レコードは果てしなく

好きなレコードや観たライヴのことを喋ります。

『SPEEDY MANDRILL』福岡史朗

つい先日6月10日、大阪天満宮の近くディープな音楽愛とご飯&お酒がすこぶる旨い音食堂酒場・音凪へ、福岡史朗+松平賢一+大久保由希のライヴを観に行った。お客さんと期待が満員御礼の中、来月発売される福岡史朗さんのニューアルバム『SPEEDY MANDRILL』収録曲を全曲曲順通りに披露してくれた。それだけでなく嬉しいことに、何とかこの日までにレコードも間に合わせてくれたので、つまり、超先行レコ発ライヴである。(バンドではやっていたが)トリオで全曲やるのは初めてのようで、思わず緊張すると漏らしながらも、そんなことを微塵も感じさせない(ちょっとしくじるところさえ)ピッタリ息の合ったゴキゲンな演奏は今宵あの夜も流石中の流石であった(あの肩慣らしのキャッチボールのフォームで150km/h投げ合うロックンロールセッションは唯一無二)。ファンとしては、何と言っても(前回拾得で同じトリオで観た時に数曲聴いてはいても)これから聴きまくるだろう初めて聴く新曲を次から次へと味わえるフレッシュな贅沢よ!ありがたき幸せ。しかも、そのどれもがシビれるほどカッコ良くて素晴らしくて、あまりの感動と興奮で店中を走り回りたい気分であったが、大人なので必死に抑えた。終演後、熱演の余韻とお酒で酔いながら、お三方と一緒に解説を訊きつつ音凪のスピーカーで出来たてホヤホヤのレコード『SPEEDY MANDRILL』を聴くという嬉し楽し時間を経て、帰宅してからも我が家のスピーカーで(外でも)狂ったように聴きまくっている。

『SPEEDY MANDRILL』を一言で言えば、もう言ってしまっているが、シビれるほどカッコ良いロックンロールアルバム、だ。それしか言葉が出てこないくらいである。以上、終わり...いや、続けるが。これまでGREEDY GREEN解散後2001年のソロアルバム『TO GO』から始まるフルアルバムは11枚、昨年には全曲新録2枚組31曲入りというフルボリュームのオリジナルアルバムのようなベスト盤『HIGH-LIGHT』もあり、とめどなく多作な福岡史朗さんであるが、そのどれもが甲乙つけがたく名盤ばかり。それゆえにどれが随一の代表作かを決めかねていたが(決める必要があるのかは知らないが)、こうやって最新作12th『SPEEDY MANDRILL』を聴いてからは、スパッと『SPEEDY MANDRILL』が最高傑作だ!と言えてしまう。近所のお兄ちゃんがTシャツ&ジーパンで八百屋に行ったついでにかき鳴らすロックンロール、日常生活から滲み出るSF情緒。そんな福岡史朗節は1stから出来上がっているし、今回も音楽性自体が特別に大きく変わったということはないのだろうけども、演奏もリズムも言葉も何もかもがより切れ味鋭くなったという印象で、緩急のある展開を見せていく曲が多かったり、凝ったコーラスやアレンジの幅も広がっているように感じる。SPEEDY MANDRILL(スピーディー・マンドリル)、聴く前はドラクエに出てきそうなものすごいイカれたタイトルだな(笑)と思っていたが、聴いてみればなるほどしっくり来るイカついモンスター感。そして、その奥底にドロドロと渦巻いているのは怒りの感情だ(個人の感想です)、今この世を不穏にさせている何かに対する怒り。かと言って、激しい感情をただ吐き出して並べるのではなく、そのどれもがしっかりとイカした詩(詞)であり、直接的ではないけども、繰り返され強調される言葉がヒリヒリとジワジワと突き刺さってくる。音楽性よりもメッセージ性が勝ってしまうものほどつまらないものはないが、何よりも史朗さんは独創的で刺激的なロックンロールに昇華させているので、もう最高なのである。とにかく、矢継ぎ早に繰り出されるスピーディー・マンドリルの痛恨の一撃!に身も心もシビれっぱなしなのだ。

さぁ、この勢いで全曲感想に行きたいところだが、正式発売は7/16なのでそれまで我慢することにする(笑)。何はともあれ言いたいことは、マストバイやで!

SPEEDY MANDRILL

SPEEDY MANDRILL

『SPEEDY MANDRILL』 福岡史朗(2017年)

01. ラウドスピーカー 02. マカロニチーズ 03. ストロボ 04. ガレージ 05. ステップ 06. グレープフルーツスプーン 07. ニュートリノ 08. 太陽 コロナ リフレイン 09. 狂った魚 10. 素数 11. シェルター 12. 法王のハーレー 13. モナリサ 14. ギフト

録音メンバー...
福岡史朗、松平賢一、大久保由希、ライオンメリー、高岡大祐、本橋卓、福田恭子、辻睦詞、平見文生


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そんなこんなでめでたく正式発売日を迎えられたので、全曲感想行っちゃいますよ行っちゃいますね(小出し小出しで)

① 「ラウドスピーカー」
グンガングンガングンガンというリズムがポール・マッカートニー&ウイングスの「幸せのノック」を思わせるイントロ。史朗さんはジョン・レノン派のイメージなので、なんかちょっと意外に感じたりもしたが、そこからは何とも不思議ぃとしか言いようのない謎の展開に突入。ひたすら脳内にこびりつくのは、念仏を唱えるように繰り返される”ラウド ラウド ラウド スピーカー”。福岡史朗のアルバムは1曲目にそのままアルバムタイトルになるキャッチーな名曲が来ることが多いが、今までとは違うヌルっと心と耳を掴むリード曲だ。妙な音がいっぱい入っているけども、ウォッシュボードは中原”ムー”由貴さん(from双六亭、青山陽一 the BM's、300grams)。あと、終盤の史朗さんが弾くとぐろ巻いてうねるベースが、実に太い。

② 「マカロニチーズ」
続く不思議ぃなムード、ではあるが、サビに入るとテンポアップしてポップに変身するのが痛快な2曲目。この曲の肝はベースが入っていないこと、その代わりにさすらいの高岡大祐さんがチューバでベースラインを吹いている(つまり、チューバとドラムのリズム隊)。という解説を聞いて初めて気づく実験。溶けたマカロニチーズのような熱々の糸を引くリズムを味わって下さい。

③ 「ストロボ」
これも高岡さんのチューバの温もりのある音色が印象的で、どこか童謡のように素朴で懐かしいメロディーが沁み渡る。私は聴いていると”なすがまま”に子どもだった頃を思い出す。夢中で友だちと遊んでいたら、もうすっかり空は薄暗くなり、家に帰らなあかん時間になってしまったあの切なさ。

④ 「ガレージ」
さぁ、ここからいよいよキレてくる。まずはその名の通り、ガレージなファンクで下腹部からグググッと体温が上がる。曲調もそうなのだが、冒頭の”そして目が覚めたらガレージの中にいた”を聴いた時に、”二度寝をしたら朝が消えた”の「シャッフル」(『FRILL THRONE』『HIGH-LIGHT』収録)の続編なのではと思い込んで楽しんでいる。この曲では、アルバムで唯一、大久保由希さんがベースを弾いている(一人リズム隊)。何やら300gramsの相棒・中原由貴さんが突如ベースを弾き始めたのに触発されて直訴したそうだ。なんたってリズム感覚がズバ抜けている由希さんなので、ベースも独特に鋭くファンキーなグルーヴを奏でている。本橋卓さんの重厚なサックスや、史朗さんの狂おしいピアノも加わり、バンド全体でファンクに向かう。皆が目指すのはJB(ジェームス・ブラウン)、果たしていかに...

⑤ 「ステップ」
前曲カットアウトから、砂埃を吹き散らして軽快に吠えまくるブルースハープにシビれながら、思わずステップを踏んで踊り出したくなる。それと何より、言葉がものすごくグルーヴしてる。特に、サビ?のフィンガースナッピンに乗って歌われる”あゝ猫がステップと”の”と”がめちゃくちゃ効いている。無意識に口ずさんでしまう魔力がある。間奏のブルージーに燃え上がる松平賢一さんのギターソロも最高だ。

⑥ 「グレープフルーツスプーン」
ついグレープフルーツムーンと言ってしまいそうになるが、スプーンである。グレープフルーツの果肉を皮から剥がしやすいように先端がギザギザになっているスプーン、普通のスプーンよりも”残忍な奴さ”。グレープフルーツの柑橘感?レゲエ風のリズムでちょっとトロピカルなムード、ライオンメリーさんのオルガンとピアノがチャーミングだ。とは言え、リゾート的ではなく空はどんより曇っている。

⑦ 「ニュートリノ
容赦のない暑さとバタバタしてる間に人生終わっちゃうぞ~♪町あかり『EXPO町あかり』の凄まじい破壊力にすっかりヤられて、全曲感想が絶賛滞っている今日この頃...であるが続けよう。さてさて、『SPEEDY MANDRILL』をLP風にちょうど半分でA面B面に分ければ、A面最後はこの曲「ニュートリノ」疾風怒濤のロックンロールだ。嵐の予感しか起こらないスリリングなギターリフで始まり、グングンとバンドのスピードとグルーヴが増していく様はまるで「Paperback Writer」のよう。辻睦詞&平見文生コンビのサイケデリックな宇宙人コーラスに意識が遠のきながらも、ガツンと頭蓋骨に響く”つまらん奴に怯えるな”。

⑧ 「太陽 コロナ リフレイン」
先ほど青山陽一さんより福岡史朗さんとのコンビで東京・九州(鹿児島ではSPEEDY MANDRILL+青山さん)でライヴを行うという告知があり、嬉しい驚きと関西を飛ばされた切なさでいっぱいです。と言うわけで?またもや滞っていた全曲感想再開。この曲からアルバム後半戦に入っていく。冒頭から怪しげで不穏な旋律のコーラスで始まり、ラップではないが不愛想に言葉がぶつ切れで飛び込んできて、”太陽 コロナ リフレイン”という奇妙なリフレインが脳内をグルグル回る。ここからますますヤバイ底なし沼に引きずり込まれていく。

⑨ 「狂った魚」
狂った魚と聞いて、人面魚が思い浮かんだ世代である。鯉でしたっけね?単なる模様であって、魚本人は別に狂っているわけではない。それを見た人間が勝手に狂っているだけである。たぶん、そういう歌ではない気がするが...。水槽で暴れる狂った魚が何を暗示しているか?地震を予知するナマズだろうか?想像は果てしない。一見ほのぼのしてそうだが、メリーさんの古めかしいオルガンの音が狂力に鳴っている。

⑩ 「素数
今作ではこれまでになかった新味と言っていい要素の一つに、コンガがフィーチャーされた曲が2曲入っていることである。演奏するのはパーカッショニスト福田恭子(おきょん)さん、中村ジョーイーストウッズのメンバーでもある。おきょんさんは大久保由希さんのアルバムではすっかりお馴染みなので、福岡史朗作品でも参加していたかと思いきや、今回が初参加(のはずである)。彼女の叩く軽快に跳ねるコンガのリズムがモータウンビート(これも珍しい)に彩りを添える、由希&史朗のトゥットゥットゥ~♪というコーラスもゴキゲンだ。素数とは、1よりも大きい整数で、1とその数以外で割り切れない数。嘘だろ?と人生割り切れないことだらけであるが、この曲を聴いてモヤモヤを吹っ飛ばしたいものである。

⑪ 「シェルター」
聴き始めてからまだ三か月ほどだが、シェルターという言葉が随分と生々しさを帯びてきた気がする...。松平さんのスライドギターの粘り、べっとりとファンクなリズムが身体にまとわりつく。鈍い渋滞からクーペが”一滴”額を流れる汗のように滴り落ちる、通気性の悪そうな”スエードロファー”の重い足取り。

⑫ 「法王のハーレー」
クーペが走り去った後は、ハーレーだ。ただのハーレーじゃない、法王のハーレーだ。今日も”ふざけた政治のニュース”が飛び込んでくる、イヤな感じ。時代は変わり音楽の流行も変わったけども、反体制スピリットがロックの一つの大きな原動力であったことを思い出す。とは言え、ここでは軽やかに風を切るようにロックがロールしている。

⑬ 「モナリサ」
モナリザではない、モナリサ。得体の知れない狂暴なモンスターが現れた、こいつがSPEEDY MANDRILLの正体だろうか?巨大な地響きのようなベース、ガルルルル...と唸り声を上げるギター、悪魔を憐れむように乱れ打たれるコンガ。まさにロックンロールの化け物だ。どうせならグググっとボリュームを上げるべし、爆音で死す。

⑭ 「ギフト」
なんとかラストボスを倒して、ふっと穏やかな時間が訪れる。そして、プツンとテレビの画面が縮んで消えるようにアルバムは終わる。