん中「名まえの無い鳥」(馬ではない)でスタートする。三声ハーモニーのあまりに爽快な疾走感に胸躍り眠気も吹っ飛ぶ、淡路さんのぶっきらぼうでダンディな70年代声で”悩んでる君も綺麗さ”なんて歌われたら...惚れちまうやろ。お次はタイトル通りの豪胆なスワンプロック「ヌマベの踊り」で溌剌と泥臭く攻める、ここでは誰よりも菅野さんのボーカルが男らしい!姐さんと呼びたいくらいだ。そんな怒涛のロック攻勢のとどめは青春がロックしてロールする「ローリン・アンド・タンブリン」、気づいたら一緒に拳振り上げ大合唱していた。吞めや歌えやの宴は続く。フィドルバンジョーお転婆にはしゃぎまわる、はちみつぱい「煙草路地」を思い出さずにいられない、酔いどれダンスミュージック「麗しの四姉妹」は唯一の淡路さん作、騒々しく微笑ましい姉妹喧嘩が目に浮かぶ。クラシックギターでポツンと寂し気な「#無題2」を挟み、今度は渡辺さん作のはちみつぱいムードのアーシーでメロウな「藪の中」。最後の黄昏色のセンチメンタルなギターソロまで、じっくりと静かに深く沁み入る。そして、『It's no secret』のエンドロールは、サイケさを増した「虹の架かる丘を越えて(reprise)」で再びドリーミーな余韻を残す...鮮やかな名盤の風格。


秘密のミーニーズ〜名まえの無い鳥【PV】

『It's no secret』 秘密のミーニーズ(2017年)

01. ねずはうす
02. モーニングレイン
03. アルカイックスマイル
04. 風はざわめき
05. #無題1(instrumental)
06. ハマナス特急/海岸線より(instrumental)
07. 虹の架かる丘を越えて
08. 名まえの無い鳥
09. ヌマベの踊り
10. ローリン・アンド・タンブリン
11. 麗しの四姉妹
12. #無題2(instrumental)
13. 藪の中
14. 虹の架かる丘を越えて(reprise)

秘密のミーニーズ...
菅野みち子 Vocal, Chorus, Acoustic Guitar
淡路遼 Vocal, Chorus, Percussions
渡辺たもつ Vocal, Chorus, 6-12 Acoustic Guitars, Electric Guitar, Banjo, Pedal Steel, Mandolin, Electric Sitar
青木利文 Electric Guitar, Fiddle, Rap Steel
高橋U太 Drums, Percussions
相本廉 Bass

Guest Musicians 藤本晃史(All Keyboards, Cowbell)、高田慎平(Conga)

Mixed by DEWマキノ
Mastered by 中村宗一郎


そう言えば、『渚にて』では砂浜に自動車が突っ込んでいたが、『It's no secret』では自転車が突っ込んでいる。そんなどこか親しみやすさのある彼らの佇まいも魅力的だ。好きなバンドはたくさんいるが、好きを超えてこのバンドに入りたい!と思ったのは、ラリーパパ&カーネギーママ以来である。楽器は弾けないが、見た目の雰囲気的に馴染める自信はある(笑)。先日のレコ発イベントではBAND EXPOとも共演し、漏れなく賞賛されていた彼らのライヴも是非観てみたい。いつか関西にも来てほしい、拾得とか似合いすぎるだろうな。

『Suburban Baroque』 カーネーション

夏の終わり~秋の入り口にカーネーションから飛びきりメロウなレコードが届いた。通算17枚目(毎度驚く)のニューアルバム『Suburban Baroque』

何と前作からわずか1年というハイペースぶりでこの充実ぶり、もう何度目のピークか分からないけども、とにかく絶好調である。前作『Multimodal Sentiment』では諦念や情けなさまでも包み隠さずグルーヴに昇華させたロックな痛快作であったが、今作『Suburban Baroque』では(郊外のバロックというタイトルからも滲み出ているように)メロディーや歌により焦点を当てたカーネーション歌謡集あるいはスタンダードポップス集といった印象だ。これぞ最高傑作!と興奮気味にガッツポーズする感じというよりは、嗚呼...ええやん...とボソッと無意識に洩れてしまう感じ。もちろん圧倒的にポップであるが、派手さは控えめにキャッチー過ぎずジワジワくる。それってとってもカーネーションらしいアルバムだし、これまた私の好きなカーネーションでもある。そして、今作でカーネーションらしいと言えば、久しぶりに矢部浩志さんのドラムがカーネーションで聴けるというファン落涙の喜び(7曲も!)。とは言え、特別な感慨があるかと思いきや、私自身は意外とニュートラルに楽しんでいる。きっと矢部さんのドラミングがあまりにも楽曲に溶け込んでいるからなのだろう、後でクレジットを読み返したら矢部さんだったと思い出す。それが嬉しい。その他の参加メンバーの演奏も然り、いい意味で黒子的な仕事ぶりで(「VIVRE」のホーンアレンジは浦朋恵さんだったのか!とか)、見事に歌を引き立てている。聴き惚れる歌曲が滑らかに続く全11曲48分、繰り返し聴くのにはちょうど良い時間だろう、秋の夜長に本の頁を大事に一枚一枚めくるようにじっくり味わいたいアルバムだ。

Suburban Baroque

Suburban Baroque

再生ボタンを押した瞬間に流れてくるピアノのフレーズが「It's a Beautiful Day」のあの感じを思い出さずにはいられないウキウキ心弾むソウルナンバー「Shooting Star」で幕開け、どこを切っても直枝節で美味しいところだらけの大盤振る舞い(そう言えば、前作収録の「いつかここで会いましょう」は「Edo River」の地続きの風景であった)。続く「Peanut Butter & Jerry」では、矢部ドラムのリズムが「Superman」を匂わせる軽快さからサビで一気に狂おしくセンチメンタルなメロディーへなだれ込んでいく快感。ゴキゲンでハチャメチャなパワーポップ「ハンマーロック」は関節技と言うよりブレーンバスターばりの豪快さ、吊り橋の途中で技かけられたら危ない!待望の大田譲さんボーカル曲「Little Jetty」スティーリー・ダン『うそつきケイティ』あたりを意識したであろう粋なAOR、大田さんの加藤和彦ぶりを堪能してください。LPで言うところのA面ラストは、ポール・マッカートニーの小品バラードのような「夜の森」で、しっとりとマイ・マインドがメロウにとろける。ティーンエイジファンクラブ的なミドルテンポのギターロックで悩める若者たちへの静かな共感と励まし「Younger Than Today」は(年齢的に)自分に向けられているのかはともかく、その優しさに泣けて仕方がない。アイルランド民謡?賑やかなアレンジがすこぶる愉快な「金魚と浮雲はナイスアクセント。いつだってアイドルに夢中であるのと同時にアイドルに夢中であることの悲哀、「Girl」にはいろいろなことを考えさせられる!?気怠く愛らしい音像はNRBQが描く少女にも通じる、密かに好きな歌。一転して、質実剛健に男臭く攻める(大田さんのたくましいコーラス!)ニール・ヤング調フォークロック「Suspicious Mind」もまたカーネーションワールドなのだ。旬のキュートな歌姫・吉澤嘉代子さんをコーラスに迎え切なさの嵐を吹かせる「Please Please Please」で、グググっと込み上げてくる。そして、クロージングナンバーは、穏やかな多幸感に溢れた紛うことなき名曲「VIVRE」。”夜と朝の間”にピーター「夜と朝のあいだに」を思い出すのは私だけかもしれないが、いかにせよ往年のスタンダードナンバーに比肩する極上のメロディー、アレンジ、サウンドに夢心地にうっとりするしかない。エレガントなポップスはささやかな生きる灯火になる、ということ。


カーネーション「Peanut Butter & Jelly」Music Video

『Suburban Baroque』 カーネーション(2017年)

01. Shooting Star
02. Peanut Butter & Jerry
03. ハンマーロック
04. Little Jetty
05. 夜の森
06. Younger Than Today
07. 金魚と浮雲
08. Girl
09. Suspicious Mind
10. Please Please Please
11. VIVRE

カーネーション直枝政広、大田譲
参加メンバー:矢部浩志、張替智広、岡本啓佑、松江潤佐藤優介、藤井学、田村玄一、吉澤嘉代子、徳澤青弦 etc

【私の好きな歌021】「トランスファー」くるり

つい先日、東京のうちだあやこさんと不知火庵さんの摩訶不思議な男女ポップデュオdodoの初来阪ライヴを雲州堂で観た。彼らの絶妙に溶け合うユニゾンハーモニーが唯一無二な世界で感動、関西にはこんな音楽やってる人いないとうちださんに言ったら、うちださん「そうなんですね。でも、dodoは京都っぽいと言わることがあるんですよ。くるりとかボニーピンクとか京都の音楽が好きだったので、そう言われると嬉しい」と。ふむ京都かぁ、なるほどなぁ。うちださんが言う京都というのは、おそらく1990年代終わりから2000年代初頭くらいまでのくるりの登場で一躍注目されることになった頃の京都のことなのだろうと思う。京都の夏は猛烈に暑いが、あの頃の京都は猛烈に熱かった。くるりを輩出した立命館大学の軽音サークル”ロックコミューン”からはキセル、チェインズ、ママスタジヲなど続々と。そう言えば、雲州堂の前日にFUTURO CAFEでdodoと共演していた京都のSATOさんがビバ☆シェリーとして元カーネーション棚谷祐一さんプロデュースでデビューしたのもその頃だった(2003年2月。京都タワーレコードでのインストアライヴを目撃)。アングラっぽくポップな独特の京都臭というのが確かに匂っていた時代。

...とか書いていると、なんかその頃のことをいろいろ思い出してきたので、書き連ねていく。というのも、ちょうどその頃に私は京都に住んでいた。1998年4月18才の春、私は大学入試を大失敗し、兵庫の田舎に予備校が無かった為に、憧れの京都に出てきた。敢えて高校の友だちやクラスメイトが誰もいないマイナーな予備校に決め、同志社大学今出川キャンパスすぐ近くのシャワー(湯船はない)とトイレと小さいキッチン付きの狭い古アパートで一人暮らしを始める。予備校で仲良くなった人もいたが、そんな遊んだりすることもほとんどなく、基本的には予備校にいるか部屋にいるかしかない。部屋ですることと言えば、音楽を聴くことくらいしかない(勉強せえよ)。悶々としていた。あ、ラジオも聴いていた。高校から引き続きNHK-FMミュージクスクエアは聴いていたし、くるりが京都のFM局α-STATIONでやっていた”FOUL 54”という番組(1999年1月-3月)も楽しみで聴いていた。セロファンの西池崇さんが電話ゲストで出た時に、岸田繁さんがセロファン先輩と呼んでいたので、セロファンは偉いバンドなんやと思っていた。確か関西のNHK(テレビ)で、くるりセロファンスウィンギング・ポプシクルオセロケッツと関西出身のバンドが集ったライヴを観た記憶があるが、定かでない。そのくるりのラジオ番組に、”浪人ダブルヘッダー”のラジオネームでカーネーション「なにかきみの大切なものくれるかい」をリクエストしたら、かけてくれた(続けてかかったのはリール・ビッグ・フィッシュ)。それを聴いて、岸田さんは「ええ曲ですねー」と言ってくれた。そのリクエスト葉書で番組特製くるりタンバリンも当たったのだけど、大学が決まり、直後に引っ越ししたので、未だ届いていない...。浪人時代は北大路ビブレのJEUGIAまでチャリンコ走らせてCDを買っていた(調べたら、2012年に閉店)。くるりさよならストレンジャー』歌詞カードの「ランチ」の頁に写る北大路通りの交差点を見ると、何とも言えないむず痒い気持ちがする。これも青春、の風景。

くるりはデビュー当時のやるせなくサエない感じが好きだった。なので『さよならストレンジャー』~『図鑑』に思い入れがある、「春風」も美しい名曲だ。正直、「ばらの花」はあまり好きではない。久しぶりに『さよならストレンジャー』を聴いたら、「東京」に続く軽やかな「トランスファー」が小粋でええなぁとグッとくる。サビがビートルズの「She Said She Said」だと気づく、そりゃあ好きだ。ドラムス森信行さんは私と同じ誕生日、私のちょうど4つ年上。

さよならストレンジャー

さよならストレンジャー

京都の音楽思い出話は続く...かもしれない