レコードは果てしなく

好きなレコードや観たライヴのことを喋ります。'79年生まれ。

『嘘つきと音楽のはじまりに』 加藤千晶とガッタントンリズム

明けましておめでとうございます!本年もどうぞよろしくお願いします。って、新年のあいさつ遅すぎですが...このマイペースぶりが当ブログの売りです(言い訳)。気まぐれな更新は相変わらずなので、我慢強くこまめにチェックして頂くとありがたいです。さて、新年の私は初詣に近所の神社で引いたおみくじが大凶レベルで目も当てられない最悪の内容でもう忘れましたが、そのせいか先日は何十年ぶりかにインフルエンザに罹りまして1週間ほど臥せっておりました。病院でイナビルという吸入薬を処方され、看護師さんの目の前で粉を思い切り吸い込むだけなのですが、私はうどんをすすれないタイプで照れもあり、あまりに下手くそすぎて、「頑張れ~」と励まされた38歳のおっさんです...トホホ。そして、家に重い足取りで帰り、布団の中でうんうん唸りながら頭の中をぐるぐる巡っていたのは加藤千晶とガッタントンリズム「灰色の右」の”入り日かな♪”というフレーズでした。いよいよ、もう人生の入り日です(そんなことはない!)。

嘘つきと音楽のはじまりに

嘘つきと音楽のはじまりに

そんなわけで、今回紹介するニューアルバムは加藤千晶とガッタントンリズム『嘘つきと音楽のはじまりに』です。2012年発表の前作『蟻と梨』は歌アリ盤&歌ナシ盤2枚組のボリュームで笑いあり涙ありのまさしく集大成的な渾身の傑作で、倉科カナ主演のテレビドラマ「花のズボラ飯」のサウンドトラックとして深夜のお茶の間に流れたりも(最終回には加藤千晶+鳥羽修+高橋結子トリオで出演!毎年クリスマスに録画したそのシーンを観て、ほくそ笑むのが我が家の恒例行事)。2014年にはNHKみんなのうたで放送された(アニメーションは森雅之さん!)穏やかで心温まる「四つ角のメロディー」やおかあさんといっしょで子どもたちにも大人気だった「ほっとけーきはすてき」などを収録したミニアルバムがあり、それ以来の待望の新作『嘘つきと音楽のはじまりに』は加藤千晶とガッタントンリズムという初めてのバンド名義でのアルバム。加藤千晶(piano)、鳥羽修(guitar)、高橋結子(drums)、河瀬英樹(bass)という面々は前々作『おせっかいカレンダー』(2005年)からの不動のリズムセクション、そこに中尾勘二(trombone)、Mino Aketa(trumpet)、橋本剛秀(tenor sax)のホーンセクションを加えて、加藤千晶とガッタントンリズム。電車がガッタンゴットンではなくガッタントン、ちょいと不規則に素っ頓狂に揺れるリズムがウキウキする心地良さはますます全開に(NRBQが惚れ込むのもむべなるかな)。とりわけガッタントンホーンズを全面的にフィーチャーし、ビッグバンドのごとく華やかで厚みのあるサウンドがまた最高にゴキゲンだ(絶好調に躍動するバンドサウンドをそのままパッケージした鳥羽修録音&ミックスも相変わらずお見事!)。サザエさんのオープニングみたく老若男女に猫まで踊り出す、何気ない日常生活から滲み出るダンスミュージック決定盤。私もコレでインフルエンザが治りました、嘘のように元気になる、懐かしくもとびきり新鮮なグッドタイムポップスをご堪能下さい。


『嘘つきと音楽のはじまりに』Trailer / 加藤千晶とガッタントンリズム

オープニングはガッタントンリズムのテーマソング的な電車歌「隧道上々」、いきなりタイトルの漢字が読めません(笑)。ずいどうじょうじょう、隧道とはトンネルの意味だそう。加藤千晶さんの歌詞は、平易な表現の中にこういう聞きなれない難しい言葉を放り込んでくるのが面白い。「あまいからいすっぱいにがい」は発語した時点でもうすでにグルーヴィー、みんなで合唱しましょう!味覚を歌うことは人生を歌うこと。勢いはそのままにインストゥルメンタル「トッ拍子号」で一汗かいて(冷や汗かもしれないけど)。MVにもなっているほんわかニューオーリンズな雰囲気の「灰色の右」で、ハンドクラッピンに乗って身も心もほっこり。”針すべるマーティンデニー”の後の例の鳥?の鳴き声は中尾勘二さん、名演です。これまた言葉の魔法というか魔術的な「ぼんやりぼんぼん」、”ぼんやりぼん ぼーん ぼーん♪”という長閑な響きは聴き終わっても除夜の鐘のように鳴り続ける。もう!レコード2枚買っちゃおかな(私の場合)。愛着のある楽器を手放すことになってしまった無念さ寂しさを歌ったバラード「いとしのエレピアン」は涙なくして聴けません...。後半戦突入、溢れんばかりの疾走感で商店街の景色を描写したすずらん通り商店街。古いも新しいも賑やかも侘しさも混在する商店街はまさに加藤千晶さんの音楽そのものでしょう。続くインストゥルメンタル「不二屋洋服店」は実在している服屋さんをテーマにしているのかは分からないけど、きっと愛嬌のあるお店なんだろうなぁ。「10センチ」とは10cmの隙間を気まぐれに出入りする野良猫のこと、加藤千晶さんのツイッターにも度々登場。こちらは愛情いっぱいなのに好いてくれてるのかどうか判然としないセンチメンタルな気持ちが素敵に表現されている。ラグタイムを反対にしてタイムラグ、猫だけでなく時間も自分の思い通りにならないもどかしさを嘆きまくる「Time Time Rag」。詩情あるけども何とも不思議なタイトルだなと思ってたら回文だった「雪に添う靴の跡、あのつく嘘に消ゆ」、しんしんと心に雪が降り積もる。”嘘でもいいんだ ぼくは歌おう”に力強い何かを感じる、それが嘘でもいい。


灰色の右 / 加藤千晶とガッタントンリズム


『嘘つきと音楽のはじまりに』 加藤千晶とガッタントンリズム(2018年)

01. 隧道上々
02. あまいからいすっぱいにがい
03. トッ拍子号
04. 灰色の右
05. ぼんやりぼんぼん
06. いとしのエレピアン
07. すずらん通り商店街
08. 不二屋洋服店
09. 10センチ
10. Time Time Rag
11. 雪に添う靴の跡、あのつく嘘に消ゆ

加藤千晶とガッタントンリズム...
加藤千晶:Vocal, Piano
鳥羽修:Guitar, Chorus
高橋結子:Drums, Chorus
河瀬英樹:Contrabass, Chorus
中尾勘二:Trombone, Chorus & Birds
Mino Aketa:Trumpet, Chorus
橋本剛秀:Tenor Sax, Chorus