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レコードは果てしなく

好きなレコードや観たライヴのことを喋ります。

『Spring Has Sprung』遊佐春菜

ツイッターやってまして、あれは3年前でしたかね、タイムライン上に突如として一色進さんに熱を上げている若い女性が現れまして、え、冗談でしょ?と大変に驚いたのですが、どうやら冗談ではなく本気、そんな物好き(笑)なお方が”壊れかけのテープレコーダーズ”というロックバンドの遊佐春菜さんでした。私が一色進さん(の音楽)にしっかり出会った(それ以前にタイツ「モンキー・ロリータ」は聴いたことあった)のがジャック達の1st『MY BEAUTIFUL GIRL』(2005年)で、当時26歳とかだったので、ジャック達のことをブログに書いたりなんかしていたら、若いのになんか変な奴がいるぞと注目を浴びたかどうかは知りませんが、何人かにはそう思われていたでしょう。そんな風に若くて変な奴時代がずーっと続いて、その3年前に遊佐さんが現れてくれたおかげで、ようやくバトンタッチできました。ありがたい、ていうか嬉しい。その後、遊佐さんは壊れかけのテープレコーダーズでジャック達やシネマと対バンしたり、ジャック達の最新作『JOYTIME』ではタイトル曲(2015年の私的最重要曲)でサリナ姫役として参加しておられます。つまり、ジャック達ファンにとってはアイドル的と言っていい存在なのですよ。って、一色さんよりも壊れかけのテープレコーダーズとしての遊佐さんを紹介しろよと言われそうですが...。

Spring has Sprung

Spring has Sprung

ともかく、遊佐春菜さんの初ソロアルバム『Spring Has Sprung』の話です。春菜の春でSpring、CDジャケットも発色のすこぶる良いピンク満載でレジに持って行くにはちょっと照れ臭かった(町あかり『ア、町あかり』と一緒だったので余計)ですが、とても素敵なアートワーク。ブックレットの紙の厚さと強度にもこだわりを感じます。もちろん見た目だけじゃないですよ、中身も本当に素晴らしいのです。ちょっと感動的なくらいに。作曲は住所不定無職のザ・ゾンビーズ子さん(総合プロデューサー)と金子麻友美さん、作詞は遊佐さん、藤井邦博さん(魚座)、三輪二郎さん、ニイマリコさん(HOMMヨ)、演奏陣が田代タツヤさん、鮎子さん、柳沢明史さん、佐古勇気さん...と参加者を書いていますが、ほとんどの方が名前は聞いたことある程度(住所不定無職なんて「あの娘のaiko」で止まってる)で何ひとつ説明できません。なので、ほぼどんな音なのか音楽なのか想像つかない状況で聴きました、新鮮。

遊佐さん自身は3曲作詞しているのみで、提供曲とカヴァー曲で構成されているのですが、アルバムのどこをどう切っても遊佐さん。彼女とは直接話したことはないですし、どういう人かは分かっていなくとも、そう感じるのです。キャッチーすぎない淡々と素朴なポップス。決してテクニカルに上手いとか巧いわけではないけれど、ひとつひとつの音に丁寧に愛情を込められたバンド演奏。熱くはなく冷めてもいない微熱っぽい温度のサウンド。作詞者それぞれの独創的な詞も含め何もかもが絶妙な塩梅で、まるで遊佐さんの歌に吸い寄せられているかのよう。ツイッターなどで聴いた人の感想を読んでいると、一様にして遊佐さんの歌が強く印象に残ると言っておられて、私も同感で。きっとプロデューサーや参加メンバーもそう願って制作していたのではないかと想像します。遊佐さんの歌は歌唱力うんぬんを超えたピュアな魅力。微妙な揺れが儚げで少女のような繊細さ、それでいて色っぽさがほのかに匂ったり。優しさだけではなく翳りも湛えているので、癒し系という表現はふさわしくないですが、私は聴いているとすっと心洗われます。

アルバム全体どの曲も佳いですが、私は特に遊佐さんが詞を書いている3曲が気に入っています。金子麻友美さん作曲でザ・ゾンビーズ子さん&金子さん編曲の「会いたくなったら」「川べりのうた」は、ほのかに演奏がソウルミュージックっぽくて、そういう点でも好みです。「会いたくなったら」はイントロがTemptations「My Girl」風で、遊佐さんの穏やかな歌が入るとグッとイナタくなるのがグッときます。久しぶりに会いたいあの人は、どこでどうしてるんでしょうか?お元気でしょうか。「川べりのうた」はファンキーと言えなくもないささやかなメロウグルーヴが心地良く、私の大好きなRon Sexsmith「Right About Now」がふと頭を過ぎりました。遊佐さんの詞は他の作詞者に比べると突飛な表現はなくシンプルな言葉遣いで、くっきりと景色が目に浮かびます。もちろんこの曲を聴いて浮かんだ景色は我が故郷、魚がたくさん泳いでいた子どもの頃の近所の川。カセットテープに録音した?まるでJohn Lennon「Love」のような音響のニーノ・トリンカ「ずっと雨降り」ピアノ弾き語りカヴァーからタイトル曲「spring has sprung」への流れがハイライトでしょうか。このタイトル曲を壊れかけ~の小森清貴さんはBeach Boys『Pet Sounds』じゃないかとつぶやいておられましたが、まさしくそういう雰囲気。荘厳な教会音楽を聴いているかのように心が鎮まります。この2曲を真夜中に聴くとなかなか危ないのでオススメです。続く住所不定無職ユリナさんとのキュートなデュエットが楽しめるStrawberry Switchblade「Trees and Flowers」カヴァーでふっと一息ついて下さい。ニイマリコさんの奇想天外な歌詞と予測不能に展開する曲調がユニークな「そうじふりんぼ」は良いアクセントになっていますね...等々。ラストはサイダーの泡のように軽やかにポップな「五月の雨」(南正人にも同じタイトルの名曲がありましたね)で爽やかに幕を閉じます。春は出会って別れて人が交差する季節、そんな悲喜こもごもがほんのちょっぴりドリーミーに歌われ、時がゆっくりと流れる美しいアルバムです。


『Spring Has Sprung』遊佐春菜(2015年)

01. 恋のトロイカ(作詞:三輪二郎/作編曲:金子麻友美
02. いつでも地面が星空(作詞:藤井邦博/作編曲:ザ・ゾンビーズ子)
03. 会いたくなったら(作詞:遊佐春菜/作曲:金子麻友美/編曲:金子麻友美、ザ・ゾンビーズ子)
04. 川べりのうた(作詞:遊佐春菜/作曲:金子麻友美/編曲:金子麻友美、ザ・ゾンビーズ子)
05. ずっと雨降り(作詞:角森隆浩/作曲:上田禎/編曲:金子麻友美
06. spring has sprung(作詞:遊佐春菜/作曲:ザ・ゾンビーズ子/編曲:ザ・ゾンビーズ子、金子麻友美、遊佐春菜)
07. Trees and Flowers(作詞曲:Jill Bryson、Rose Mc'Dowall/編曲:金子麻友美
08. そうじふりんぼ(作詞:ニイマリコ/作編曲:ザ・ゾンビーズ子)
09. 夜の足音(作詞:藤井邦博/作編曲:金子麻友美
10. 鏡が割れて(作詞:藤井邦博/作曲:藤井邦博、深田理俊/編曲:藤井邦博)
11. 五月の雨(作詞:藤井邦博/作編曲:ザ・ゾンビーズ子)



遊佐春菜/五月の雨 - YouTube

※念押ししますけど、遊佐春菜ファンはジャック達『JOYTIME』も必聴ですよ!マストバイですよ