レコードは果てしなく

好きなレコードや観たライヴのことを喋ります。'79年生まれ。

『べいくあっぷ』 カランツバターサブレ

もう春です、古いものはすてましょう(by斉藤哲夫)。というか、今日なんて春をすっ飛ばして初夏のような陽気。神戸では桜も一気に咲き始め、すぐにでもお花見に行きたい気分です。私は完全に桜を肴にお酒を一杯(いっぱい⁉)な人間ですが、今年は桜を愛でながら静かにスイーツを味わうお洒落さんで行きたいと思います。花より団子、いや、花よりカランツバターサブレ...どんなスイーツかイマイチ分かってませんが(笑)。

べいくあっぷ

べいくあっぷ

そんなこんなで?春の訪れと共に、カランツバターサブレの1stアルバム『べいくあっぷ』が我が家に届きました。カランツバターサブレとは、ヨシンバというバンドで知られる吉井功さんが新たに結成した5人組フォークロックバンド。新たに、と言っても、もう10年くらい活動しているそうで、まさしく満を持しての1stアルバム完成。吉井さんが頭に描く音楽を一緒に演奏したいと集めたメンバーは、藤田厚史(e.guitar)、福島ピート幹夫(bass,sax)、藤原マヒト(piano)、SACHI-A(drums)というツワモノ揃い、もう名前を見るだけで美味しそうな音が鳴っています。私は最近の海外のバンドにはとんと疎いのですが、吉井さんはbeirutやPunch Brothersなど海外で盛り上がっている新世代のフォークロックに感銘を受けて、そういう音楽を日本でも鳴らしたいという想いがあったようです。ヨシンバはコーラスハーモニーを存分に盛り込んだ骨太な演奏によるソウルフルなポップロックという印象ですが、カランツバターサブレではアコースティックを基調としたもっとゆったりとした地に足の着いたアーシーなサウンド。とは言え、60年代~70年代の伝統的なイナタいフォークロックで終わらない、ずっと現代的な響きや味付けがされているのが楽しいです。昨年見事な傑作アルバムを発表した若きフォークロックバンド秘密のミーニーズのサイケデリックな雰囲気ともまた違う、狂おしいまどろみ感とでも言いましょうか。ただ心地良いだけではありません。そして、吉井さんならではの気怠く艶やかなボーカルはますます色気が増し増し、ジェントルなオトナのバンドサウンドと相俟って、その歌声の大ファンの私は悶絶しっぱなしです。じっくり丁寧にこんがり焼き上がった風味豊かな名曲だらけの名盤『べいくあっぷ』、賞味期限は百年どころか無期限!是非ご賞味あれ。


カランツバターサブレ1stアルバム「べいくあっぷ」ティーザー映像

危うい夢の世界に入り込むかのような短いサウンドコラージュ「プロローグ」から、一瞬で目覚めて現実世界に引き戻されるリードトラック「百年」への流れがいきなり素晴らしい。百年前も百年後も君も僕もいない ”だから もうすこし やさしく してほしい” 強力かつ切実な言葉が艶めかしく心に響く。アコースティックギターとヴァイオリンが奏でるリズムが麗しい「逃避行」、じわりじわりと熱を帯びてくる。イントロのジョージ・ハリスンよろしくスライドギターの響きがマイ・スウィート・ロード感満載でニンマリする軽快な西海岸ポップチューン「そのボタン」、元々はロン・セクスミス風だった弾き語り曲をバンドに持ち込んだらこうなったというイカしたバンドマジック。トイピアノの可愛らしい音色と波の音にうたた寝しそうな「ブレイク」で、しばしブレイク。そんなほのぼのは束の間、エレクトリックギターにホーンセクションがおどろおどろしく吠え、ひたすらダークで美しい「花びら」は私的ハイライト。またも一転して、愛らしいベースラインや陽気でおとぼけたホーンに乗ってスキップしたくなる、ラヴィン・スプーンフル風小粋なグッドタイムポップス「はねをやすめて」で、しばしはねやすめ。まさしくタイトル通り、吉井さんらしいネジレた曲展開がクセになる「ネジレル!」、豪快でぶっとい最高のホーンアレンジはピートさん(曰く、ザ・バンド(ホーンアレンジはアラン・トゥーサンですね)と「サヴォイ・トラッフル」をイメージしたそう。なるほど!)。ここから終盤4曲はtoncoさん&うちだあやこさん(dodo)による女性コーラス隊が加わり、より華々しく...と思いきや、どこか影のあるヘヴィーに粘りつく愛の囁き「名無しのマリア」で気持ちがズシリと静まり返る。真夜中に寝つけない時にやたらと耳に飛び込んでくる時計の秒針のようなリズムボックスのリズム、突如として悪夢にうなされる「僕の右手」で少し不安げに...なるも、必ず朝が訪れ、カーテンの隙間から眩しい陽の光が差してくる。感動的に開放感に満ちた「溶け始めた君を」で幸せいっぱいの気分になりアルバムは幕を閉じる、いや、幕が開いたのかもしれない。アルバムって、イイですね。


カランツバターサブレ『百年』

『べいくあっぷ (Bake Up)』 カランツバターサブレ(2018年)
全曲、作詞・作曲:吉井功

01. プロローグ
02. 百年
03. 逃避行
04. そのボタン
05. ブレイク
06. 花びら(ホーン&弦アレンジ:藤原マヒト)
07. はねをやすめて(ホーンアレンジ:佐藤綾音)
08. ネジレル!(ホーンアレンジ:福島ピート幹夫)
09. 名無しのマリア
10. 僕の右手
11. 溶け始めた君を

カランツバターサブレ...
吉井功/藤田厚史/福島ピート幹夫/藤原マヒト/SACHI-A

参加ミュージシャン...
江藤有希(Vn)/熊谷太輔(Snare,Djembe)/佐藤綾音(Cl,Sax)/関口新一郎(Tb)/リョコモンスター(Tb)/tonco(Chorus)/うちだあやこ(Chorus)

※ヨシンバは今年でデビューから20周年(!!)だそうなので、12年ぶりのニューアルバムが出そうな予感です。楽しみ!