レコードは果てしなく

好きなレコードや観たライヴのことを喋ります。'79年生まれ。

『BAND EXPO』 BAND EXPO 【後半】

というわけで、後半戦です。

もう聴かれましたでしょうかね?『BAND EXPO』。聴いている人はすっかりハマっちゃってるんじゃないですか?曲間がほとんど無く、矢継ぎ早に名曲が繰り出されるので、停止ボタンを押す隙がないですね。怖いですね(笑)。レコーディングとしてはスタジオハピネスでみんなでベーシックなリズムを録音して、上物は各自(豊富なロック体験から得た)アイデアを出し合って演奏して重ねていってという形でしょうか?それらの音を大なり><小なり『PLUG AWAY+』での完全無欠なミックスも記憶に新しい鳥羽修さんがまたしても絶妙のバランスでまとめ上げ、言うまでもなく最高のバンドサウンドに仕上がってます。バンドの溢れんばかりのダイナミズムを余すことなくパッケージ、思いのほかキーボードのサウンドが印象的なのですが、ここぞという時の西村さんの熱血ギターソロではグググッと音量があがってニヤニヤが止まりません。マスタリングはあのゆらゆら帝国で有名(常套句!)なメジャーインディーの音職人・中村宗一郎さんです。ジャケットのイカしたイラストは眼福ユウコさんの手によるもの、淡くカラフルな色彩はアルバムのカラーと鮮やかに一致。もう何から何まで今年2016年を代表する名盤だと思います。では、全曲感想行ってみよう!

BAND EXPO

BAND EXPO

①「Showtime」
作曲:青木孝明
わずか48秒の小粋でオールドタイミーなジャズるインスト曲で、アルバムの幕開け。これぞオトナの余裕。さぁ、素敵なROCK SHOWの始まりだよ!

②「EXPOS(BAND EXPOのテーマ)」
作詞曲:コーノカオル
歌唱:青木孝明
間髪入れずにブゥーンとベースの一吠えで、一気にテンションが上がる!BAND EXPOのテーマソングだ。それにふさわしくバンドのエクスプロージョンするグルーヴと疾走感、青木さんのバンドで歌う喜びに溢れてる溌剌としたボーカル、西村さんの発狂する金切り声のようなギターソロ、何もかもが圧巻。ロックンロール!いきなりハイライトが来ちゃってこの先大丈夫か?大丈夫なんだな、これが。この気合いとテンションは形を変えながらアルバム最後まで続いていく。恐ろしや。

③「太陽の塔
作詞:コーノカオル・青木孝明/作曲:コーノカオル
歌唱:西村哲也
EXPOと言えば、やはり太陽の塔だろう。太陽の塔を真下から見上げた時のあの眩しさのようなキラキラしたキーボードのリズムから始まる、優しく柔らかなポップナンバー。(メンバーで最も数多くEXPO'70を体験した)西村さんのボーカルが、もう泣きたくなるほど晴れ晴れしている。聴くたびにウズウズして、今すぐ太陽の塔に会いに走り出したくて仕方がない。私自身これまで何度か太陽の塔に会ったが、いつも感じる何とも言えぬ感慨を見事に歌にしてくれている。”全然わからない 考えてること だけど凄くよくわかる”ホントそうなのだ。その正体不明の訳の分からなさは終盤のプログレな怪しい音像で表現されている、それがまた愛情の表れ。今度、太陽の塔に会いに行く際は、大阪モノレールに乗った辺りからこの曲をひたすらリピートだな。

④「Switch」
作詞曲:青木孝明
歌唱:青木孝明
アルバムは更にどんどんギアを上げていく。この曲はYouTubeのライヴ映像で何度も観て痺れていたが、レコードで聴いてもやはり痺れる。青木さんの鋭く刻まれるリズムギターと西村さんのトリッキーでサイケ色を帯びたリードギターとの絡みがめちゃくちゃカッコイイ!矢部さん特有の後ろ重心のスネアのビートにもハートをビシバシ撃ち抜かれ、ハネてウネるコーノさんのベースはファンキーで...とどのつまり、これもまたロックンロール!である。最高、のひと言。

⑤「Space Mountain Top」
作詞曲:コーノカオル
歌唱:コーノカオル
そして、スイッチはONされ、スペースシャトルが打ち上がった。かのように壮大なスペーシー極まりないシンセサイザーの響きで、意識は一気に宇宙空間へ放り投げられる。それはトッド・ラングレンユートピアを彷彿とさせるSFシンフォニー、その奥には冨田勲への憧れも見え隠れする。このアルバムを聴く前は、この三人だからポール・マッカートニー的な曲が並ぶだろうと想像していたら、蓋を開ければトッド・ラングレン色が強かった。ノリはパワーポップなロックンロールでも、メロディーはメロウで洗練されているのが嬉しい。

⑥「渇き」
作詞:青木孝明/作曲:西村哲也
歌唱:西村哲也
そうやって宇宙に舞い上がったかと思えば、次の瞬間はもう地上に降りている。実に西村さんらしいアーシーで陰りのあるじっとりとしたロックナンバー。これも事前にYouTubeでライヴ映像を観ていたが、アルバムの統一感を意識しているのか、それよりもテンポがやや軽快なように感じる。青木さんの書いた歌詞がまたとても西村ワールドなのが面白い化学反応だ。後ろで幽玄に鳴り響くペダルスティールは、まどろんでいるとあの世に連れてかれるようなヤバさがある。

⑦「Memories」
作詞曲:コーノカオル
歌唱:コーノカオル・青木孝明・西村哲也
アルバムのMVにもなっているコーノさん渾身のザ・名曲である。ウエストコーストのハイウェイを爽やかな風を切ってドライヴしているかのようなバンドサウンドに、どこを切っても美しく切ないメロディーが気持ち良く乗る。何と言っても、三人の心のこもったボーカル回しにグッときてウルッとくる。そして、私は4分48秒辺りの矢部さんのフィルインにトドメを刺される。嗚呼、バンドってイイですね。前半でも言ったように、この歌を聴くと楽しいことも苦いこともいろんな記憶が呼び起こされて堪らない。これほどの名曲は普通ならアルバムのラストに配置されそうなものだが、これで終わらず、ここからまだもうひと盛り上がりするのだから...


Memories/BAND EXPO

⑧「何処へ(History)」
作詞曲:青木孝明
歌唱:青木孝明
余韻を切り裂くように聞こえてくるのは、ブリブリのベースとギターのユニゾンでのゾクゾクするようなイントロ(青木さんのいかりや長さんよろしく「後半行ってみよう!」という掛け声が聞こえてくるようだ)。そう、しみじみしている場合ではないのである。これは紛うことなきロックアルバムなのだ。青木さん真骨頂の颯爽と駆け抜けていくパワーポップチューン、この瑞々しさたるや!青木さんの全身全霊全力の歌いっぷりにスカーッとする。そんな青木さんの勢いに乗せられたノリノリなバンド演奏も最強だし、間奏と最後に飛び出るユニゾンギターソロにはもう降参!私の好きなロックの魅力が存分に詰まってる、私的ベストトラック。

⑨「The End of The World」
作詞曲:コーノカオル
歌唱:青木孝明・コーノカオル
コーノカオル節全開のトロけるメロウな逸品、BAND EXPO流AORか。カーネーション直枝政広さんの推薦コメントに初期スティーリー・ダンとあったが、この曲を指しているのだろう。二人のボーカルの滑らかな受け渡しやハーモニー、西村さん必殺のオブリがともかく艶っぽい。このままムーディーにスムースには終わらず、最後に突如として曲調が変わり、サーカスみたいなドンチャン騒ぎになるのが、なぜだか世界の終わり感を醸し出していて何とも不思議だ。

⑩「明日」
作詞曲:青木孝明
歌唱:青木孝明
世界は終わっても明日はやって来る。2分41秒のささやかな陽だまりカントリーポップ。ロックアルバムにこういう曲を入れ込んでくるのは、流石のキャリアが為せる技だろうか。もちろん、西村さんのペダルスティールが大活躍である(ここでようやくカントリーの楽器らしい音色)。最後は三人の美しいコーラスハーモニーで締める、素晴らしく粋な演出だ。私的にはここでアルバム本編終了、次の曲からアンコール突入という構成で聴いている。

⑪「Yellowstone」
作曲:青木孝明
陰鬱なムードながら熱く燃え上がるインスト曲。青木さんのソロ作で架空の映画のサウンドトラック盤『Experience America! Soundtrack』に収録されていた曲のBAND EXPO版。強力に伸びるスライドギターに爆裂疾走するドラム、ロックの極みのようなバンドサウンド。インスト曲だからと言って決して送りバントではない、会心のフルスイング。歌モノと同じくらいの充実度で迫ってくる。

⑫「Second Shock Blues」
作詞曲:西村哲也
歌唱:西村哲也
ラストナンバーはエドガーウインターグループ(恐怖のショック療法!)を思わせるようなハードブルーズグラムロックで豪快に。これは西村さんソロ作『YOUNG RIVER』収録曲のリメイクだが、西村さんのボーカルがこれまでになくハッチャけている(冒頭のカウントからキまってる)。ズッコケギャング団の珍道中みたいな風情、カッコイイんだがどこか情けないのが愛らしい。最後の最後までこれはロックアルバムなんだぜという気概とバンド愛に満ち満ちた何て幸せなエンディングなのだろう!BAND EXPOの1stアルバム、ロックの国からこんにちは。

そして、また最初に戻り、延々リピートが始まるのである...


『BAND EXPO』BAND EXPO(2016年)

01. Showtime
02. EXPOS(BAND EXPOのテーマ)
03. 太陽の塔
04. Switch
05. Space Mountain Top
06. 渇き
07. Memories
08. 何処へ(History)
09. The End Of The World
10. 明日
11. Yellowstone
12. Second Shock Blues

Mixed by 鳥羽修 at Smalltown Studio
Mastared by 中村宗一郎 at Peace Music

Illustration by 眼福ユウコ

BAND EXPO are...
西村哲也:Vocal,Chorus,Electric & Acoustic Guitar,Pedal Steel,
     Piano,Electric Piano,Organ,Synthesizer,Blues Harp & Mandolin
青木孝明:Vocal,Chorus,Electric & Acoustic Guitar,Bass Guitar,Piano & Organ
コーノカオル:Vocal,Chorus,Bass Guitar,Piano,Organ & Synthesizer
矢部浩志:Drums