レコードは果てしなく

好きなレコードや観たライヴのことを喋ります。'79年生まれ。

BAND EXPOな人たち③ 西村哲也さん

Sitting on the highway...夏は終わった...。まだまだ残暑は厳しいらしいですが、いよいよ9月になりましたので、嗚呼、BAND EXPOの1stアルバム『BAND EXPO』の発売(9/28)が待ち切れない!自分勝手にメンバー紹介シリーズ第三弾。は、もちろん西村哲也さんです。個人的にいろいろ思い入れの強い方であり、最も好きなギタリストがレコード・コレクターズ誌2013年1月号の『特集 ニッポンのギタリスト名鑑』に載らなかった恨みつらみも込めて(笑)、やたら長くなるのは目に見えてますが、どうぞひとつお付き合いを。

BAND EXPO

BAND EXPO

まずは西村哲也さんとの出会いについて。西村さんと言えば、グランドファーザーズのギタリストとして知られているでしょう。私は高校時代にカーネーションをラジオで聴いてからひねくれた音楽リスナー人生を歩み始め、自然とカーネーションに関連のあるアーティストやバンドを調べて聴いていく作業に入っていくのですが、そんな中で青山陽一さんソロからグランドファーザーズを知ります(西村さんの存在を把握)。初めて西村さんの生演奏を観たのは、2003年9月21日『音楽感謝 Vol.4』@京都クラブメトロで、青山陽一さんのサポートメンバーとしてでした(アコースティック編成。もう一人のメンバーがダリエさん、という不思議なトリオ)。確か西村さんはソロ曲「Snowbird」だったかを歌ったような記憶がありますが、共演にカーネーションがいたので、大田譲さんが加わってプチ・グランドファーザーズ再結成!?「Slit No.1」が聴けたのが至福の喜びでした。そして、しばらく経ったある時、カーネーションを通じて知り合ったOさんという方から、「けいすけさんは、見た目や喋ってる雰囲気が西村哲也さんとよく似ているので、きっと気に入ると思います」と西村さんのソロアルバム『ヘンリーの憂鬱』を焼いたCDをいただきます(運命的!?)。聴いてみれば、まさしく私の大好きな音世界で、まんまと気に入ってしまったのでした(笑)。で、これがまたいいタイミングで、ベスト盤的ミニアルバム『ウォーターメロン砦』(2005年作品。花*花こじまいづみさんや面影ラッキーホールのメンバーが参加。なんと神戸タワレコでは試聴機に入ってプッシュされていた!)がリリースされ、アーシーな黄昏スワンプロックに完全にヤられます。その年の年末12月18日に拾得(人生初拾得!)でKID AT A-LOW'Sのゲストで西村さんが出るというので(チャージ1000円だし)、雪降る中、観に行きました。アコースティックギターの弾き語りでライ・クーダー「Great Dream From Heaven」をサラリと完璧に演奏したり、セッションでwanDerさんのエレキギターを借りてサラリと粋なフレーズを弾いたり、なんかもうずっと静かに興奮していました。エレクトリックバンド編成(PORK PIE HATSというバンド名)では、2006年9月7日に京都アバンギルドでの芸妓ジャズシンガーMAKOTOさんとの共演ライヴが初めてでしたが、何と言っても、同年12月8日拾得での初ワンマンライヴが最大のターニングポイントでした。出演者5名(ゲストのwanDerさん含む)に対して客席7名という切ない状況にも関わらず、ライヴ自体は非常に気持ちの入った熱演で胸打たれました。西村ファンは漏れなく何かいけないスイッチが入った時の西村さんの狂気っぷりを愛していますが、この時の半ばヤケクソ気味の暴れ方は過去最狂でした。「何でもいい」間奏での、ギター背中弾き、歯弾き、靴弾き(失敗)、胴上げ、激しい足踏み...もはやギターソロを超越したただただエネルギーの暴発。西村さんはソロから曲に戻るときに手を上げてメンバーにサインを送るのですが、この時はテンションが上がりすぎて何度も腕を振り上げるものだから、凄腕揃いのバンドメンバーでもそのタイミングが判別つかず、もうしっちゃかめっちゃかに。比較的クールに鑑賞する私でもこのシーンには拳を握りしめて燃えたぎりました、これがロックや!と。きっと拾得マスターのテリーさんも感銘を受けてらしたと思います。終演後、PORK PIE HATSドラマーの五十川清さん(あのEP-4の!)曰く「ギターソロは一番盛り上がったところでスッと止めるのがいいんだよ。でも、西村くんはそこからまだ続けるから、最後尻つぼみしちゃう(笑)」。五十川さんは後ろでドラムを叩きながら、西村さんのギタープレイがキレ始めると、来たよ!といつもニコニコ楽しそうでした(2010年に残念ながら亡くなられました。未だ悲しい)。とにかく、この日を境に西村さんの大・大・大ファンになり、もっと応援せねばならない、広く音楽愛好家たちに知らしめないといけないと(勝手に)心を決めたのでした。


Good Bye/GRANDFATHERS

西村哲也さんのそんなライヴでキレるパフォーマンスも然ることながら、真っ当にロックギタリストとして最高なのです。グラムロックプログレから洋楽に入り、はっぴいえんどよりも四人囃子や外道が好きで、ロバート・フリップジミー・ペイジ、ロイ・ブキャナン、フランク・ザッパライ・クーダーといった一癖も二癖もある偉大なギタリストから血肉を受け継いでいる(と感じている)。すぐにそれと判る土の香り芳しい温もりのある音色(66年製フェンダーテレキャスターがメイン)や独特に泣くフレージング、もう何もかもがグッときて仕方がない。レコード・コレクターズ誌2014年4月号での小川真一さんによるソロ作『運命の彼のメロディ』レヴューの中で、ギタリストとしての西村さんを「ともかくオブリガートがべらぼうに上手い。そのフレージングのすべてがそのまま一曲になっていくほどで、これは作曲といってもいいだろう」と評しておられて、まさしくそう!と膝を打った。歌伴に徹する時のボーカルの傍らで微かに鳴っているほんの些細なフレーズも歌心たっぷりで、それは鈴木茂、徳武弘文、告井延隆、村松邦男伊藤銀次...70年代のイナたいシティポップスを彩ったギタリストの系譜にもあるのだろうけど、時に譜面に起こせないような謎の奇怪なフレーズが飛び出したり、胸をえぐるように掻き鳴らされるギターソロはニューウェイヴどっぷり世代ならではなのかもしれない。また、西村哲也節の大きな特徴として、スライドギターを多用し、ここぞという時のスライドソロのあまりに美しいメロディアスぶりは天下一品(面影ラッキーホール「おみそしるあっためてのみなね」聴かれたし!号泣必至)で、歌メロと同じように思わず一緒に口ずさんでしまうほどである。西村さんが奏でるそんなハッピー・サッドな響きは私の心の栄養だ。


面影ラッキーホール "好きな男の名前腕にコンパスの針でかいた" @ WWW

京都にいながらOnly Love Hurts面影ラッキーホール)やメトロファルスのリードギターを務める西村哲也さん、その事実だけでも名ギタリストの称号を与えてもいいだろうし、福岡史朗さんも西村さんのことを「達人」と称しているけれど、存在をあまり知られてなさそうなのは、その控え目なお人柄も関係しているのかもしれない。クラスではおとなしくて目立たず、昼休みは静かにひとり本を読んでいる心優しきオタク少年が、そのままオトナになったような方(あくまでも例えですよ)。西村さんの生誕50周年記念ライヴ@拾得にゲストで出ていたこじまいづみさんがMCで「花*花がメジャーデビューすることになって、初めて東京でレコーディングする時に、どんなスタジオミュージシャンが来るのだろう?いかにも業界人みたいな気取った人なのだろうなとドキドキしていたら、えらく腰の低い人が入ってきて。レコーディング中も、すいません、すいませんとずっと謝ってるし。それが西村さんでした(笑)」面白いくらいにハッキリと絵が浮かぶ。そういういかにも穏やかな空気をまとった人がステージに上がってエレキギターをガッと弾き出したら狂人に豹変する、あの瞬間を目撃するために足繁くライヴに通う。普段の私は自分を抑えて地味に生きているような人間なもので、観ているだけでもあの瞬間にスーッと解放される。ありがたいお兄ちゃんです(兄弟と間違われる)。


50/西村哲也

シンガー&ソングライターとしてもまったくもって素晴らしい西村哲也さんですが、そのことについて書いていたら終りが見えないので、今回はギタリストとしての西村さんの魅力を中心に書いてみました(あとはBAND EXPOのアルバムの感想で)。一度だけ観たBAND EXPOのライヴでは、ニール・ヤング「Down By The River」を西村さんがロイ・ブキャナンになりきってカヴァーしていましたが、凄まじいギター演奏で呆気にとられ、終わった後しばらく会場がシーンと静まり返ったのを付け加えておきます。では、最後にBAND EXPOのライヴ映像を観ていただきましょう。西村さんらしいダークな質感を持ったじっとりとしたナンバーです。アルバム楽しみだなぁ、ホントに。


渇き/BAND EXPO

ミュージックビデオが公開されました!3人のボーカル回しが泣ける感動の名曲「Memories」です。ギターはもちろんですが、ペダルスティールやマンドリンの温かい響きは西村さんによるものでしょう。


Memories/BAND EXPO