レコードは果てしなく

好きなレコードや観たライヴのことを喋ります。'79年生まれ。

『PASTORAL』 青野りえ

都会が似合う洗練された知性と美貌を兼ね備えたオトナの女性にいつだって憧れていますが、身分不相応すぎて近寄ることさえできない私です。恋するなんてとんでもない。リアルでは無理だとしても、レコードの中でだけでも、そんな高嶺の花の女性に恋に落ちたいじゃないですか、落とさせてちょうだい!というわけで、今の私は青野りえ『PASTORAL』にメロメロに惚れております。麗しのシティポップス決定盤!登場です。

PASTORAL

PASTORAL

昨今のシティポップブームにヒネクレ者の私は敢えて見ないふりをしていたけど、それでも目に飛び込んでくる印象的な美しいレコードジャケット。ダークブルーに浮かぶ鮮やかな赤。私の思う(好きな)シティポップスは、抑制と煌びやかが同居しているポップスであり、まさしくこのジャケットでの色のコントラストのイメージなのです。そして、その音楽もジャケット通り、というか、ますますエレガントで素晴らしい。シティポップスマエストロ関美彦さんによる作曲(思わず唸る名曲ばかり!)&プロデュースで、メロウな歌心たっぷりの名プレイヤーたちによる現代のティンパンアレーと呼びたくなるようなグルーヴィーな演奏は完璧としか言いようがない。それだけでも贅沢なのだが、更に素敵なのは、極上のバンドサウンドにまろやかに溶け込む青野りえさんの豊かな歌声歌唱である。変に出しゃばらないお淑やかさと気品のある色気、優しい包容力もあって、何とも癒される。歌と演奏の熱すぎず冷めてもいない絶妙な人肌の温もりがあまりに心地良いのです。また、インタールード的な小品を含め全9曲28分のほとんどが3分台というタイム感もジャストで(関さんのこだわりじゃないだろうか)、無意識にリピートせずにはいられない。多くを語らずも旨味を軽やかにギュッと詰め込んで余韻の香りまで楽しめる、私にとってポップスアルバムの理想形だ。


青野りえ「PASTORAL」ダイジェスト【全曲試聴】 full ver.

冒頭の伊賀航さんのウネるベースからジワジワと熱くなるアルバム表題曲「PASTORAL」。シティポップスのアルバムの1曲目で最強だと思うのはキラキラした疾走感が眩しい荒井由実COBALT HOUR」なのだが、そんなムードをもっとグッとオトナのファンキーさで攻めた最高にクールな名曲。話し声までウットリする青野さんの語り「prelude」に続いて、まさしくドライヴ中にFMラジオから流れてくると雰囲気バッチリな「On the Radio」へ。しっとりしたアカペラから一気にダンサブルなグルーヴになだれ込んでいく構成は、吉田美奈子「愛は彼方」を彷彿とさせる。チュッチュッチュッチュッフワァー♪というすこぶるキュートなコーラスにもキュンとやられた(青野さんの多彩なコーラスワークは流石)。これから大好きな彼に会いに行く爽快ウキウキ通り、ラヴがいっぱいの「Love Always」で街を歩く足取りもふわりと軽くなる。そんなラヴラヴモードから一転、最初の一節”返事はいらない”からもユーミンが匂い立つ、慈しみと切なさに満ちた別れのバラード「大桟橋」でメロウに黄昏れる。タメを効かせて見事に泣く伊賀航&北山ゆう子リズム隊は、細野晴臣林立夫コンビにも負けていない。新進気鋭のAORユニット、ブルー・ペパーズの井上薫さんが作曲した「晴海通り」はどことなくキリンジにも似たさりげなく変態的に凝ったポップナンバー。山之内俊夫さんのTighten Upっぽいリズムのカッティングギターやあれ?鈴木茂さんが弾いてるの?と(良い意味で)勘違いしてしまいそうな音色とフレージングのギターソロがツボど真ん中。当初アルバムタイトル候補だったというゆりかもめは、青野さんの芯のある伸びやかな歌声に海岸を颯爽と飛び回るゆりかもめのようにそれでも前を向いて生きていくわよという強い意志みたいなものを感じてグッとくる。続くチェルシーもまた然り”おろしたてのブーツで またひとり出掛けるわ”、重たく弾むオルガンのリズムと勇壮なギターソロに背中を押され、しっかりと地面を蹴って凛として街を歩いていく。最後は、ゆっくりと暗がりになる街にそっと手を振って家路につく穏やかな「夕さリ」。家に着いてふっと一息ついたら、ふっとアルバムは終わる。


『PASTORAL』 青野りえ(2017年)

01. PASTORAL
02. prelude
03. On the Radio
04. Love Always
05. 大桟橋
06. 晴海通り
07. ゆりかもめ
08. チェルシー
09. 夕さリ

録音メンバー...
青野りえ、関美彦、伊賀航、北山ゆう子、山之内俊夫、井上薫、吉田仁郎、長谷泰宏

Produced by: Yoshihiko Seki
Chorus Arranged by: Yoshihiko Seki, Rie Aono / (M03) Yoshihiko Seki, Jiro Yoshida, Rie Aono
Recorded by: Eiji Hirano at Studio Happiness / Jiro Yoshida / Toshihiro Mizuno(MOMO Records) at MOMO Studio
Mixed and Mastered by: Eiji Hirano

※おっ!これまたスタジオ・ハピネスで録音されている。当ブログで紹介した作品では、BAND EXPO『BAND EXPO』、TRICKY HUMAN SPECIAL『黄金の足跡』、大なり><小なり「PLUG AWAY」もスタジオ・ハピネス産。アナログの質感に近い70年代風のサウンドやフィーリングを出したいならここ、っていう感じですなぁ。