レコードは果てしなく

好きなレコードや観たライヴのことを喋ります。'79年生まれ。

2020.1.26 『白井良明 Solo Live in Osaka 2020 ~ギター番長、大阪2Days~』白井良明/ラリーパパ&ファウンデーション@雲州堂

今冬は暖冬で冬らしい冬ではないけども、それなりに寒い大寒の1月26日。大阪では東京五輪の出場権最後の一枠をかけた女子マラソン大会があり、松田瑞生選手の鍛えられた腹筋で力強く圧巻の走りに熱くなる。東京の大相撲初場所では西前頭17枚目の徳勝龍関がまさかまさかの幕尻優勝を決めた驚きの日でもあった。そんな夜、大阪北浜の雲州堂でムーンライダーズ白井良明さんのソロライヴが行われた。共演は、関西の歌心代表 ”ラリーパパ&ファウンデーション”。

開場10分前に雲州堂に到着すると既に熱心なムーンライダーズファンが和気あいあいと集っている、そこへ私のような半端なファンも混ざる。外では冬支度の安田支度さんが誘導(というのか?)していて、受付には斎藤祢々子さんがいる。内に入れば、2月発売予定の冬支度のニューアルバム『こんな風に』が一足先に流れている。どうやら最終形の一つ前のミックスバージョンらしい。カフェで流れている趣味の良いソフトロックのようにイイ感じにBGM化している(最終形はボーカルの音量を上げたそう)。冬支度のライヴを何度も観ている雲州堂で聴いているとライヴバージョンのようにも聞こえる。これから転換の間も終演後もずっとリピートでかかっていたので、何ステージ分聴いたのか、宣伝が激しいなと笑ってしまった。そんなこんなで気がつけばテーブルを取っ払った客席は満席の大盛況、期待とワクワクが充満していた。

まずはラリーパパ&ファウンデーションから。浪花のザ・バンド ”ラリーパパ&カーネギーママ” のミスター、チョウ・ヒョンレさんの別動バンドで、ラリーパパ&カーネギーママとパイレーツ・カヌー(PiCas)の融合、そこにQuncho with THE THIRD STONE BANDの女性ホーン隊が加わるという大所帯の華やかなルーツロック楽団。楽器としてはエレキギター2本にバンジョー&スライドギターにマンドリンウッドベースという弦楽器全部盛りのような編成にサックス&フルートとトロンボーン、もちろんドラムもいて、どんだけ~と思わず言いたくなるが、雲州堂の広くはないステージにひしめき合ってるというかはみ出てる(笑)。ライヴははっぴいえんどにも負けてない名曲「冬の日の情景」でスタート。記念すべきラリーパパ&カーネギーママの1stアルバムの1曲目であるが、サックス浦朋恵さん加入後のやや迷走していた?頃に演奏していた長尺プログレバージョン(私は勝手にグレイトフル・デッド・バージョンと呼んでいる)を元にしたであろうアレンジ。じわじわ~と熱を帯びていく。続く米国南部リズムが賑やかなスワンプロック「どこへ行こう」でギアがぐいっと上がり、のんびりメロウな「ふらいと」でのChicago「Saturday In The Park」のようなホーンアレンジにニヤリ。鍵盤がいない代わりにホーンセクションやカントリーの弦楽器がいる、温もりのある陽気な音が雲州堂(元そろばん会社の倉庫)のウッディな空間に溶け合っている。音数減らしてシンガーソングライターのように歌う「ベイビー」を聴きながら、ラリーパパ&カーネギーママ解散直後の試行錯誤していた頃のチョウさんのソロを思い出し、ジーンとくる。この編成でハマりまくりの泥臭いカントリーブルース「狼の好物は迷える子羊」もその時期のソロ曲であった。すっかり定番になっているスタックス系列のファンクバンドRound Robin Monopoly「Peace Of Mind」の日本語カヴァー、もう大好き。チョウさんの刻むウラのリズムが気持ちいい、70年代のシンガーソングライター系のアルバムで1曲だけ入っているレゲエ風の曲ってめっちゃ良くないですか?そういう感じ。The Bandの大名曲カヴァー「夏の夜の出来事(The Night They Drove Old Dixie Down)」も日本語詞があまりに見事に乗っているので、カヴァーということを忘れるくらい、いつ聴いても素晴らしい、グッとこみ上げてくる。ホーンセクションが入っているThe Band『Rock Of Ages』は最も好きなライヴ盤なのだ。駄洒落で作り上げた(笑)ユーモアいっぱいの故ロジャー・ティリソンへの哀悼歌でラリーパパ&カーネギーママの最新曲「路上」、サウス・トゥ・サウスを目指してる(そうやったん!?)豪快にホーンが鳴り響くファンキーでソウルフルな「まちとまち」。基本的に雲州堂はアコースティックなハコなので、音量は抑えめなのだけど、それゆえにそれぞれの楽器の生音がよく聞こえ、いい塩梅にリラックスした歌と演奏がすこぶる心地良い。最後はラリーパパ&ファウンデーション名義の新作EPからチョウさんの静かな熱唱を堪能できる「帰路」、オールドタイミーなグッドタイムチューン「月に願いを」というムーンライダーズの月にちなんだ曲で朗らかに白井良明さんへバトンタッチ。

ファンの大歓声に迎え入れられる白井良明さん、私は初めましての良明さん。ムーンライダーズのメンバーとしてはもちろんのこと、ギタリストやアレンジャーとして様々なジャンルの数多くの作品を手掛けておられる偉大なポップ職人。松田聖子ガラスの林檎」でのロバート・フリップばりの強烈なギター、松尾清憲「愛しのロージー」のスーパーウルトラミラクルキャッチーなアレンジ、堀ちえみ「Wa・ショイ!」の気が狂ったかのぶっ飛んだテクノポップアレンジなど、今、大人気の80's和モノでもものすごい名仕事だらけ。ムーンライダーズでは、白井良明という名は体を表す持ち前の明るさを音楽的にも人間的にもバンドに持ち込んだ方という印象で、良明さんがいなかったらもっともっとマニアックな存在になってたのではないだろうか...。そんな多彩な顔を持つ白井良明さんの弾き語りソロライヴ。どんなことされるのかなぁと思ったら、この日はフォークシンガー白井良明さん。のっけからボブ・ディランの「風に吹かれて」からのアンサーソングのオリジナル曲へと。良明さんが18歳の頃、若き哲学者こと斉藤哲夫さんのバッキングミュージシャンとしてフォーク系の事務所(如月ミュージック?)に入られたそう。岡林信康高田渡加川良斉藤哲夫...フォークの偉人大集合。ムーンライダーズの「犬にインタビュー」の合間にそれらの先輩方の曲をメドレーで歌ってくれた、斉藤哲夫ファンとしては「吉祥寺」に悶絶。3月19日の渋谷クアトロでのムーンライダーズのライヴは一瞬で売り切れたそうで、会場にいたファンも買えなかった人多数...なので、ムーンライダーズの曲をいっぱい歌うよとサービス精神溢れる優しい良明さん。とにかく明るい歌とギターとステージングが楽しい、盛り上げ名人。ライダーズナンバーでは自発的に巻き起こるファンのコーラスにホント愛されてるんだなぁと思い知る。栃木弁マンボ話からのかしぶち哲郎さん作の「D/P」では明るさの中にもほの暗さが感じられた時に私はグッときたり、「ゆうがたフレンド」のサビのメロディーもそう。前もって歌詞カードが配られていた「マネーを吸い取ろう」という曲では、お客さんみんなでコーラスした。特にどういう曲か説明されずに練習が始まったが、イントロですぐに分かった、ジョージ・ハリソン「My Sweet Lord」の替え歌だ...駄洒落やん(笑)。コーラスと言えば、「ゆうがたフレンド」の金はない金はない~♪でお金のある人コーラスしてと良明さんが言ったら、しーん...となったのが可笑しかった。金はないが愛はある。ムーンライダーズパワーポップ名曲「Sweet Bitter Candy」、良明さんの明るさの富士山大噴火「トンピクレンッ子」はもちろん大盛り上がり、「ヤッホーヤッホーナンマイダ」の奇天烈ブルースから、最後は還暦になって生まれたという音楽を作り続ける演奏し続けることの喜びや愛情に満ち満ちたソロ曲「愛の仕事"musician"」で大粒の涙...。良明さんも感謝しておられましたが、「長い間、ずっと音楽をやり続けてくれてありがとうございます」と「長い間、ずっと聴き続けてくれてありがとうございます」という互いの想いが通じ合う幸せな場面でした。

...って、これで終わりじゃないよアンコール、ここからがまた大きなお楽しみ、白井良明さんとラリーパパ&ファウンデーションの夢のセッションコーナー。二組の異なる音楽世界がどのようにミックスされるのか?とても興味深かったのだけど、いきなりの「トラベシア」が感動的に素晴らしかった。ムーンライダーズ版ともまた一味違う異国情緒、ラテンというよりはヨーロッパの香りがしていた。彼らにもこういう演奏が出来るのか!と驚きの発見...とりわけ時折挟まれるガンホさんの色気あるオブリが絶品だった。お次は、ムーンライダーズでの良明さんの代表曲「青空のマリー」。これもラリーパパにはまず見られないポップな曲調で、チョウさんが苦労しながら頑張って歌い上げていた(笑)。おまけに、ガンホさんのギターにはエフェクトがかかっているというレアな光景も見れ、最後の唐突なエンディングもギリギリセーフでキまった(汗)。そんな借りてきた猫から今度は水を得た魚へ、ラストはThe Bandの日本語カヴァー「重荷(The Weight)」。これはもう大得意、自信満々に歌うチョウさんに自信満々に演奏するラリーパパ&ファウンデーションの面々。良明さんからチョウさんやガンホさんとガッツリ握手していたのが物語る最高のセッションでございました。ここでただひとつ、惜しむらくは良明さんがエレキギターを弾きまくるシーンが無かったこと...次回は是非に。

それでもまだまだ鳴り止まない拍手と歓声...に応えてステージに上がってくれた良明さん。それも、な、な、なんと!あがた森魚さんを引き連れて。ウソだろ、おい...これはもう誰も想像していなかったまさしくサプライズ。「良明に元気もらいに来た。ラリーパパも良明も本当に素晴らしかった、元気出たよ」とあがたさん。私の未だ観たことない偉人の一人があがたさんだったわけだが、思いがけず観れることになるとは。そして、あがたさんと良明さんの文字通りぶっつけ本番の「大寒町」を...あの歌声が聴けて感無量です(泣)。新年早々いろんな感情が湧き上がってくるライヴが観れた、こいつぁ春から縁起がいいわぇ。

【出演】
白井良明
■ ラリーパパ&ファウンデーション
(チョウ・ヒョンレ、キム・ガンホ、水田十夢、岩城一彦、吉岡孝、kaori、ヨシカワヨシコ、大間知潤)

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当代きっての白井良明ファンである眼福ユウコ画伯のイラストによるフライヤーとチケット

それにしても主催者たまたさんは引きが強い、愛と熱意の賜物でしょう。お疲れ様でした、ありがとうございます。