レコードは果てしなく

好きなレコードや観たライヴのことを喋ります。'79年生まれ。

『JACK TOO MUCH』 ジャック達 【前編】

ロックリスナーとしての私の2016年を締めくくる白組の大トリは、日本のロックのぼくの伯父さん一色進率いるジャック達の新作4枚目のオリジナルフルアルバム『JACK TOO MUCH』!大階段から華々しく登場。その名の通り、ジャック達以上にジャック達としか言いようのない、ロックの愛とロマンがトゥー・マッチに満ち溢れた、絵に描いたようなロックアルバムだ。嬉しい、幸せ、のふた言。もしかしたら一色さんの全キャリアでも最高傑作かもしれない。こんなあられもないロックは流行とは遠くかけ離れたところで鳴っているのだろうけど、そんなことはどうでもいい、私にとっては今のど真ん中。ロックを笑う者はロックに泣く、のだよ。

ジャック達/JACK TOO MUCH

ジャック達/JACK TOO MUCH

前作『JOYTIME』は一色さんの少年の頃からの夢想を形にした17分に及ぶ超大作スペクタクル表題曲が目玉だったが、今作は従来のコンパクトにギュッとジャック達ならではのポップの旨味と不思議味がグツグツに煮つめられた(気持ちは)3分ロックが怒涛の13曲。天からデヴィッド・ボウイが降りてきた感動的な泣きの名曲「暁ワンダー・ボーイ」で幕が上がるのがいささか意外ではあるが、続く「マイ・ベイビィ・アン」~「カジュアル」でのゴキゲンでノリノリの(他愛のない)ラヴソング&ロックンロール連発で、ここからはもうジャック達ワールド全開である(麥野むぎさんとの呆れたデュエット「ブロッコリー」も楽しい)。シンプルに見せかけて、実は多種多様なアイデアをもってアレンジが練り込まれており、ハマると抜け出せないトラップがいっぱい仕掛けてある(一色さんの歌がもうすでにトラップだが)のはいつも通りなのだけど、それがこれまで以上にキレまくってるように感じる(曲間や曲のつなぎにも細心のこだわり)。レコーディングマジック、ここに極まれり。演奏もグルーヴも躍動感たっぷりだし、60年代風味のアナログなサウンドも太くたくましい。各人の演奏の見せ場を強調するメリハリのある夏秋文尚さん、松田信男さん(シネマ)のミックスがまた痛快だ(マスタリングは中村宗一郎さん)。是非とも、PLAY IT LOUD!!でお願いします。そして、前作ではギターの宙GGPキハラさんが初めてリードボーカルを取った「物憂げ」や件の表題曲でもそれぞれのボーカルが少しずつ聴けはしたが、今作ではついにサポートの大田譲さん(fromカーネーション)含む4人全員のリードボーカル曲が用意されている、のが大きな特徴だろう。これがまたなんとも...素晴らしい出来で(涙)。決して上手くはないけど、どこか憎めない味のあるちょっとかわいらしい歌声が共通している(まるでNRBQのよう)。これでいよいよ完全無敵のロックバンドになった、かもしれないジャック達。それってめっちゃカッコイイ、かもしれないジャック達。

宣伝コピーで、一色さんのことを”東京インディー・シーンの隠れた秘宝”と表現している。秘宝の時点でもうすでに隠れているのだから、さらに隠れている。困ったものだ。その土埃の積もった宝箱を開けるかどうかはあなた次第ではあるが、とりあえず、ちょっとだけ開けて手を突っ込んで確かめてみては?ミミックだったら、すいません。って、堂々と推薦しろよ!本当は私だけの秘宝にしておきたかったけど、しょうがないな。『JACK TOO MUCH』、控え目に言っても、2016年度の私的ベスト・レコードです。(後編に続く)


『JACK TOO MUCH』ジャック達(2016年)

01. 暁ワンダー・ボーイ Wonder Boy On The Red Moon
02. マイ・ベイビィ・アン My Baby Ann
03. カジュアル Casual
04. スキニー・スキニー Skinny Skinny
05. ブロッコリー Broccoli
06. 飛ぶ前に跳べ Jump Before Fly
07. 君は2こ上 You Are 2 Years Older
08. The Time Has Come
09. Stormy April Blues
10. プラスティック・トイ Plastic Toy
11. Silly Girl
12. アル・カポネ Al Capone
13. 天国行き最終列車 Last Train To Heaven But I Don't Know Where To Go

JACK-TATI
SUSUMU ISSIKI: vocals,guitars,keyboards
FUMIHISA NATSUAKI: vocals,drums,keyboards
HIROMU GGP KIHARA: vocals,guitars
And
YUZURU OTA(CARNATION): vocals,bass

NOBUO MATSUDA: keyboards
MUGI MUGINO(PANTINCHINOIS): vocals


↓OTOTOYのサイトでジャック達のインタビューをどうぞ。ロックリスナーもバンドマンも必読の好内容です。DLページでは試聴もできるよ。
ototoy.jp

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ブロッコリー」の妄想MVイメージです...。ザッツザウェイ、パクリ疑惑!?

【私の好きな歌011】 「Bright Lights Bugcity」青山陽一

街のクリスマスモードも年々早くなってきてるように感じますが、私も二週間前にクリスマスの話を。と言っても、リアル充実な人たちが盛り上がってるだけのイベントに、特別なエピソードなんてありませんけど...。非リアル充実の私はクリスマスにコンビニになんか行って、サンタの格好させられた暇そうな女子店員や客が冴えない男たちばかりだったりすると、おお同士よ、なんてホッとするくらいでしょうか(苦笑)。かと言って、クリスマスが嫌いというわけじゃなく、街がイルミネーションできらびやかになったり、なんか浮かれてる感じも、たまにはいいじゃないっていう。そして、クリスマスソングは本当にホントに大好き。だって、夢見心地なポップスの集大成でしょう。風物詩のシャンシャン鳴る鈴の音を聴くだけでも、ホッコリ幸せな気持ちになります。

というわけで、今回は私のフェイバリットなクリスマスソング、青山陽一Bright Lights Bugcity」を...って、どこがやねん!歌詞にクリスマス的なアイテムが出てこないし、鈴も鳴ってないじゃないかと突っ込まれたことでしょう。でも、私にはクリスマスソングに聞こえるのだからしょうがない。何と言うか、クリスマスの私の心象風景を見事に歌にしてくれているのです。この歌を聴いていて頭に浮かぶのは、クリスマスの喧騒と眩しすぎる街の通りを隠れるようにコートの襟を立てて足早に通り抜けていく男の猫背。そんな寂しい男を徹底的にロマンティックな曲調アレンジ演奏で力強く優しく包み込む。後半に進むにつれてじわじわとこみ上げてきて、青山さんが熱く歌い上げる”正午を打つ時報は鳴り響いている~♪”で涙腺崩壊。嗚呼、美しき孤独。人それぞれにそれぞれのクリスマスがある、メリークリスマス!(だから、早い)

Bugcity

Bugcity

Bright Lights Bugcity」青山陽一(2001年)
song written by 青山陽一

青山陽一 vocal,electric guitar
石坪信也 drums
青木孝明 fretless bass
伊藤隆博 piano,trombone
川口義之 tenor&alto sax

※前年のキリンジ「千年紀末に降る雪は」も似たような風景が拡がります。

【私の好きな歌010】 「Fly Fly Fly」柴山一幸

(しつこく言うけど)9月28日にBAND EXPO『BAND EXPO』とTRICKY HUMAN SPECIAL『黄金の足跡』、そのちょうど一週間後の10月5日にこの柴山一幸『Fly Fly Fly』、と怒涛のように傑作レコードがリリースされ、ロックリスナーな私的に2016年最も熱い週だった(全てドラムス矢部浩志さんだし!)。どれもこれもが聴き応えありまくる名曲名唱名演ばかりで味わうのに忙しい、嬉しい悲鳴ってやつだ。私が背中を見ている先輩は彼らのような世代であって、ベテランとも言えるキャリアがあり、ある程度の高い(足らないけど)評価を受けていた(一幸さんの言葉を借りると)ナイスミドルな音楽家たちが何となく安定した存在として、あまりスポットが当たらないのが歯痒い。こんなにビンビン心に響く刺激的な歌が生まれているのに、聴かないのは勿体ない。全くもってナウな音楽なのだよ。

そんな中でも最高にホットなシンガーが柴山一幸さんだ。2013年の3rd『I'll Be There』から始まり、2014年に4th『君とオンガク』、昨年は5th『YELLING』と毎年オリジナルアルバムを発表し、そして、今年も『Fly Fly Fly』という新たな名盤が届けられた(何だかサラッと言っているが、その全てが全身全霊の作品なので、とんでもないことである)。前作はバンドメンバーを一新し、その勢いに満ち溢れたロックンロールアルバムだったが、今作はしっかりと興奮させながらもじっくりと歌を聴かせる身体の芯からじわりと熱くなるアルバム、という印象だ。リードトラックとして、富士山ご当地アイドル3776の井出ちよのさんと石田彰プロデューサー(実は2nd『涙色スケルトン』にも参加していた)をフィーチャーしたことで話題になった、現代版I Want You Backとも言えそうなキャッチーでクールなディスコナンバー「That's The Way」でツカミはバッチリ。他にも、思わずカーネーションファンもニヤリな爽快なポップロックサーモスタット」、真骨頂の激情バラード「uSOTSUKI」、Be My Babyでナイアガラなリズムで穏やかに語られる亡き父への想い「たとえばこんなレクイエム」、パンクなスタイルカウンシル歌謡「Now Is The Time」など、バラエティに富んでいるのは流石のプップフリークである。


柴山一幸 featuring 井出ちよの、石田彰 / That's the way

何と言っても、このアルバムの凄味は最後の3曲なのだ。全てがここに収斂されていく。ジョニィへの伝言に恋は桃色にニール・ヤングが混ざり合ったような泥沼から這い上がるフォークロック「希望の橋」でググッとこみ上げ、続く、あまりにも美しく儚く壮大なアルバム表題曲「Fly Fly Fly」で羽ばたいていく鳥たちと共に感動が空高く舞い上がる。柴山一幸の祈り、生と死、ゴスペルミュージック...泣きながら多幸感に包まれる。抑制と高揚、完全に詩の世界と一体化した一世一代の歌唱に、自然と引っ張られてバンドの演奏も眩しく光り輝いている。アルバムではフェードアウトしているが、実はディスクユニオンの特典でこの曲のフルバージョンが聴ける。そのフェードアウトしてからの1分50秒の演奏が、また一段と狂おしい(アルバムとしてはフェードアウトで正解)。どうやら終了の合図を出しても、演奏が止まらなかったようだ。そのバンドメンバーの気持ち、分かる。こんな凄まじい名曲を終わらせたくない、みんな感極まりながら演奏していたのではないだろうか。またオマエ大袈裟なことを言っているだろう、と思う前に、まずは聴いてほしい。これはもうロックとしか言いようがないのだ、体験しよう。そして、アルバムは、Natural Womanならぬ「Natural Man」で、高ぶった感情を鎮めるようにしんと静かに幕を下ろす。

Fly Fly Fly

Fly Fly Fly

「Fly Fly Fly」柴山一幸(2016年)
作詞作曲クレジットなし

※『Fly Fly Fly』参加メンバー
柴山一幸:Vo,Guitar,Arrange
杉浦琢雄:Keyboard,Cho,Arrange
矢部浩志:Drums,Arrange
若山隆行:Bass,Arrange
平田崇:Guitar,Arrange
加藤ケンタ:Guitar,Cho,Arrange
森芳樹:Per,Arrange

井出ちよの[3776]:Guest Vo
石田彰:Guest Rap

【私の好きな歌009】 「Better Love Next Time」Dr. Hook

レコード屋に行ってレコードに囲まれていると、なぜだかお腹がユルくなる。ビビビッと良いレコードに出会うためにアンテナの感度をより研ぎ澄ましているので、神経が過敏になっているのだろう。ある日もいつもの元町ハックルベリーでレコードを掘っていると唐突にお腹の緊急事態に陥り店を飛び出て必死で近く(そんなには近くはない。赤信号が長い)の大丸のトイレに駆け込んだ。事を済ませ、ふぅ...と一息ついた瞬間に、店内に流れていたのが、このドクター・フックの「愛はいっぱい」。なんだかもう幸せいっぱいな気分になった。むさ苦しく怪しい風体の彼らの温かく屈託のないディスコサウンドは、お腹にも優しい。

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「Better Love Next Time(愛がいっぱい)」Dr. Hook(1979年)
written by Pippen-Keith-Slate

【私の好きな歌008】 「その気になれば」中川イサト

中川イサトさんと言えば、アコースティックギターの名人であるが、私はイサトさんの歌が大好きだ。細野晴臣さんにも通じる人情味あるぶっきらぼうな歌、ちょっと情けない感じがするのが愛おしい。我が家にある70年代のイサトさんの歌ものレコード『お茶の時間』『1970年』『黄昏気分』、2枚組ライヴ盤『鼻歌とお月さん』は全てが全て宝物だ。中でも、宅録アルバム『1970年』はリバーブ多めのアシッドフォークなムードがたまらない。私を包みこむロンサム。

コタツでぼーっとしている今日は「その気になれば」な気分。”その気になりさえすれば 夏の終りの海が見られるのに”ということは、その気になれないので夏の終りの海は見ていない。部屋で想像の海を漂う引きこもりの歌だ(ろう)。『お茶の時間』でのエリック・カズ風のドラマチックなバンドアレンジも素晴らしいが、引きこもり度では『1970年』の素朴なギターと歌だけのバージョンに軍配。この歌の主人公と友だちになりたい。

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「その気になれば」中川イサト(1973年)
作詩:Kinta/作曲:中川イサト

【私の好きな歌007】 「俺の借金全部でなんぼや」上田正樹と有山淳司

浪速のぐっどたいむみゅーじっくやろか!?この歌の詩を完璧に覚えて、間違えんと歌う自信はありまへん。歌詩カードを見ながらでも、無理でんな。金の計算は苦手や。あ、せやけど、最後に全部でなんぼや?と訊いて終わっとるから、なんぼでも借金してもええか。うまいことできとる。

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「俺の借金全部でなんぼや」上田正樹と有山淳司(1975年)
作詩:三上寛/作曲・編曲:上田正樹&有山淳司

唄:上田正樹
アコースティック・ギター:有山淳司
エレキ・ベース:藤井裕
ドラム:正木五郎

【私の好きな歌006】 「Love Makes The World Go Round」Deon Jackson

愛すべきグッドタイムミュージックと言えば、この歌も外せないでしょう。グッドタイムソウルと言った方がいいかな。タイトルを訳せば「愛が世界をまわしてる」、なんて素敵なのだろう(涙)。イントロのトイピアノ?の可愛らしい音色、フィンガースナッピング弾む小粋なリズムにほんわかポップなメロディー、ディオン・ジャクソンのハートウォーミングなボーカル(お顔も優しそうでしょ?)にメロメロが止まりません。この曲が彼の唯一のヒット、いわゆる一発屋と言われてるみたいですが、こんな愛がいっぱいのポップソングを生んでくれてありがとう、最高じゃないか!とハグしたい気持ちです。

このアルバムには「Love Takes A Long Time Growing」というもう一つのナイスなグッドタイムソウルも。「愛はじっくり育つ」二匹目のドジョウ?気にしない気にしない(笑)。

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「Love Makes The World Go Round」Deon Jackson(1966年)
written by Deon Jackson