レコードは果てしなく

好きなレコードや観たライヴのことを喋ります。'79年生まれ。

『YELLING』柴山一幸

柴山一幸さんの5枚目のニューアルバム『YELLING』をずっと聴いています。前々作『I'll be there』('13)から前作『君とオンガク』('14)、今作('15)と1年に1枚アルバムリリースという今じゃなかなかありえないハイペースぶり。まさしく破竹の勢いの一幸さん。アルバムの内容の充実ぶりも凄まじく、今作も文句なしの傑作に仕上がっています。前作『君とオンガク』を聴いた時はあまりのテンションの高さに驚いたのですが、今作を聴いた後だと、結構ソフトでメロウな作品だったんだなと思い直すくらい、『YELLING』は全10曲37分隅から隅まで熱気と疾走感に満ち溢れたアルバムです。というのも、今作では前作・前々作のレコーディングメンバーがガラリと変わり、中でもドラマーに矢部浩志さん(元カーネーション、現Controversial Spark)を迎えたことが大きな要因でしょう(若山隆行さんのベースとの相性もバッチリ)。ガレージ臭漂うワイルドに突進するビート、バンドのグルーヴはますますダイナミックになり強力なウネりを生み出し、その大波に乗って一幸さんのボーカル&シャウトが天空まで突き抜けていきます。文字通りYELLING=叫びのアルバム。なんとなく今は醒めていることがカッコイイとされている時代なのかもしれませんが、それでも『YELLING』の熱い熱いソウルミュージック(ジャンルではなく)は胸を打ち抜くと思います。

①「Headway」(words:柴山一幸/music:柴山一幸&杉浦琢雄)
再生ボタンを押した瞬間、ベン・フォールズ・ファイヴばりの叩きつけるようにガンガン鳴るピアノ(弾くのは杉浦琢雄さん)に導かれて『YELLING』は始まります。これぞロックアルバムのオープニングナンバー。歌もシャウトもバンドも何もかもが叫んでいます。こちらのイカしたMVをどうぞ↓

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②「一つの幸せ」(words:柴山一幸/music:柴山一幸&杉浦琢雄)
これはもう柴山一幸ワールド独壇場、ダサい表現と言われるのを覚悟で”魂の”バラードナンバー。もうそれ以外ないのです。グッとくるしかないのです。ある意味ハイライト的とも言えるようなこの名曲が早くも2曲目で出てくる、しかもバラードものがこれ一曲だけというのも今作の大きな特徴でしょう。

③「song of superman」(words & music:柴山一幸)
フィードバックノイズから始まる90'sパワーポップ風じわじわ盛り上がる系ロックナンバー。リードギターは青木孝明さん、力強い響きながらも丁寧に折り重なったギターアンサンブルが美しいです。カーネーションファンの私としては、このタイトルを聴くとどうしてもあの曲が思い浮かび(矢部さんのドラムだし)、そんな耳で聴いてニヤリとしてしまうのですが、果たして...。

④「Why Why Why」(words:柴山一幸/music:柴山一幸&西村哲也
密かに楽しみにしていた私の大好きな西村哲也さんとの共作ナンバーは、超ゴキゲンなロックンロールでした。意外ではありましたが、これがもうサイコーなんですよ。繰り返される”Why Why Why”は60'sガレージロックバンドのごとく、でも全体的なノリは今っぽさを感じるとても愉快痛快な曲です。インタビューで一幸さんがVampire Weekendを意識したと仰っていて、なるほど確かに。しかし、矢部さんの爆裂ドラムなんなの一体!レコードを聴く前に、ライヴで西村さんを迎えてこの曲を演奏しているのを観ましたが、バカみたいに盛り上がります(笑)。

⑤「りんご病のあの娘」(words:柴山一幸/music:柴山一幸&杉浦琢雄)
私的には「Why Why Why」からこの曲への流れがアルバムのハイライトだと思っています。疾走感バツグンの超名曲。最近なにやらシティポップという言葉が流行ってるみたいですが、私の考えるシティポップど真ん中はこれかもしれない。シュガー・ベイブが今のサウンドでレコーディングしたらこんな感じなのかなぁ、なんて妄想が膨らみます。70'sフュージョンの薫りのするバンドサウンド、かと言ってまとまりすぎず、しっかりロックのハミ出し感がある。目眩のするような果てしなくウネるグルーヴ、若きギタリスト加藤ケンタさんのファンキーなギターカッティング&ソロも見事。なかなかこんな美味しい音に出会えませんよ。またカーネーションを持ち出してあれですが、イントロのピアノを聴いて「Edo River」のあのワクワク感を思い出しました。

⑥「SAYONARA」(words:柴山一幸/music:矢部浩志
矢部浩志作の80'sなキラキラでスペイシーなディスコナンバー。矢部さんは日本を代表する素晴らしいドラマーですが、同時に優れたソングライターでもあります。曲自体は筒美京平が書くディスコ歌謡っぽいなんて感じましたが、どうでしょう。一幸さんの音楽は洋楽からの影響を基に作られているでしょうが、完全なる洋楽ではなく、そこに歌謡曲的というかちょっぴり下世話なポップさが含まれてるのがイイなぁ好きだなぁと思うのです。

⑦「コタツでアイス」(words & music:柴山一幸)
タイトルはインドアですが、公園をスキップするような軽快なグッドタイムポップ。テンション高いアルバムの中で、ふっと息をつける時間かもしれません。とは言え、よく聴くと非常に凝った造りになっています。特に、ワッキーこと若山隆行さんのベースプレイが素敵で、モータウンベースを基調にしたウキウキリズムから後半に突然ジャズっぽくなるところがキモチイイです。大好物な西村さんのカントリー風ギターも聴けて、何気に俺得な曲です。

⑧「機関銃とセーラー服」(words & music:柴山一幸)
なんかどっかで聞いたことあるようなギリギリのタイトル(笑)。あの映画じゃないですが、青春ドラマの主題歌にピッタリじゃないかなぁなんて。情けなくてどん臭いけど妙に正義感の強い熱い男の顔が浮かびます。演奏はティーンエイジ・ファンクラブみたいにシンプルではありますが、豊かなギターバンドアンサンブルが楽しめます(これもリードギターは青木さん)。聴くたびに好きになる曲ですね。

⑨「カプセルラブ」(words & music:柴山一幸)
エレクトロポップ?アレンジの風変わりなナンバー。殻に閉じこもった引きこもりの人のラヴソングですか、この視点が一幸さんならではですね。一幸さんの音楽は前のめりのポップスでも、(YELLING=エールを送るというアルバムタイトルにも関わらず)歌詞には夢や希望を持とうぜ!みたいなこれ見よがしなポジティヴなメッセージは出てこないです。けれども、それでいて青臭さみたいなのも感じるという。いろんな複雑な感情を素直に吐き出しているからなのでしょうか。それが却ってややこしいのかなんなのか...私は前向きという名の説教じみた歌詞よりよっぽど共感しますけどねぇ。

⑩「愛こそは不得手」(words & music:柴山一幸)
言わずもがな「愛こそはすべて」のモジリですね。でも曲調は初期ビートルズなロックンロール、『With The Beatles』の頃の性急な勢いを感じます。先ほどの「機関銃とセーラー服」が青春ドラマのオープニングテーマならば、この曲はエンディングで使いたい。これもライヴではバカ騒ぎ必至、「万能細胞」(『I'll be there』収録)と双璧でしょうね。大いに歌って踊り狂いましょう!

...とまぁついつい全曲感想なんてものをやってみました。『YELLING』は何か目新しいことや特別奇をてらったことをしているわけではないですが、いろんな時代のいろんな音楽要素を取り込みアイデアたっぷり、これまで以上に正面からドカーンと王道を突き進むポップスアルバムだと思います。決してひねくれポップではないです。”枯れない大人のロック”というキャッチが付いていますが、枯れるも何もこんなに瑞々しいエネルギーに満ちたレコードはそうそう無いですよ。広く多くの人に聴かれることを願います。

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