レコードは果てしなく

好きなレコードや観たライヴのことを喋ります。'79年生まれ。

2022.5.29『青木孝明「声」CD発売記念ライブ』青木孝明/綿内克幸/冬支度/西村哲也@雲州堂

カーリングにハマっている。冬の北京五輪で日本代表ロコ・ソラーレが銀メダルを獲得、彼女たちのジェットコースターのように笑いあり涙あり感情が溢れ出す戦いぶりを観ていて(元々カーリング好きではあったが)ブーム再燃、もっと深くカーリングを知りたいと過去の様々な大会の試合映像を観ているうちにズブズブと...沼である。この日(5月29日)は例年よりも長いオリンピックシーズン最後の締めくくりの大きな大会、日本カーリング選手権の男女の決勝が行われる日でもあった。音楽脳の私なので、カーリングを観ているとチームが何だかロックバンドのように見えてくる。4人組(+1)というメンバー構成、リードとセカンドは展開の土台とリズムを作るドラム&ベース、サードは渋いプレイや華やかなプレイでお膳立てするギタリスト、フォースは最後に試合をビシッと決めるボーカリスト、フィフス(リザーブ)はどこでも対応できるキーボードだろうか、そんなことを想像すると余計に...。カーリング選手(カーラー)はインタビューなどでよく「カーリングを楽しみます」と言うが、実際に試合中でも笑顔がよく見られ時には大爆笑している。他の団体競技ではあまり見られない光景である。カーリングはなかなか思い通りに行かないのが魅力、刻々と変化するアイスの上で相手との戦いというよりも自分との戦いの要素が強いようで、メンタルの影響がもろにショットに出るように思える。だから、ミスが出て難しい局面になったとしても、その状況を楽しむ、笑顔で前向きに気持ちを上げていくことはとても大切で、ピンチをいっぺんに打開するミラクルショットや思わぬラッキーショットが生まれたりする。いわゆるスポ根的なものではない形で、とても人間臭いスポーツだなぁと思うし、そこが大好き。えっと...カーリングの話じゃないか(笑)。けれども、青木孝明さんのステージングはそれに似た人間臭さが全身から出ていて、歌って演奏するのが楽しい!嬉しい!という姿を観ていると本当に幸せな気持ちになる。これが観たかった、清々しい。

雲州堂にて、青木孝明さんのニューアルバム『声』CD発売記念ライブ・大阪編。元々は2月に開催される予定だったが、新型コロナウィルス感染拡大により5月に延期されるという...延期には慣れっことは言え、心から楽しみにしていたイベントなので、この3か月の延期期間がとてつもなく長かった。何とか感染状況も落ち着いてきて無事に開催、共演陣が豪華ということもあり、待ちに待ったファンが各地から雲州堂に集結し増席の満席。皆さんのお元気そうな顔が見れて嬉しい、「お久しぶりですね」を何度言っただろうか。光が差してきました。

トップバッターは、地元から冬支度。安田支度(vo,a.g)、斎藤祢々子(vo,fl,acc)、渡瀬"SEN"千尋(dr,cho)+北里修(key)の4人組、浪速のグッドタイムフォークロックバンド。2020年2月の東京での冬支度イベントで青木孝明さんと共演し、その縁もあり今回の大抜擢出演に。これほどたくさんのお客さん、初見の方も多いという状況はかなり久しぶりでは無かろうか、観てる私も緊張していたが、初っ端の挨拶での「ありがとうございました」「もう打ち上げですか」というやり取りでほぐれた。会場の雲州堂は冬支度のホームグラウンド、「主」と言ってもよいくらい知り尽くしているし、PA小谷さんとの音作りバランスは完璧、もういつも通りの演奏で会場を心地良く温める。セットリストは「初雪」「週に三日は自己嫌悪」「顔立ち」「コンビニコーヒーブルース」「天気屋」など最新曲「夜半過ぎ」まで冬支度ベストヒットパレードで、きっと初見の方のハートも掴んだであろう(ことを祈る)。このコロナ禍でも隙間を縫って歩みを止めずライヴ活動を続け、歌とバンドアンサンブルはどんどん逞しくなってきた(久々に観られた方も驚いたのでは)。ラストは、斎藤さんのフルート祭り「眠り羊が丘越えて」、お馴染みではあるが、この大舞台でもインストナンバーで締める心意気、カッコいいなぁと思う。

青木孝明さんの盟友・綿内克幸さんは、青木さんとのデュオ編成で。綿内さんのライヴを観るのは2020年11月同じく雲州堂での『almost green』発売記念ライヴ以来、あの時は青木さんのギター&ピアノ、小里誠さんと阿部耕作さんの強力リズム隊、ゲストに西村哲也さんというスーパーロックバンド編成だった。今回はちょっと寂しいデュオ...と思いきや、二人だけでも百人力、バンドにも劣らぬ力強い歌と演奏で素晴らしかった。特に、冒頭のアコースティックギター二本でのエヴァリー・ブラザーズのような土埃舞うハーモニーが雲州堂に合っていて、実に爽快だった。思わず、アメリカやぁ...と唸った。それにしても、綿内さんと青木さんはシュッと身長が高く、ただでさえ高い雲州堂の舞台で、ステージ映えハンパない。綿内さんの男臭く骨太でロマンチックな歌声と青木さんの全力ギター全力コーラスもとにかくでっかい、ズドーンと飛び込んできた。また、途中で今回のスペシャルギターゲスト西村哲也さんが加わりトリオになる場面もあり。「FLOWERS IN THE SUN~風がはこぶ詩」「星に祈りを」の2曲、レコードでは前者は西村さん、後者は名手・駒沢裕城さんの演奏によるどちらもペダルスティールが印象的なメロウナンバーで、今回はそれを西村さんがエレキギター(黒のストラト)でボリューム奏法を駆使しながら再現...というか、また新たな色彩を施すトロトロにとろける演奏。スライドバーを使ったりディレイもかけていたのか、どこかサイケでドリーミーなサウンド...綿内さんとのアメリカンな世界とは異なる色合いだが、不思議にマッチしていて、ものすごい、ウットリ時間だった。それで、そのトリオでのステージ中、綿内さんのギターの4弦が切れて張り替えている時に...青木さんが「朝に西村さんと二人で練習したスタジオの店員が、ずっとHOTEIモデルのギターをぶら下げて接客していて、可笑しくてしょうがなくて」と涙を流して思い出し笑いをしていたら、綿内さんがドン!ドン!と工具を落とすというツッコミ?で見事なコンビネーションを見せてくれた。あと、青木さんが出だしのギターをミスってしまった時に、青木さんが綿内さんに「言っておくけど、(イントロで)一人で演奏するのは嫌いなんだよ!」と愚痴ってたり、微笑ましい光景も見られて、ますます楽しかった。

今宵の主役、青木孝さんのステージ。3曲ほど青木さんが一人で演奏してからは西村哲也さんとのデュオ編成で、もちろんニューアルバム『声』の曲を中心に。アルバム自体もタイトルが示す通りに青木さんの歌「声」をしっかり聴かせる為のシンプルなアレンジと最小限のアンサンブルで作られているので、デュオという形が自然である。言葉のひとつひとつを噛みしめるように丁寧に心を込めて歌う青木さんに、そっと寄り添い、こちらもひとつひとつ大事に音を紡いでいく西村さん。人の気持ちの奥底を見つめる内省的で決して明るくはない青木さんの歌世界と、西村さんのリリカルなギタープレイとの相性がピッタリなのである。そんな風に静かでスローな曲が多いのだけど、決してまったりとしない緊張感と青木さんの歌った後の弾けっぷりで、前述したとおりに清々しい気分になる。私的にはピアノを弾き歌う青木さんがとりわけ好きで、ガンガンとロッキンなリズムが最高なのだなぁ(西村さんもその勢いに必死に食らいつく)。青木さんは西村さんと演奏できることが本当に嬉しそうで、女子高生みたいにキャッキャと喜んでいるシーンもあった。綿内さんとの時もそうだったが、西村さんはレコードではエレキシタールやペダルスティール、マンドリンなどエレキギター以外の楽器も弾いており、そのフィーリングを取り入れた演奏やアレンジも素晴らしく、引き出しの多さに改めて感動。鳴らしたい音や旋律があってこその技、ただのパフォーマンスではない。BAND EXPOでも歌っていたコーノカオル作「流星塵」では、音源だとフェードアウトする西村さんの美しすぎる星屑ギターソロの続きが聴けて感涙、感無量である。続いて、BAND EXPO繋ぎで青木さん作の名曲「Switch」を演奏してくれたのだが、これがもう熱いのなんの!バンドの時の西村さんのあの「キレまくっていた」ギターソロが復活、この大興奮は久しぶりである。西村さんにそうさせるのは今や青木さんしかいないかもしれない、感謝感謝。本編最後は青春の爽やかカントリーロック「君の名前」で、鳴りやまない拍手の中...アンコール1曲目は、青木さんと言えばの代表曲「ドライヴ」で感動の嵐再び、青木さんはまだ旅の途中。そして、フィナーレは今また絶好調のみんなのロックの先輩ムーンライダーズ「くれない埠頭」を出演者全員でのセッション、コアなライダーズファンが見つめる中を冬支度が健闘して、まさしく大団円。

最後の出演者全員セッション「くれない埠頭」演奏前、緊張気味の冬支度の面々...

というわけで間違いなく大満足の夜だったのだけど、ひとつだけ惜しむらくはアルバムの中で屈指に好きだったゴスペルバラード「邂逅」が聴けなかったこと。伊藤隆博さんが弾くピアノが無いと難しい曲なので仕方がないのだけど...これは次の楽しみに取っておくということで。青木さん、関西でワンマンもやりたいと仰っていました、伊藤さんと西村さんと一緒に...どうか実現しますように。

あと...今回のイベントでは、光栄なことに幕間時間に流すBGMの選曲をさせて頂きました。綿内さんの雲州堂でのライヴの時、青木さんが「(BGM係に)頼めばよかったなぁ」と言ってくれ、主催者さんから依頼がありました。即決で、やります!ということで。青木さんと言えば、「幻の国 EXPO'70」なんて曲もありますが、真っ先に日本万国博覧会が思い浮かんだので、1970年に発表された洋楽ポップスを選びました。大ヒット曲があれば全くヒットしてない曲も、ちょっと捻ったカヴァー曲もミックスして、なかなか楽しい内容になったかなぁと。音源は実際に70年当時のレコードを使っているので、リアルガチな特集となっております...

ソフトロック多め、そういう時代なのですね。ちなみに、私はまだ全然生まれてません...

ブックエンズのシングル三部作「カーニバル2020」「涙でちょうだい」「バイバイサマー」

関西も梅雨に入り、マスクの中はますます蒸し風呂状態で頭が沸騰しそう。そして、ジリジリと続くまるで終わりの見えないコロナ禍...この鬱屈した毎日を何とか乗り切るには胸のすくようなポップソングが必要だ。なので、私はブックエンズを聴く...

ブックエンズとは、関西のエヴリデイピープルとTateFujiという知る人ぞ知る名バンドで活躍してきたソングライターの寺田貴彦さん(ボーカル&ドラム)と中藤世以さん(ボーカル&ギター)が意気投合し、鍵盤は野々村芳嗣さん(エヴリデイピープル)とベースに平田剣吾さんを加えて、2015年に新たに始めた4人組ポップロックバンド。新バンドと言っても決して若手とは呼べない年齢の方々ですが(失礼!)...それゆえの博覧強記ポップフリークぶりと熟成されたポップセンス、卓越したハーモニーと溶け合って驚くほど瑞々しいドリーミーポップスを聴かせてくれる。令和のオフコース!と呼んでいるのは私だけですが(笑)、そう呼んでしまいたい。また、シンガーソングライター肌の寺田さんとポップ職人的な世以さんという色合いが異なるソングライティングが味わえるのもバンドとしてユニークで、一粒でも二度おいしいのはリスナーとしても嬉しい。ニコイチで本を立てるブックエンドをバンド名にしているのは言い得て妙である。4人の演奏もさすがの腕前で、ライヴだって素晴らしく(ロック度少し上昇)機会があれば観て頂きたい。見た目も気持ちも優しいお兄さんたちです。

bookends.me

そんなブックエンズはこれまでシングルという形で3曲を配信リリースしている。全て世以さんの自作スタジオで録音されているがインディー臭くない本格的なサウンド、嫌な音圧もなく、温もりのあるアナログライクな音が心地良い。ジャケットのアートワークは至る所でその絵を目にする人気イラストレーターで寺田さんの奥様でもある寺田マユミさんが手掛けており、洋書ペーパーバックの挿絵のような素敵にキュートなイラストで日本人離れした楽曲とよく似合っている(レコードで出してほしい!)。まず昨2019年の初秋にリリースされた第一弾シングルは「バイバイサマー」(作詞曲&歌唱:中藤世以)、シャーラーララー♪といきなり歌で始まり全身コーラスハーモニーと夢見心地シンセサウンドに包まれる爽やかながらどこか切ないジ・エンド・オブ・サマー・ソング。”君は1000%”という詞に思わずニヤリとし、ビーチ・ボーイズ風のエンディングにキュンとキます。初作にしていきなりパーフェクトなポップ、いわゆるシティポップとも一線を画す凄み。昨冬にリリースされた第二弾シングルは「涙でちょうだい」(作詞曲&歌唱:寺田貴彦)、中期ビートルズを思わせる雰囲気で暖炉の火のようにじわりと沁みるチェンバーポップ。寺田さん曰く、歌い出しのフレーズはタートルズの曲から拝借しているらしい(マニアック!)。間奏でのチェンバロでの優雅なソロ、サビのベースラインが緩やかにレディ・マドンナしている感じとか、たまらんです。そして、今年5月にリリースされた最新シングル「カーニバル2020」(作詞:寺田貴彦 作曲&歌唱:中藤世以)は、この夏に開催される予定だった某ビッグイベントへの揺れ動く複雑な想いを歌ったスケールの大きな感動の名曲。イントロのアコースティックギターアルペジオからキーボードが重なりドッドッドッドッと力強いドラムが鳴り響く瞬間、身震い...間奏での世以さんの渾身のメロディアスな(今剛ばりの)ギターソロに胸が熱くなり...ジャジャジャジャッと狂おしく終わるのはホテル・カリフォルニア風だそうだが、もう徹頭徹尾エモい。全体的なサウンドを味わってから、詞にもじっくり注耳してもらいたい(洒落たリリックビデオもあります☟)。延期された某ビッグイベントは来年開催されるのかも怪しくなってきたが、そういう虚しさ儚さも含めて今年を象徴する一曲になるのは間違いないだろう...


【リリックビデオ】ブックエンズ『カーニバル2020』フルバージョン

中藤曲、寺田曲、共作と3パターンのシングルを聴いて、ますますアルバムへの期待が高まる。もちろんライヴではまだ発表されていない曲も演奏されているし、ディスコナンバーとか既にバラエティに富んだ曲が揃っているので、もう今から楽しみである。ワクワクするようなポップの魔法はまだまだ消え失せず...

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ブックエンズ...!?

『こんな風に』冬支度

この冬の終わりに。目に見えない新型ウイルスの急襲により、混乱の一途を辿るニッポン社会...いろんな人がいろんなことを言う、根も葉もないデマに振り回され、思いつきのような自粛要請にかき乱され...ああ、人間ってホンマに脆いなと改めて思い知る今日この頃...だからこそ、ごく普通のなんてことない日常を想う、想いたい。そんなタイミングで、冬支度の新作『こんな風に』が届いた。

冬支度とは、大阪を拠点にする素朴なグッドタイムミュージック奏でる安田支度さんと斎藤祢々子さんによる男女フォークデュオ。新作『こんな風に』は活動12年目にしてのファーストフルアルバムだ。その前に『オールドハイツ・ミュージック』(2013年作)というミニアルバムがあるが、イベントで憧れの人たちと共演することが決まり些か突貫工事的に仕上げた名刺代わり的作品だった(それはそれの味がある逸品)。私は何度も冬支度のライヴを観ているのだが、何とも心温まる素敵な曲がたくさんあり(どうやらアルバム3枚分くらいは曲があるらしい)、パーカッションの渡瀬千尋さんやギターの藤江隆さんがサポートするようになってからはますます音楽が豊かになり魅力が増してきていたので、何とか形にしてほしいなぁ繰り返し聴きたいなぁと思っていたし、本人たちにも言い続けていた(私だけではない、ファンは皆そう)。ようやく重い腰を上げ、悪戦苦闘しながらじっくりと音と言葉を丁寧に重ねた全11曲、どれもライヴではお馴染みの曲ばかりだ。地道に続けてきた生演奏で培われた人間味溢れる、でも、ちょっと不思議なハーモニーの冬支度ワールドがいい具合にパッケージされている。世は音圧重視のデジタルサウンドがトレンドなのだろうが、それに反するようなひたすら穏やかで温もりのあるアコースティックサウンドが新鮮で心地良い。最大五人で演奏していても、二人の歌と演奏以外の楽器の音はそっとささやかな音量で鳴っている。メインの二人の邪魔は絶対しないというサポートメンバーの想いとこだわりを感じるミックスで、こういう控えめな雰囲気も今どき珍しい。そして、いつもの街を気ままに散歩しているかのようなゆったりとしたテンポ感も貴重だろう、自然に身体が左右に揺れ平静を取り戻す。何気ない日常風景や心象をちょっと斜め上から俯瞰して色鮮やかに描かれた詩が二人の朴訥とした歌とリズムに乗って、じんわりと染みわたる。冬支度、こんな風に、歌って演奏してます。

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『こんな風に』、猫ジャケ

アルバムはタイトルソング「こんな風に」で、ほのぼのとスタート。煙草の火にはっぴいえんどが思い浮かぶ、そう言えば「こんな風に」は「こんなふうに」とも「こんなかぜに」とも読める、彼らも風街の住人。ゆるやかにハネてるギターのリズム、曲が進むにつれてパーカッションが変化するのも聴きどころ。山のふもとで腰を下ろし呑気な口笛を一吹き「走馬灯」はゴキゲンだね、ドブロギターの土の香りと斎藤さんの天然サイケなコーラスが芳しい。サントリーウイスキーのCMソングみたく哀愁漂う「浮かない顔して」は冬支度のロック魂が滲み出てる、かもしれない。ヒョロヒョロと鳴るオルガンはザ・バンドのガース・ハドソンのよう。夏の終わりの寂しさを歌った「虫の音」は、ファンの間でとても人気のある曲。からっとした切なさ、様々なパーカッションで夏の虫の音を表現しているのも楽しい。アナログレコードで言うところのA面最後は賑やかなインストナンバー「眠り羊が丘越えて」、ライヴでは締めで演奏されることの多い曲。フルーティスト斎藤さんの独壇場、ジェスロ・タルのイアン・アンダーソンのように片足上げてフルート吹いたり、ステージを降りてフルート吹きながら客席を練り歩く姿が目に浮かぶ。B面1曲目「景色を前に」は名曲だと思う、私はこの歌に滅法弱い。”空の継ぎ目”というフレーズにウルッとくる、私の故郷の山と田んぼと畑しかない田舎の景色を思い出して仕方がない。バンドの演奏もアンサンブルも歌心が溢れていて素晴らしい、ありがとう。続く「夢のまた先」は、安田さんの細野晴臣的歌唱が堪能できるYASUDA HOUSEフォークソング。冬支度というグループ名だが、意外に夏の歌が多いのだなぁ。こちらはもちろん文字通りの冬の歌「初雪」ジェームス・テイラー風のギターやコード感が洒落た雰囲気の冬支度流シティポップ、かもしれない。私には夜のシャッター通りにある自動販売機の光に照らされてハラハラと初雪が舞っている場面が見える、作詩は斎藤さんで歌唱もフルートも危うく美しい彼女の魅力が満載の曲だ。別れを淡々と綴った冬支度というよりも安田支度ソロという風情の「顔立ち」はもうあれこれ言うまい、じっくりと歌と詩に耳を傾けて下さい。朝の「浜辺」に腰掛けてぼんやり海を眺めながら何を思う、”夢も叶えば案外と空しいもんだろ?”キラーフレーズだ。安田さんは季節や時間や風景、あるいは心情が移ろいでいくグラデーションを詩にしていることが多いように感じるが、どうだろう。B面の最後もインスト曲で童謡や子守唄のようなシンプルなメロディーの「草スケート」は、安田さんのギターと斎藤さんのフルートの冬支度二人だけの演奏で、何かこう彼らのこれまでの歴史の積み重ねまでをも感じてグッとくる静かに感動的なフィナーレ...。良い意味で、名盤とか傑作とか大仰な呼び方は似つかわしくない、そっと日常に寄り添いほのかに色をつけてくれる末永く聴けるレコードだ。

CDのジャケットカヴァーの印象的な黒猫のイラストは眼福ユウコさん、インナーの色彩豊かな山や風景のイラストは青山円さん、それをまとめる全体のデザインはラリーパパ&カーネギーママの水田十夢さん、丁寧な解説のライナーノーツはきじまこうさん、帯コピーのコメントはレーベルメイトでミステリ作家の大津光央さん、とチーム冬支度というべき面々で愛情のこもった素敵なアート作品にもなっているので、目でも耳でも隅々まで楽しめる。どうぞジャケ買いしましょう。


『こんな風に』 冬支度(2020年)

01. こんな風に(安田支度)
02. 走馬灯(安田支度)
03. 浮かない顔して(安田支度)
04. 虫の音(安田支度)
05. 眠り羊が丘越えて(安田支度)
06. 景色を前に(安田支度)
07. 夢のまた先(安田支度)
08. 初雪(斎藤祢々子-安田支度)
09. 浜辺(安田支度)
10. 草スケート(安田支度)

冬支度...
斎藤祢々子:Vocal, Flute, Accordion
安田支度:Vocal, Acoustic Guitar, Blues Harp, Mandolin, Keyboard

渡瀬千尋:Drums, Percussion
藤江隆:Acoustic Guitar, Resonator Guitar
北里修:Piano, Organ

Recorded by Oldheights Studio, Mothership Studio, Tricraft
Mixed & Mastered by 小谷真奈美(雲州堂)

2020.1.26 『白井良明 Solo Live in Osaka 2020 ~ギター番長、大阪2Days~』白井良明/ラリーパパ&ファウンデーション@雲州堂

今冬は暖冬で冬らしい冬ではないけども、それなりに寒い大寒の1月26日。大阪では東京五輪の出場権最後の一枠をかけた女子マラソン大会があり、松田瑞生選手の鍛えられた腹筋で力強く圧巻の走りに熱くなる。東京の大相撲初場所では西前頭17枚目の徳勝龍関がまさかまさかの幕尻優勝を決めた驚きの日でもあった。そんな夜、大阪北浜の雲州堂でムーンライダーズ白井良明さんのソロライヴが行われた。共演は、関西の歌心代表 ”ラリーパパ&ファウンデーション”。

開場10分前に雲州堂に到着すると既に熱心なムーンライダーズファンが和気あいあいと集っている、そこへ私のような半端なファンも混ざる。外では冬支度の安田支度さんが誘導(というのか?)していて、受付には斎藤祢々子さんがいる。内に入れば、2月発売予定の冬支度のニューアルバム『こんな風に』が一足先に流れている。どうやら最終形の一つ前のミックスバージョンらしい。カフェで流れている趣味の良いソフトロックのようにイイ感じにBGM化している(最終形はボーカルの音量を上げたそう)。冬支度のライヴを何度も観ている雲州堂で聴いているとライヴバージョンのようにも聞こえる。これから転換の間も終演後もずっとリピートでかかっていたので、何ステージ分聴いたのか、宣伝が激しいなと笑ってしまった。そんなこんなで気がつけばテーブルを取っ払った客席は満席の大盛況、期待とワクワクが充満していた。

まずはラリーパパ&ファウンデーションから。浪花のザ・バンド ”ラリーパパ&カーネギーママ” のミスター、チョウ・ヒョンレさんの別動バンドで、ラリーパパ&カーネギーママとパイレーツ・カヌー(PiCas)の融合、そこにQuncho with THE THIRD STONE BANDの女性ホーン隊が加わるという大所帯の華やかなルーツロック楽団。楽器としてはエレキギター2本にバンジョー&スライドギターにマンドリンウッドベースという弦楽器全部盛りのような編成にサックス&フルートとトロンボーン、もちろんドラムもいて、どんだけ~と思わず言いたくなるが、雲州堂の広くはないステージにひしめき合ってるというかはみ出てる(笑)。ライヴははっぴいえんどにも負けてない名曲「冬の日の情景」でスタート。記念すべきラリーパパ&カーネギーママの1stアルバムの1曲目であるが、サックス浦朋恵さん加入後のやや迷走していた?頃に演奏していた長尺プログレバージョン(私は勝手にグレイトフル・デッド・バージョンと呼んでいる)を元にしたであろうアレンジ。じわじわ~と熱を帯びていく。続く米国南部リズムが賑やかなスワンプロック「どこへ行こう」でギアがぐいっと上がり、のんびりメロウな「ふらいと」でのChicago「Saturday In The Park」のようなホーンアレンジにニヤリ。鍵盤がいない代わりにホーンセクションやカントリーの弦楽器がいる、温もりのある陽気な音が雲州堂(元そろばん会社の倉庫)のウッディな空間に溶け合っている。音数減らしてシンガーソングライターのように歌う「ベイビー」を聴きながら、ラリーパパ&カーネギーママ解散直後の試行錯誤していた頃のチョウさんのソロを思い出し、ジーンとくる。この編成でハマりまくりの泥臭いカントリーブルース「狼の好物は迷える子羊」もその時期のソロ曲であった。すっかり定番になっているスタックス系列のファンクバンドRound Robin Monopoly「Peace Of Mind」の日本語カヴァー、もう大好き。チョウさんの刻むウラのリズムが気持ちいい、70年代のシンガーソングライター系のアルバムで1曲だけ入っているレゲエ風の曲ってめっちゃ良くないですか?そういう感じ。The Bandの大名曲カヴァー「夏の夜の出来事(The Night They Drove Old Dixie Down)」も日本語詞があまりに見事に乗っているので、カヴァーということを忘れるくらい、いつ聴いても素晴らしい、グッとこみ上げてくる。ホーンセクションが入っているThe Band『Rock Of Ages』は最も好きなライヴ盤なのだ。駄洒落で作り上げた(笑)ユーモアいっぱいの故ロジャー・ティリソンへの哀悼歌でラリーパパ&カーネギーママの最新曲「路上」、サウス・トゥ・サウスを目指してる(そうやったん!?)豪快にホーンが鳴り響くファンキーでソウルフルな「まちとまち」。基本的に雲州堂はアコースティックなハコなので、音量は抑えめなのだけど、それゆえにそれぞれの楽器の生音がよく聞こえ、いい塩梅にリラックスした歌と演奏がすこぶる心地良い。最後はラリーパパ&ファウンデーション名義の新作EPからチョウさんの静かな熱唱を堪能できる「帰路」、オールドタイミーなグッドタイムチューン「月に願いを」というムーンライダーズの月にちなんだ曲で朗らかに白井良明さんへバトンタッチ。

ファンの大歓声に迎え入れられる白井良明さん、私は初めましての良明さん。ムーンライダーズのメンバーとしてはもちろんのこと、ギタリストやアレンジャーとして様々なジャンルの数多くの作品を手掛けておられる偉大なポップ職人。松田聖子ガラスの林檎」でのロバート・フリップばりの強烈なギター、松尾清憲「愛しのロージー」のスーパーウルトラミラクルキャッチーなアレンジ、堀ちえみ「Wa・ショイ!」の気が狂ったかのぶっ飛んだテクノポップアレンジなど、今、大人気の80's和モノでもものすごい名仕事だらけ。ムーンライダーズでは、白井良明という名は体を表す持ち前の明るさを音楽的にも人間的にもバンドに持ち込んだ方という印象で、良明さんがいなかったらもっともっとマニアックな存在になってたのではないだろうか...。そんな多彩な顔を持つ白井良明さんの弾き語りソロライヴ。どんなことされるのかなぁと思ったら、この日はフォークシンガー白井良明さん。のっけからボブ・ディランの「風に吹かれて」からのアンサーソングのオリジナル曲へと。良明さんが18歳の頃、若き哲学者こと斉藤哲夫さんのバッキングミュージシャンとしてフォーク系の事務所(如月ミュージック?)に入られたそう。岡林信康高田渡加川良斉藤哲夫...フォークの偉人大集合。ムーンライダーズの「犬にインタビュー」の合間にそれらの先輩方の曲をメドレーで歌ってくれた、斉藤哲夫ファンとしては「吉祥寺」に悶絶。3月19日の渋谷クアトロでのムーンライダーズのライヴは一瞬で売り切れたそうで、会場にいたファンも買えなかった人多数...なので、ムーンライダーズの曲をいっぱい歌うよとサービス精神溢れる優しい良明さん。とにかく明るい歌とギターとステージングが楽しい、盛り上げ名人。ライダーズナンバーでは自発的に巻き起こるファンのコーラスにホント愛されてるんだなぁと思い知る。栃木弁マンボ話からのかしぶち哲郎さん作の「D/P」では明るさの中にもほの暗さが感じられた時に私はグッときたり、「ゆうがたフレンド」のサビのメロディーもそう。前もって歌詞カードが配られていた「マネーを吸い取ろう」という曲では、お客さんみんなでコーラスした。特にどういう曲か説明されずに練習が始まったが、イントロですぐに分かった、ジョージ・ハリソン「My Sweet Lord」の替え歌だ...駄洒落やん(笑)。コーラスと言えば、「ゆうがたフレンド」の金はない金はない~♪でお金のある人コーラスしてと良明さんが言ったら、しーん...となったのが可笑しかった。金はないが愛はある。ムーンライダーズパワーポップ名曲「Sweet Bitter Candy」、良明さんの明るさの富士山大噴火「トンピクレンッ子」はもちろん大盛り上がり、「ヤッホーヤッホーナンマイダ」の奇天烈ブルースから、最後は還暦になって生まれたという音楽を作り続ける演奏し続けることの喜びや愛情に満ち満ちたソロ曲「愛の仕事"musician"」で大粒の涙...。良明さんも感謝しておられましたが、「長い間、ずっと音楽をやり続けてくれてありがとうございます」と「長い間、ずっと聴き続けてくれてありがとうございます」という互いの想いが通じ合う幸せな場面でした。

...って、これで終わりじゃないよアンコール、ここからがまた大きなお楽しみ、白井良明さんとラリーパパ&ファウンデーションの夢のセッションコーナー。二組の異なる音楽世界がどのようにミックスされるのか?とても興味深かったのだけど、いきなりの「トラベシア」が感動的に素晴らしかった。ムーンライダーズ版ともまた一味違う異国情緒、ラテンというよりはヨーロッパの香りがしていた。彼らにもこういう演奏が出来るのか!と驚きの発見...とりわけ時折挟まれるガンホさんの色気あるオブリが絶品だった。お次は、ムーンライダーズでの良明さんの代表曲「青空のマリー」。これもラリーパパにはまず見られないポップな曲調で、チョウさんが苦労しながら頑張って歌い上げていた(笑)。おまけに、ガンホさんのギターにはエフェクトがかかっているというレアな光景も見れ、最後の唐突なエンディングもギリギリセーフでキまった(汗)。そんな借りてきた猫から今度は水を得た魚へ、ラストはThe Bandの日本語カヴァー「重荷(The Weight)」。これはもう大得意、自信満々に歌うチョウさんに自信満々に演奏するラリーパパ&ファウンデーションの面々。良明さんからチョウさんやガンホさんとガッツリ握手していたのが物語る最高のセッションでございました。ここでただひとつ、惜しむらくは良明さんがエレキギターを弾きまくるシーンが無かったこと...次回は是非に。

それでもまだまだ鳴り止まない拍手と歓声...に応えてステージに上がってくれた良明さん。それも、な、な、なんと!あがた森魚さんを引き連れて。ウソだろ、おい...これはもう誰も想像していなかったまさしくサプライズ。「良明に元気もらいに来た。ラリーパパも良明も本当に素晴らしかった、元気出たよ」とあがたさん。私の未だ観たことない偉人の一人があがたさんだったわけだが、思いがけず観れることになるとは。そして、あがたさんと良明さんの文字通りぶっつけ本番の「大寒町」を...あの歌声が聴けて感無量です(泣)。新年早々いろんな感情が湧き上がってくるライヴが観れた、こいつぁ春から縁起がいいわぇ。

【出演】
白井良明
■ ラリーパパ&ファウンデーション
(チョウ・ヒョンレ、キム・ガンホ、水田十夢、岩城一彦、吉岡孝、kaori、ヨシカワヨシコ、大間知潤)

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当代きっての白井良明ファンである眼福ユウコ画伯のイラストによるフライヤーとチケット

それにしても主催者たまたさんは引きが強い、愛と熱意の賜物でしょう。お疲れ様でした、ありがとうございます。

【私の好きな歌029】「うわさの男」ニルソン

暑中お見舞い申し上げます、メリークリスマス、良いお年を、あけましておめでとうございます...随分ご無沙汰してしまいました、お元気でしょうか?前回の記事から半年の間、昨年の後半にもDJやライヴのBGM選曲させてもらったり、観客としても素敵なライヴやかっこいいライヴ(ああ、ジャック達よ、鈴木さえ子さん!)目白押しで全部が全部楽しかったですねぇ。中でも、三匹夜会の熊谷太輔さんより依頼がありまして、12/1と12/8の二週にわたって渋谷七面鳥で行われた西村哲也さんの還暦お祝いライヴでBGMを選曲させてもらえたことは至極光栄ありがたき幸せ、西村ファン冥利に尽きるというのはまさにこのこと、そりゃあもう気合いを入れて選曲しました(開演ギリギリまで呑んでる出演者たちは聴いてないだろうけど・笑)。そして、昨年最後に観たライヴも音凪での西村さん、新しい友だち鶴来正基さん(ピアノ)の創意にあふれた美しいアレンジでまた新たな西村さんの魅力を発見できたかと思ったら、ソロライヴ活動お休み宣言があり...ちょっとしんみりしてしまった年の瀬。ということもありましたが、2019年はDJという思い切ったチャレンジ(矢野一希さんのおかげです・涙)でちょろっと人前に出るようになったこともあり、内向的な自分も外に気持ちが開いてきたのか、新たな出会いがたくさんあって本当に充実した一年になりました。音楽やレコード愛を通じて人と出会える、こんな嬉しいことはないですねぇ...とますます実感。出会ってくださった皆様、遠くから優しく見守ってくださった皆様、ありがとうございました!2020年も引き続きヨロシクお願いいたします。

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映画『真夜中のカーボーイ』オリジナル・サウンドトラック版

年が明けて早速1/5に塚本エレバティでDJさせてもらったのですが、その1曲目にかけたのがニルソンの「うわさの男(Everybody's Talkin')」でした。これまで聴いた中で一番好きな歌は?という超難問を訊かれたら、気分によってコロコロ変わりますが、かなりの確率で答えるだろう曲がこれです。ずっと前にテレビで観たドキュメンタリー番組で、故郷が近くのトータス松本が「レコード屋も映画館も何もないこんな田舎からとにかく早く都会に出たかった」と言っていたのに大いに共感した私ですが、それでもやはり根は田舎者、この曲のイントロのアコースティックギターのカントリー風アルペジオの旋律に美しく絡むストリングスの古めかしくも新鮮な響きが聞こえてくるとどうにも故郷の風景を思い出し、郷愁のすきま風がすうっと吹き込んできます。ニルソンのユーモラスで伸びやかな歌唱も何とも言えないドリーミーな心地良さで、私にとっては最も心洗われる曲です。そして、このニルソンの「うわさの男」が主題歌で使われていた映画『真夜中のカーボーイ』(1969年)も大好きで、ジョーとラッツォのはみ出し者どうしの奇妙な友情に憧れてます。ちょうど5年前の今頃、心斎橋club WONDERでの青木孝明さんのソロライヴを観に行った時に、帰りがたまたま青木さんと一緒になったのですが、その青木さんの衣装がプレスリーみたいな袖に紐がいっぱいついたカウボーイジャケットを着ておられたので、夜の心斎橋の街を歩く長身のカウボーイ青木さんと小男の私との並びがまるでジョーとラッツォのようだと心の中でつぶやいた...という密かな思い出もあったり(つまり、私はダスティ・ホフマンか!?)。

「うわさの男」という日本語タイトルがまたイカしてるから私のDJネームにしようかな...と一瞬思ったけど、変に期待されそうなので止めます(笑)。

「Everybody's Talkin'(うわさの男)」Nilsson (1968年)
written by Fred Neil

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DJうわさの男!?

【私の好きな歌028】「ほんとに久しぶりだね」寺尾聡

令和元年6月16日(日)。塚本エレバティにて「dancin' the 荒城」というイベントにDJとして参加...と書いていてなんだかむず痒いですが、生まれて初めてDJしてきました。シンガーソングライターでDJお米炊き廉太郎の顔も持つ矢野一希さんに誘っていただきました。赤毛のケリー、DJ特攻一番機のケツ持ち DJ麗泥子、OBBA、よだこういち(わがし屋よだもち)という共演DJ陣にpainful(矢野一希+梅田麻美子+渡瀬千尋)のライヴ、様々な美味しそう面白そうなお店の参加もあって、盛りだくさんで緩やかに楽しい時間が流れているイベントでした。私がDJで参加することになった経緯は、1月の雲州堂での冬支度10周年記念ワンマンライヴで、観に来られていた矢野さんとたまたま話したのがそもそものきっかけで。私が選曲したBGMが会場に流れている中、「けいすけさんはDJやらないんですか?」「いやぁ、DJはちょっと...恥ずかしいし。今度、矢野さんのDJイベント観に行きますよ」「いや、観に来なくていいんで、出てください」というやりとりが始まりでした。選曲すること自体は好きだけど、自分は人見知りで引きこもり気質の非パーティーピープルな人間だし、DJはやりたいようなやりたくないような...なんとも言えない複雑な気持ちでしたが、その後すぐに矢野さんから正式にお誘いがあり、それは初めてレコードをまわすDJばかりが出るイベントだったのですが、どうにも日が合わずお断り...するとまたすぐに来た次のお誘いが今回のイベントでした。「dancin' the 荒城」はなんとなくリラックスした心地良さそうなイベントのイメージがあったので、きっとガチガチじゃないだろう、顔をよく知ったpainfulのみんなもいることだし、この感じなら出てもいいかなぁと思い、参加することにしました。初めてフライヤーに自分の名前が載って嬉し恥ずかし、ツイッターで告知なんかもしてみたり(たくさんの応援ありがとうございます!)。

DJイベントに行ったことないし、DJとは何たるものか?イマイチよく分かっていない、もちろんDJミキサーなんてまともに見たことない、普段安物のしょぼいベルトドライブのレコードプレイヤーでレコード聴いているので、ちゃんとしたターンテーブルも使ったことない、こんなんで大丈夫なのか?と不安で打ち震えながらも、とにかく選曲だけは私らしくしっかりしておけば何とかなるやろうという妙な楽天家ぶりも発揮したり、ゆらゆらしながら当日を迎えました。始まる30分前にエレバティに行って、painfulのリハを横目に早速、DJ練習。事前にYouTube見てチラッと勉強してみたが全く歯が立たず、DJ機器を目の前にしたら茫然自失...何をどうすればいいか分からない。エレバティの細見さんや矢野さんに軽く教えてもらい、サーファリースやジャン&ディーン、セルメンのレコードで遊んでみる。いっぱいあるツマミは怖いので触らない、とりあえず頭出しと曲の最後でなんちゃってフェードアウト&フェードインできればいい(それしか出来ない)。私のDJとは、ディスクをじっくりかける人。15分ほど触ってたらそろそろ開始時間、赤毛のケリーさん(赤毛の男性だと思い込んでいた...)とOBBAさんも来られてBtoBでプレイボール、交互にレコードをかけていくやつです。私一人VSケリー&OBBA組というまるで修行のような...冷や汗脂汗いろんな汗をかきながら目に入ったレコードを必死にかけるだけ(笑)。シカゴ、ダニー飯田とパラダイス・キング、ヤン・シスターズ、ポピーズ、ジェームズ・ギャングをかけたかどうだったか?記憶が定かでありません...スレイド「ムーヴ・オ-ヴァー」をかけた時にケリーさんが「あ、被った!あれ、でも、なんか違う」と仰って、後でオリジナルのジャニス・ジョプリン版も聴けました(オリジナルは持ってない)。私が今最も気になってるDJの薬師丸さんが来られていたようで、この時の慌てふためいた姿を見られてこっ恥ずかしい...。さて、ここからは一人20分ずつ(2セット)レコードをまわしていくDJショーの時間です。OBBAさんは謎のコミックソング?や野球モノからパンクも何でも飲み込んで攻めのカットインでめっちゃカッコイイ、私を意識してくれたのか子供ばんどかけたりニック・ロウコステロイアン・デューリーのSTIFFモノも随所に入れ込んでくれ、ウキウキしました。赤毛のケリーさんは私の趣味と割と近いようなロック系を中心にオールディーズからラーナーズなどの最近のものまで、奥田民生やサザンという有名どころもかけたり、これまた楽しいです。DJ特攻一番機のケツ持ち DJ麗泥子さんは、ハードコアな爆音世界にフロアを走り回るピカチュウというなかなかカオスな...知らない曲だらけでお客さんにザ・ラプチャーを教えてもらいました。トリを飾ったよだこういちさんは、和菓子屋さんらしからぬ?アゲアゲナンバー連発容赦なくぶった切りの華麗なカットインでダンスグルーヴの洪水、フロアも大盛り上がり踊りまくりです(それにしても、今はBOØWYが熱いんでしょうか?)。真ん中にはpainfulのライヴ演奏もあり、矢野さんのシティポップ風味の洒落た曲に甘やかな声がよく似合うし、都会的なテレキャスのリズムもグッド、ペーさんのフルートと千尋さんのドラムがコーラス含め素敵な華を添えて、涼やかな風が吹いていました。

そして、私はと言うと...MCで矢野さんが「今日のDJはみんな結構ゴリゴリだったからやりづらい...」と思わず嘆いていたように、私も同じことを感じていましたが(笑)、今更セットは変えられないので、後はもう野となれ山となれの開き直り精神で何とかやり切りました。1セット目は洋モノで、ハーロー・ウィルコックスとオーキーズ「西部野郎」、ナンシー・シナトラリー・ヘイゼルウッド「ジャクソン」、ジェリー・リード「アラバマのワイルド・マン」、デオダート「キャラバン」、ポインター・シスターズ「一人寝」、スターバック「恋のムーンライト」、ブレントン・ウッド「恋のラヴィ・ダヴィ」(裏返して「ギミ・リトル・サイン」も)。2セット目は和モノ、ベンチャーズ「京都の恋」、モップス「あかずの踏切り」、寺尾聡「ほんとに久しぶりだね」、西郷輝彦「グッド・ナイト・ベイビー・グッド・ナイト」、和田アキ子「夏の夜のサンバ」、荻野達也とバニーズ「悲しき雨音」、ザ・ゴールデン・カップス「蝶は飛ばない」。こんなのんびりしたプレイリストでお送りしました。これまで作ってきたライヴ会場BGMでもそうですが、1曲目にインスト曲をかけるのが私の流儀、もうBPMとか無視して、ついついアルバムを聴いているかのような流れにしたくなる感じは自分のリスナー気質なのでしょう。あと、バリバリのソウルミュージックのレコードをかけてるわけではないけど、OBBAさんに「ソウルが好きなんがよう分かるわ」と言われたのが嬉しかったです。まさしくその通りで、どんなジャンルでもソウルフルな音楽が好きなんです、どうしても滲み出ちゃうんですねぇ。DJ先輩の皆さんのキレキレのプレイのおかげで、逆に、自分の持ち味が浮き立ったような気がしないでもないような...結構楽しんでもらえたし、面白かったと言ってもらえたので、初めてにしては上出来でしょう(と思いたい)。今かけているレコードのジャケットを台に載せる度に、え、何だろう?とみんなが集まって来てくれたり、曲のことを訊いてくれたのが、興味持ってくれてるんだなぁと何より幸せな気分になりました。2セット目の時に、冬支度の安田さんとキョーコさんがわざわざ天満のなかい山からハシゴして駆けつけて来てくれたのも心強かったです。終わりのBtoBは安堵感とちょっと酔っぱらっていたので色々やらかしましたが(笑)、すっかりゴキゲンさんでした。最後の最後はDJお米炊き廉太郎さんがかけた大橋純子&美乃家セントラル・ステイション「シンプル・ラブ」、”生きている悩みなんか 此処では忘れて” 身も心も踊った一日になりました。矢野さん、お誘いありがとうございました。遊びに来て下さったお客さま、共演者の皆さま、出店の皆さま、スタッフの皆さまもありがとうございました(一度言ってみたかった)。今後ともよろしくお願い致します。

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寺尾聡「ほんとに久しぶりだね」

このイベントの4日後、令和元年6月20日に40歳の誕生日を迎えました。嗚呼、若かったあいつがとうとう...そんな今の自分に捧げる曲は、DJでもかけて好評だった寺尾聡「ほんとに久しぶりだね」。中年になっても、できればこの曲のムードやジャケットの寝そべる寺尾聰のように呑気に生きていきたいものです(そうはいかない)。喫茶ロック本でも紹介されていた1974年のシングル。昔付き合っていた彼女にほんとに久しぶりに会ったら、彼女の話し声やお酒を呑んでる時の湿った唇、作ってくれた味噌汁の味に当時のことをいろいろ思い出して、また恋してしまいそうになるのだけど、そこをグッと堪えるオトナの?歌です。もちろん、あの寺尾聰の歌声ではあるけど、その後の「ルビーの指環」の色気あるダンディな雰囲気とはまた違って、ちょっと情けなく憎めない可愛さがあって、私はこの寺尾聰がすごく好きなのです。親近感というのでしょうか。作編曲はミッキー吉野で演奏もミッキー吉野グループなので、ほのぼのしていてもどこかグルーヴィーなのもツボで、大きな音で聴いたら意外に踊れました。B面の「何処かへ」もボッサ歌謡のお洒落ムーディーな佳曲です。今は無き元町リズムキングスで300円くらいで買ったんじゃなかったかなぁ...

「ほんとに久しぶりだね」 寺尾聡(1974年)
作詞 ケン田村/作編曲 ミッキー吉野/演奏 ミッキー吉野グループ

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冬支度安田さんが撮った写真を拝借...

【私の好きな歌027】「スプリンクラー」山下達郎

平成31年4月8日、塚本ハウリンバーで伊藤広規・Nacomi・前島文子によるユニット ”NA-KOKI with FUMIchan" のライヴを観る。言わずもがな山下達郎バンドの40年にも渡って不動のベーシストである伊藤広規さんと大好きな京都屈指の可憐なブルースドラマー前島文子さんがリズム隊を組むというので、居ても立ってもいられなくなった。数多くのセッションで引っ張りだこの前島さんですが、私にとっては京都版の西村哲也バンドでの彼女がお馴染み。西村バンドの前ドラマー五十川清さん(あのEP-4三条通さんです)が亡くなられて、失意の西村さんを救ってくれた(つまり、私にとっても救世主)前島さんは、2010年11月15日の拾得ライヴ以来PORK PIE HATS~彼のラビッツとかれこれ9年のお付き合い。様々な音楽要素が散らばる西村ワールドにも柔軟に対応し、歌心を真ん中にしなやかにキレキレのビートを叩き出す姿にいつも惚れ惚れする。私と同い年なので、そういう意味でも、特別な存在で自慢のドラマー。西村さんのライヴの時は、もしかしたら彼女の気持ちになって観ていたりするかもしれない(怖い)。そんな前島さんに「好きなドラマーは誰ですか?」と訊くと、即座に「青山純さん!」と返ってくる。7年前に前島さんがNacomiさんのバンドで伊藤広規さんのバンドと共演した時に、憧れの青山純さんのドラムセットで叩いたという話を聞いて驚いたのだけど、今回はついに青山さんの相棒の広規さんとのセッション、想いは通じるんだなぁとまざまざと実感。心から楽しそうに演奏する前島さんを観ていると、私まで嬉しくなる。広規さんからも「ドラムいいねぇ~、青山純子に改名したら?」という最上の誉め言葉をもらっていた。この日のライヴは、ボニー・レイットみたく粋で麗しいブルースシンガー&ギタリストNacomiさんのオリジナル曲(『Bluesy Pop』というアルバムは広規さんのプロデュース)だけでなく、カヴァーも多数演奏。クリーム「サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ」やレッド・ツェッペリン「ブラック・ドッグ」(マジかよ!と客席から)、スティング「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」からレディオヘッドまで!Nacomiさん曰く「普段はアンプ直結かエフェクター1個つなぐくらいですが、今日は4個つないでます」というロックナンバーがズラリ。カッコイイのになんか可笑しくて、ニヤニヤが止まらない。1曲デュエットで歌ったTAKU&ブギーロケッツというバンドのボーカル&ギターTAKUさんの見た目も歌声も男前な歌いっぷりも印象的だった。そして...皆が頭の片隅で思っていた演るのか?演らないのか?のモヤモヤが晴れる時!本編ラストは満を持して達郎ナンバーを。しかも、まさかの「アトムの子」だ!! 生フィル・スペクターというべき大人数で生み出すグルーヴと音圧の塊のような曲をたった三人のトリオ(+お客さんのタンバリン)で演奏、広規さんも初めての試みだったそうだが、前島さんがアフリカの陣太鼓のごとくタムを乱れ打ち始めた途端に興奮マックス、そこに絡みつく広規さんのあのベースライン!あの音!が...ここは何千人規模ではなく40人でぎっしり満員の空間と距離感で浴びる贅沢な幸せよ(涙)。この多幸感溢れる余韻で今年は生きていけそうな気さえする。とにかくこんな夢のような機会を作ってくれたNacomiさんに感謝感謝、もちろん歌もギタープレイ(青山純さんが言うところのイイ塩梅にレイドバックした感じ)も最高でした。

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山下達郎スプリンクラー」シングル盤。鈴木英人さんのイラストジャケ。

伊藤広規さんにお会いできるので、あわよくばサインをもらおうとバッグに忍ばせていたのが、山下達郎「アトムの子」ではなく、スプリンクラーのシングル盤。結局、いろんなお客さん(人生の先輩方)と話されている中を突っ込んでいく勇気はなく、サインはもらえなかったが...。「スプリンクラー」は1983年の11作目のシングルで、オリジナルアルバムには未収録。”君なしでは生きられない 悲しい言葉さ” 達郎さんのロック魂がジリジリと滲み出たこの曲がもう好きで好きで堪らない。歌だけでなくバンドの演奏からも、雨に降られずぶ濡れになった孤独で寂しい都会の男の背中が見える。伊藤広規さん特有のゴリゴリと鳴る音色で奏でる、雨を含んだ革靴で物憂げに歩く重たい足取りのベースラインはロックの名演だろう。もちろん、アスファルトを冷たく打ちつける雨のように刻まれるドラムは青山純さん。そして、間奏でブルーコメッツ井上大輔さんがブロウする愛の炎を吹き消すテナーサックスソロに泣き濡れるのだ。ナイーヴなハードボイルド、憧れる。

スプリンクラー山下達郎(1983年)
作詞・作曲・編曲:山下達郎

カーネーション「One Day」は「スプリンクラー」のグルーヴやムードに影響を受けているのではないかと勝手に思っている...

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ライヴ終了後の記念撮影。左から前島文子さん、伊藤広規さん、Nacomiさん。まさしく両手に花の広規さんの図。ハウリンバーの雰囲気もグッドでした。