レコードは果てしなく

好きなレコードや観たライヴのことを喋ります。'79年生まれ。

『Multimodal Sentiment』 カーネーション

ニッポンの夏、カーネーションの夏。

この感じ、なんだか久しぶりのような気がします。カーネーションの4年ぶり通算16枚目(!!)のニューアルバム『Multimodal Sentiment』が届きました。私的には、前作『Sweet Romance』が周囲の大絶賛に反して、3.11の暗い影に覆われたどことなくフォークシンガーな雰囲気に気分良く乗れなかった(ごめんなさい)ので、今作はどうなのだろう?とちょっと身構えたりしていたのですが、これがスコーンと左中間スタンドに飛び込んでいくような痛快なポップ&ロックアルバムで、嬉しくなってニヤニヤが止まりませんでした。私の好きなカーネーションの要素である気だるくグルーヴィーも復活、とは言え、あのコロムビア時代のソウル風味とはまた違ったギターロックサウンド、とは言え、トリオ時代のあのやさぐれたビンテージな質感でもない、スペーシーなオルタナティヴギターロックで、これまでとも雰囲気が異なる、またしても新しいカーネーションサウンドが堪能できます。大田譲さんのリードボーカル曲が無いのはやや寂しいですが、その代わりに、ベースの存在感はいつにも増して強力のように感じます。気持ちよくブルンブルン弾いておられる顔が目に浮かびますね。そのあたりも注目して聴いて、踊ってみましょう。

Multimodal Sentiment

Multimodal Sentiment

カーネーションはいつもそうではあるのですが、曲調がこれまで以上にこれでもかとバラエティに富んでいて、それでいてアルバムとしての一貫性があるのは流石のひと言。それはやはり直枝政広さんが綴る歌詞の影響も大きいのでしょう。アルバムの至るところに散りばめられた、だらしなさや情けなさ。特に今作はストレートにさらけ出されているような気がします。私が初めて買ったカーネーションのアルバムは『GIRL FRIEND ARMY』('96)で、高校二年の夏でした。当時の直枝さんは37歳、ちょうど今の私の年齢なのですが、「Garden City Life」で”どうすれば大人になれるんだろう”と歌っていて(私も実感を持ってまさしくそう思ってます)、それから20年経ったアルバムの1曲目が「まともになりたい」ですからね。巷ではびこる夢や希望を持とうという前向きなメッセージなんかよりも、はるかに勇気が湧きます。50を過ぎてもそんな風に相変わらず思い悩んでいていいんだ、という(笑)。アルバムタイトルのMultimodal Sentimentとは、多様な感情という意味だそうですが、喜怒哀楽だけでは割り切れないようなあやふやな切なさを歌うのが直枝節でカーネーション節でしょうか。だからこそグッとくるのです。


カーネーション「いつかここで会いましょう」MUSIC VIDEO

ウィルコをお手本にしたような幾何学的なギターアンサンブルで吠える「まともになりたい」、ロックやポップスで初めて聞く”土器”という言葉に衝撃を受ける。トーキング・ヘッズよろしくアフロファンキーな「WARUGI」は、直枝さんのデヴィッド・バーン唱法や大田さんの激ヤバなベースプレイ、グレイプバイン西川弘剛さんとの白熱ギターバトルと聴きどころだらけ。宇宙空間を星くず蹴散らし切なく疾走する「Lost in the Stars」コロムビア期を思わせる直枝さん曰くEdo Riverの続編的メロウグルーヴ名曲「いつかここで会いましょう」を聴きながら、自分の原風景を思い浮かべてみる、そして涙。ジャック達やタイツの一色進さんっぽいと言ったらアレだけど、妙な展開がクセになる捻じれロック「Pendulum Lab」。沼の底からジワジワと這い上がってくるようなフォークロック風「跳べ!アオガエル」。先行シングル曲のアルバムミックス、鋭く燃え上がるSFパワーポップアダムスキー大谷能生さんのラップ?をフィーチャーした「Autumn's End」はとにかく謎すぎるエレクトロポップ、エンケンの哀愁の東京タワーを思い出したり。直枝さんお得意のニール・ヤングもの(実際のモデルはティーンエイジ・ファンクラブだそうだが)「E.B.I.」鈴木博文さんにも通じるやるせなさ、海老フライがやたらカッコよく響くのは一体。大森靖子さんとの狂おしいデュエットナンバー「続・無修正ロマンティック~泥仕合~」は後半戦のハイライト、佐藤優介さんアレンジのキラめくストリングスが夜の街の孤独なふたりを包み込む。折り重なるひしゃげた轟音ギターの艶めかしい快楽に浸る「Blank and Margin」。かったるいしやる気が出ないという疲れた心情だけで描き切った「メテオ定食」、でも何か忘れてないか?ズーンと胸に落ちる。仕掛けがいっぱいで、1周目より2周目の方がぐんと旨味が増す、これからもずっと聴き続けたくなるアルバム。そういう意味でも、実にカーネーションらしい作品だと思う。

やっぱり、カーネーション先輩にはいつだって刺激を受けます。ありがたい。


『Multimodal Sentiment』 カーネーション(2016年)

01. まともになりたい
02. WARUGI
03. Lost in the Stars
04. いつかここで会いましょう
05. Pendulum Lab
06. 跳べ!アオガエル
07. アダムスキー (Album Mix)
08. Autumn's End
09. E.B.I.
10. 続・無修正ロマンティック~泥仕合
11. Blank and Margin
12. メテオ定食 (Album Mix)

カーネーション直枝政広、大田譲

参加メンバー:大谷能生大森靖子川本真琴佐藤優介、sugarbeans、徳澤青弦、西川弘剛、張替智広、松江潤 etc