レコードは果てしなく

好きなレコードや観たライヴのことを喋ります。'79年生まれ。

『It's no secret』 秘密のミーニーズ

やっぱり秋はフォークロックが似合うよね。なんて言いながら、60年代~70年代前半くらいまでのレコードを棚から引き抜く。という選択肢に、最近、もうひとつ増えた。60年代~70年代前半くらいまでのレコードか秘密のミーニーズ『It's no secret』か、どれにしようかな?嬉しい悩み。

秘密のミーニーズの1stフルアルバム『It's no secret』。ナウなヤング6人組ロックバンドによるイカした西海岸の風が吹くフォークロック名盤が誕生、ピンポイントでこういうレコードが聴きたかった!おお同志よ!と叫びたい気分だ。それはニール(な)ヤング『渚にて』(1974年)の渚でぼんやり佇む後ろ姿LPジャケットを模した、ツボすぎるCDジャケットから既にプンプン匂い立っており、思わずルーツロック愛好家はニヤリと手に取ってしまうだろう。そして、その音楽をサウンドを聴いて更に倍ニヤリ。CSN&Yザ・バーズザ・バンドグレイトフル・デッド、ジェファーソン・エアプレイン、はちみつぱいGARO...彼らの生まれるずっと前の憧れの音世界(私もそうだが、きっと彼らは新譜のように聴いているのだろう)に近づこうとする並々ならぬ気概と探究心、でありながら、マニアックに閉じて終わる気配など無く、ダイナミックで力強いライヴ感のあるすこぶる風通しの良い開けた作品になっている。のが何よりも嬉しい。前向きなレイドバック感、フレッシュな鮮度抜群のロックアルバムである。また、そんなユニークなサウンドだけでなく、曲良し、アレンジ良し、演奏良し、アルバム構成良し、何と言ってもボーカリスト三人の歌唱&ハーモニー素晴らし!『それは秘密ではない』というアルバムタイトルが示す通り、1stにして堂々と出し惜しみなく集大成的な充実ぶりに、今年の私的最優秀新人賞(3年前にミニアルバムを出しているので、もう新人じゃないかもだが)どころか、私的ベストアルバムに挙げてしまいたい。私のようなルーツおじさんだけでなく、ヒップなロックを求めている若い人たちにも聴いてほしいし、青春のレコードであってくれたら最高だなぁ。


秘密のミーニーズ1stアルバム『イッツ・ノー・シークレット』トレイラー

最初の一音から生々しくガツンとくるロックな生ギターの響きで一瞬にグイッと心を掴まれる「ねずはうす」でアルバムは始まる、一歩一歩ズシリと大地を踏みしめるような重厚なグルーヴが完璧なリードトラック。クロスフェードで続くのは、一転して、マンドリンがおどけてる軽快なカントリーロック「モーニングレイン」でゴキゲンに踊らないか。「アルカイックスマイル」は現代的なサイケデリックサウンド(Beachwood Sparksを意識したらしい)でまどろみの世界、ゆらゆらとゆらぐ渡辺たもつさんの歌声があまりに溶け込んでいる。ここまでのリードボーカルが1曲目は菅野みち子さん、2曲目は淡路遼さん、3曲目は渡辺さんと三人のボーカルを順に紹介するという流れだろうか。菅野さん作の「風はざわめき」はスティールギターを基調にしたしっとりとしたカントリーポップの名曲、タイトルからシュガーベイブにおける大貫妙子さんを思い出したりもしたが、菅野さんの可憐に美しくも幹のたくましい歌声は本当に素敵で聴き惚れる。クラシックギターでポツリと優雅な調べ「#無題1」から気怠くどこまでも心地良いジャムセッションハマナス特急/海岸線より」へとインストナンバーが2曲(後者はメドレーだから3曲か)続くという展開は他ではなかなか見られないだろうが、無意識に音に身をゆだねていると気が遠くなり思わず寝落ちする...『渚にて』もそうだが、往年の名盤は大抵途中で眠くなるものである。菅野さん作のこれまた名曲「虹の架かる丘を越えては、アルバム最後にリプライズが来ることからも分かるように、アルバムの核となるであろう壮大で荘厳なフォークロックナンバー。菅野さんの切ない歌とメロディーにうっとりと酔いしれたかと思えば、終盤の突如熱く燃え上がる(スティールギター含む)ギターソロバトルに心震える。


秘密のミーニーズ〜風はざわめき【PV】

まだふわり夢うつつ状態の中、アルバム後半戦は景気良くウエストコーストど真ん中「名まえの無い鳥」(馬ではない)でスタートする。三声ハーモニーのあまりに爽快な疾走感に胸躍り眠気も吹っ飛ぶ、淡路さんのぶっきらぼうでダンディな70年代声で”悩んでる君も綺麗さ”なんて歌われたら...惚れちまうやろ。お次はタイトル通りの豪胆なスワンプロック「ヌマベの踊り」で溌剌と泥臭く攻める、ここでは誰よりも菅野さんのボーカルが男らしい!姐さんと呼びたいくらいだ。そんな怒涛のロック攻勢のとどめは青春がロックしてロールする「ローリン・アンド・タンブリン」、気づいたら一緒に拳振り上げ大合唱していた。吞めや歌えやの宴は続く。フィドルバンジョーお転婆にはしゃぎまわる、はちみつぱい「煙草路地」を思い出さずにいられない、酔いどれダンスミュージック「麗しの四姉妹」は唯一の淡路さん作、騒々しく微笑ましい姉妹喧嘩が目に浮かぶ。クラシックギターでポツンと寂し気な「#無題2」を挟み、今度は渡辺さん作のはちみつぱいムードのアーシーでメロウな「藪の中」。最後の黄昏色のセンチメンタルなギターソロまで、じっくりと静かに深く沁み入る。そして、『It's no secret』のエンドロールは、サイケさを増した「虹の架かる丘を越えて(reprise)」で再びドリーミーな余韻を残す...鮮やかな名盤の風格。


秘密のミーニーズ〜名まえの無い鳥【PV】

『It's no secret』 秘密のミーニーズ(2017年)

01. ねずはうす
02. モーニングレイン
03. アルカイックスマイル
04. 風はざわめき
05. #無題1(instrumental)
06. ハマナス特急/海岸線より(instrumental)
07. 虹の架かる丘を越えて
08. 名まえの無い鳥
09. ヌマベの踊り
10. ローリン・アンド・タンブリン
11. 麗しの四姉妹
12. #無題2(instrumental)
13. 藪の中
14. 虹の架かる丘を越えて(reprise)

秘密のミーニーズ...
菅野みち子 Vocal, Chorus, Acoustic Guitar
淡路遼 Vocal, Chorus, Percussions
渡辺たもつ Vocal, Chorus, 6-12 Acoustic Guitars, Electric Guitar, Banjo, Pedal Steel, Mandolin, Electric Sitar
青木利文 Electric Guitar, Fiddle, Rap Steel
高橋U太 Drums, Percussions
相本廉 Bass

Guest Musicians 藤本晃史(All Keyboards, Cowbell)、高田慎平(Conga)

Mixed by DEWマキノ
Mastered by 中村宗一郎


そう言えば、『渚にて』では砂浜に自動車が突っ込んでいたが、『It's no secret』では自転車が突っ込んでいる。そんなどこか親しみやすさのある彼らの佇まいも魅力的だ。好きなバンドはたくさんいるが、好きを超えてこのバンドに入りたい!と思ったのは、ラリーパパ&カーネギーママ以来である。楽器は弾けないが、見た目の雰囲気的に馴染める自信はある(笑)。先日のレコ発イベントではBAND EXPOとも共演し、漏れなく賞賛されていた彼らのライヴも是非観てみたい。いつか関西にも来てほしい、拾得とか似合いすぎるだろうな。

『Suburban Baroque』 カーネーション

夏の終わり~秋の入り口にカーネーションから飛びきりメロウなレコードが届いた。通算17枚目(毎度驚く)のニューアルバム『Suburban Baroque』

何と前作からわずか1年というハイペースぶりでこの充実ぶり、もう何度目のピークか分からないけども、とにかく絶好調である。前作『Multimodal Sentiment』では諦念や情けなさまでも包み隠さずグルーヴに昇華させたロックな痛快作であったが、今作『Suburban Baroque』では(郊外のバロックというタイトルからも滲み出ているように)メロディーや歌により焦点を当てたカーネーション歌謡集あるいはスタンダードポップス集といった印象だ。これぞ最高傑作!と興奮気味にガッツポーズする感じというよりは、嗚呼...ええやん...とボソッと無意識に洩れてしまう感じ。もちろん圧倒的にポップであるが、派手さは控えめにキャッチー過ぎずジワジワくる。それってとってもカーネーションらしいアルバムだし、これまた私の好きなカーネーションでもある。そして、今作でカーネーションらしいと言えば、久しぶりに矢部浩志さんのドラムがカーネーションで聴けるというファン落涙の喜び(7曲も!)。とは言え、特別な感慨があるかと思いきや、私自身は意外とニュートラルに楽しんでいる。きっと矢部さんのドラミングがあまりにも楽曲に溶け込んでいるからなのだろう、後でクレジットを読み返したら矢部さんだったと思い出す。それが嬉しい。その他の参加メンバーの演奏も然り、いい意味で黒子的な仕事ぶりで(「VIVRE」のホーンアレンジは浦朋恵さんだったのか!とか)、見事に歌を引き立てている。聴き惚れる歌曲が滑らかに続く全11曲48分、繰り返し聴くのにはちょうど良い時間だろう、秋の夜長に本の頁を大事に一枚一枚めくるようにじっくり味わいたいアルバムだ。

Suburban Baroque

Suburban Baroque

再生ボタンを押した瞬間に流れてくるピアノのフレーズが「It's a Beautiful Day」のあの感じを思い出さずにはいられないウキウキ心弾むソウルナンバー「Shooting Star」で幕開け、どこを切っても直枝節で美味しいところだらけの大盤振る舞い(そう言えば、前作収録の「いつかここで会いましょう」は「Edo River」の地続きの風景であった)。続く「Peanut Butter & Jerry」では、矢部ドラムのリズムが「Superman」を匂わせる軽快さからサビで一気に狂おしくセンチメンタルなメロディーへなだれ込んでいく快感。ゴキゲンでハチャメチャなパワーポップ「ハンマーロック」は関節技と言うよりブレーンバスターばりの豪快さ、吊り橋の途中で技かけられたら危ない!待望の大田譲さんボーカル曲「Little Jetty」スティーリー・ダン『うそつきケイティ』あたりを意識したであろう粋なAOR、大田さんの加藤和彦ぶりを堪能してください。LPで言うところのA面ラストは、ポール・マッカートニーの小品バラードのような「夜の森」で、しっとりとマイ・マインドがメロウにとろける。ティーンエイジファンクラブ的なミドルテンポのギターロックで悩める若者たちへの静かな共感と励まし「Younger Than Today」は(年齢的に)自分に向けられているのかはともかく、その優しさに泣けて仕方がない。アイルランド民謡?賑やかなアレンジがすこぶる愉快な「金魚と浮雲はナイスアクセント。いつだってアイドルに夢中であるのと同時にアイドルに夢中であることの悲哀、「Girl」にはいろいろなことを考えさせられる!?気怠く愛らしい音像はNRBQが描く少女にも通じる、密かに好きな歌。一転して、質実剛健に男臭く攻める(大田さんのたくましいコーラス!)ニール・ヤング調フォークロック「Suspicious Mind」もまたカーネーションワールドなのだ。旬のキュートな歌姫・吉澤嘉代子さんをコーラスに迎え切なさの嵐を吹かせる「Please Please Please」で、グググっと込み上げてくる。そして、クロージングナンバーは、穏やかな多幸感に溢れた紛うことなき名曲「VIVRE」。”夜と朝の間”にピーター「夜と朝のあいだに」を思い出すのは私だけかもしれないが、いかにせよ往年のスタンダードナンバーに比肩する極上のメロディー、アレンジ、サウンドに夢心地にうっとりするしかない。エレガントなポップスはささやかな生きる灯火になる、ということ。


カーネーション「Peanut Butter & Jelly」Music Video

『Suburban Baroque』 カーネーション(2017年)

01. Shooting Star
02. Peanut Butter & Jerry
03. ハンマーロック
04. Little Jetty
05. 夜の森
06. Younger Than Today
07. 金魚と浮雲
08. Girl
09. Suspicious Mind
10. Please Please Please
11. VIVRE

カーネーション直枝政広、大田譲
参加メンバー:矢部浩志、張替智広、岡本啓佑、松江潤佐藤優介、藤井学、田村玄一、吉澤嘉代子、徳澤青弦 etc

【私の好きな歌021】「トランスファー」くるり

つい先日、東京のうちだあやこさんと不知火庵さんの摩訶不思議な男女ポップデュオdodoの初来阪ライヴを雲州堂で観た。彼らの絶妙に溶け合うユニゾンハーモニーが唯一無二な世界で感動、関西にはこんな音楽やってる人いないとうちださんに言ったら、うちださん「そうなんですね。でも、dodoは京都っぽいと言わることがあるんですよ。くるりとかボニーピンクとか京都の音楽が好きだったので、そう言われると嬉しい」と。ふむ京都かぁ、なるほどなぁ。うちださんが言う京都というのは、おそらく1990年代終わりから2000年代初頭くらいまでのくるりの登場で一躍注目されることになった頃の京都のことなのだろうと思う。京都の夏は猛烈に暑いが、あの頃の京都は猛烈に熱かった。くるりを輩出した立命館大学の軽音サークル”ロックコミューン”からはキセル、チェインズ、ママスタジヲなど続々と。そう言えば、雲州堂の前日にFUTURO CAFEでdodoと共演していた京都のSATOさんがビバ☆シェリーとして元カーネーション棚谷祐一さんプロデュースでデビューしたのもその頃だった(2003年2月。京都タワーレコードでのインストアライヴを目撃)。アングラっぽくポップな独特の京都臭というのが確かに匂っていた時代。

...とか書いていると、なんかその頃のことをいろいろ思い出してきたので、書き連ねていく。というのも、ちょうどその頃に私は京都に住んでいた。1998年4月18才の春、私は大学入試を大失敗し、兵庫の田舎に予備校が無かった為に、憧れの京都に出てきた。敢えて高校の友だちやクラスメイトが誰もいないマイナーな予備校に決め、同志社大学今出川キャンパスすぐ近くのシャワー(湯船はない)とトイレと小さいキッチン付きの狭い古アパートで一人暮らしを始める。予備校で仲良くなった人もいたが、そんな遊んだりすることもほとんどなく、基本的には予備校にいるか部屋にいるかしかない。部屋ですることと言えば、音楽を聴くことくらいしかない(勉強せえよ)。悶々としていた。あ、ラジオも聴いていた。高校から引き続きNHK-FMミュージクスクエアは聴いていたし、くるりが京都のFM局α-STATIONでやっていた”FOUL 54”という番組(1999年1月-3月)も楽しみで聴いていた。セロファンの西池崇さんが電話ゲストで出た時に、岸田繁さんがセロファン先輩と呼んでいたので、セロファンは偉いバンドなんやと思っていた。確か関西のNHK(テレビ)で、くるりセロファンスウィンギング・ポプシクルオセロケッツと関西出身のバンドが集ったライヴを観た記憶があるが、定かでない。そのくるりのラジオ番組に、”浪人ダブルヘッダー”のラジオネームでカーネーション「なにかきみの大切なものくれるかい」をリクエストしたら、かけてくれた(続けてかかったのはリール・ビッグ・フィッシュ)。それを聴いて、岸田さんは「ええ曲ですねー」と言ってくれた。そのリクエスト葉書で番組特製くるりタンバリンも当たったのだけど、大学が決まり、直後に引っ越ししたので、未だ届いていない...。浪人時代は北大路ビブレのJEUGIAまでチャリンコ走らせてCDを買っていた(調べたら、2012年に閉店)。くるりさよならストレンジャー』歌詞カードの「ランチ」の頁に写る北大路通りの交差点を見ると、何とも言えないむず痒い気持ちがする。これも青春、の風景。

くるりはデビュー当時のやるせなくサエない感じが好きだった。なので『さよならストレンジャー』~『図鑑』に思い入れがある、「春風」も美しい名曲だ。正直、「ばらの花」はあまり好きではない。久しぶりに『さよならストレンジャー』を聴いたら、「東京」に続く軽やかな「トランスファー」が小粋でええなぁとグッとくる。サビがビートルズの「She Said She Said」だと気づく、そりゃあ好きだ。ドラムス森信行さんは私と同じ誕生日、私のちょうど4つ年上。

さよならストレンジャー

さよならストレンジャー

京都の音楽思い出話は続く...かもしれない

【PLAYLIST】『SUMMER AOYAMA』

クーラーの効いた部屋で寝転がって高校野球を眺めながら寝落ちする...それが私の夏。朝まで世界陸上にもクールに燃えた!そんな夏の日射しに滅法弱い出来るだけ出掛けたくないインドア人間に心地良いサマーソング、と言えば青山陽一さんである。そのルックスや風貌は涼しげであっても、海!ドライブ!リゾート!がまるで似合わない青山陽一さんであるが(失礼!)、8月26日夏生まれだからなのか意外にもサマーソング(と言えそうなもの)が多い。ということに気づいたので、私がグッとくる青山陽一さんのサマーソング(と言えそうなもの)を集めて仮想カセットテープにしてみた46分21秒。う~ん、ナイスメロウ!

『SUMMER AOYAMA』
A-1. 停電
A-3. Los Angeles
A-3. 世にも奇妙な女(guitars version) with 堂島孝平
A-4. 夏らしい
A-5. SPIDER (from outa space)
A-6. 五つめのシーズン

B-1. 水に浮かぶダンス
B-2. 2つの魚影 【GRANDFATHERS
B-3. Cyclone
B-4. Thunderbolt
B-5. 夏は喧騒なり

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A-4~A-5の”どうやら夏らしい”から”どこが夏だ!”への繋ぎがやりたかっただけというか何というか(笑)。皆さんも選曲して作ってみましょう!楽しいよ。

My Summer Girl

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”夏の出来事 みんな許せる”(南沙織


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”夏はいろいろです ほんとに”(麻丘めぐみ


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”いーじゃないの 夏なんだし”(星野みちる


「夏の感情」南沙織(作詩:有馬三恵子/作曲・編曲:筒美京平/演奏:キャラメル・ママ 1974年)
「夏八景」麻丘めぐみ(作詩:阿久悠/作曲・編曲:筒美京平 1976年)
「夏なんだし」星野みちる(作詩・作曲・編曲:小西康陽 2015年)

『SPEEDY MANDRILL』福岡史朗

つい先日6月10日、大阪天満宮の近くディープな音楽愛とご飯&お酒がすこぶる旨い音食堂酒場・音凪へ、福岡史朗+松平賢一+大久保由希のライヴを観に行った。お客さんと期待が満員御礼の中、来月発売される福岡史朗さんのニューアルバム『SPEEDY MANDRILL』収録曲を全曲曲順通りに披露してくれた。それだけでなく嬉しいことに、何とかこの日までにレコードも間に合わせてくれたので、つまり、超先行レコ発ライヴである。(バンドではやっていたが)トリオで全曲やるのは初めてのようで、思わず緊張すると漏らしながらも、そんなことを微塵も感じさせない(ちょっとしくじるところさえ)ピッタリ息の合ったゴキゲンな演奏は今宵あの夜も流石中の流石であった(あの肩慣らしのキャッチボールのフォームで150km/h投げ合うロックンロールセッションは唯一無二)。ファンとしては、何と言っても(前回拾得で同じトリオで観た時に数曲聴いてはいても)これから聴きまくるだろう初めて聴く新曲を次から次へと味わえるフレッシュな贅沢よ!ありがたき幸せ。しかも、そのどれもがシビれるほどカッコ良くて素晴らしくて、あまりの感動と興奮で店中を走り回りたい気分であったが、大人なので必死に抑えた。終演後、熱演の余韻とお酒で酔いながら、お三方と一緒に解説を訊きつつ音凪のスピーカーで出来たてホヤホヤのレコード『SPEEDY MANDRILL』を聴くという嬉し楽し時間を経て、帰宅してからも我が家のスピーカーで(外でも)狂ったように聴きまくっている。

『SPEEDY MANDRILL』を一言で言えば、もう言ってしまっているが、シビれるほどカッコ良いロックンロールアルバム、だ。それしか言葉が出てこないくらいである。以上、終わり...いや、続けるが。これまでGREEDY GREEN解散後2001年のソロアルバム『TO GO』から始まるフルアルバムは11枚、昨年には全曲新録2枚組31曲入りというフルボリュームのオリジナルアルバムのようなベスト盤『HIGH-LIGHT』もあり、とめどなく多作な福岡史朗さんであるが、そのどれもが甲乙つけがたく名盤ばかり。それゆえにどれが随一の代表作かを決めかねていたが(決める必要があるのかは知らないが)、こうやって最新作12th『SPEEDY MANDRILL』を聴いてからは、スパッと『SPEEDY MANDRILL』が最高傑作だ!と言えてしまう。近所のお兄ちゃんがTシャツ&ジーパンで八百屋に行ったついでにかき鳴らすロックンロール、日常生活から滲み出るSF情緒。そんな福岡史朗節は1stから出来上がっているし、今回も音楽性自体が特別に大きく変わったということはないのだろうけども、演奏もリズムも言葉も何もかもがより切れ味鋭くなったという印象で、緩急のある展開を見せていく曲が多かったり、凝ったコーラスやアレンジの幅も広がっているように感じる。SPEEDY MANDRILL(スピーディー・マンドリル)、聴く前はドラクエに出てきそうなものすごいイカれたタイトルだな(笑)と思っていたが、聴いてみればなるほどしっくり来るイカついモンスター感。そして、その奥底にドロドロと渦巻いているのは怒りの感情だ(個人の感想です)、今この世を不穏にさせている何かに対する怒り。かと言って、激しい感情をただ吐き出して並べるのではなく、そのどれもがしっかりとイカした詩(詞)であり、直接的ではないけども、繰り返され強調される言葉がヒリヒリとジワジワと突き刺さってくる。音楽性よりもメッセージ性が勝ってしまうものほどつまらないものはないが、何よりも史朗さんは独創的で刺激的なロックンロールに昇華させているので、もう最高なのである。とにかく、矢継ぎ早に繰り出されるスピーディー・マンドリルの痛恨の一撃!に身も心もシビれっぱなしなのだ。

さぁ、この勢いで全曲感想に行きたいところだが、正式発売は7/16なのでそれまで我慢することにする(笑)。何はともあれ言いたいことは、マストバイやで!

SPEEDY MANDRILL

SPEEDY MANDRILL

『SPEEDY MANDRILL』 福岡史朗(2017年)

01. ラウドスピーカー 02. マカロニチーズ 03. ストロボ 04. ガレージ 05. ステップ 06. グレープフルーツスプーン 07. ニュートリノ 08. 太陽 コロナ リフレイン 09. 狂った魚 10. 素数 11. シェルター 12. 法王のハーレー 13. モナリサ 14. ギフト

録音メンバー...
福岡史朗、松平賢一、大久保由希、ライオンメリー、高岡大祐、本橋卓、福田恭子、辻睦詞、平見文生

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【私の好きな歌020】「人力飛行機の夜」鈴木茂

鈴木茂『BAND WAGON』は言わずもがな問答無用の(邦楽・洋楽を超えた)ロック名盤であり、世紀の名曲「砂の女」「100ワットの恋人」あたりが名物であるが、私がロックバンドをやるとしたら、この「人力飛行機の夜」(B面1曲目)をカヴァーしたいと常々妄想している。スライドギターがねっとりと粘りつくファンキーな演奏は本場リトル・フィート(ピアノはビル・ペイン)よりもちょっとだけカッコイイのではないかと思っている。そして、何よりもグッとくる極私的ハイライトは、線の細い歌唱の鈴木茂青年が精一杯腹の奥底から声を絞り出して苦み走りながら吠える”茶ばしら”だ。それを聴いていると、とびきり熱いお茶の波に揺られながら立っている茶ばしらが、ノックアウト寸前のフラフラのボクサーが気力だけで立ち上がり何とかファイティングポーズを取っているかのように見えてきた(大袈裟)。歌詞としてははっぴいえんどの延長線上にあるのだろうけど、松本隆先生は何を思ってこの歌の決めフレーズ(かどうかは分からないが)に”茶ばしら”を持ってきたのかは全くの謎であるが、おかげで茶ばしらにも人生(茶生?)がありロック魂があることを教えてくれた(大袈裟)。そう、ロックは日常に転がっている。2分30秒くらいの短い曲でエンディングがフェードアウトなので、ライヴではどういう締めのアレンジにしようか頭を悩ませている。楽器は弾けない。

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人力飛行機の夜」鈴木茂
Takashi Matsumoto-Shigeru Suzuki
from 『BAND WAGON』(1975年)

※妄想ついでに、ライヴの出囃子は「ウッド・ペッカー」にするつもりだ(知らんがな)