レコードは果てしなく

好きなレコードや観たライヴのことを喋ります。'79年生まれ。

『ある日の続き』 吉上恭太

やっぱり秋はシンガーソングライターが似合うよね。なんて言いながら、70~74年くらいまでのシンガーソングライターのレコードを棚から引き抜く。という選択肢に、最近、もうひとつ増えた。70~74年くらいまでのシンガーソングライターのレコードか吉上恭太『ある日の続き』か、どれにしようかな?嬉しい悩み。...思わず前記事をサンプリングしてしまったが、実際に秘密のミーニーズ『It's no secret』と交互に聴いている。そんな豊かな秋。

ある日の続き

ある日の続き

文筆家でもある吉上恭太さんの還暦にして2ndアルバム『ある日の続き』。正直、吉上さんのことをよく存じていたわけではないけども、ツイッターの私のタイムラインでしばしば名前を目にしていた方。渋谷Cabotte辺りで若い人たちに混じってライヴをしていたり、古書ほうろう(一度だけふらっと訪れたことがある)での吉上さん主催のイベント”サウダージな夜”にクララズのクララさんがゲストで出ていたり、ちょっと気になる存在で。そんな折、roppenのギタリスト渡瀬賢吾さんよりレコーディングに参加しました(エレキギター、ペダルスティールで八面六臂の大活躍!)とアナウンスされた『ある日の続き』発売のニュース。プロデュースは谷口雄さん(元・森は生きている、現・1983など)と吉村類さん、何やらバンドメンバーも渡瀬さん始め若い精鋭たちが集っているという。親子ほど離れた(実際に谷口さんのお母さんと吉上さんは同い年だそう!)年の差どんくらい?セッションへの興味が沸々と。帯のコメントは憧れのパイドパイパーハウス店長の長門芳郎さんだし、トドメは売り文句の”新時代の「ワン・マン・ドッグ」”。『ワン・マン・ドッグ』というのは、ジェイムズ・テイラーの72年のハートウォームなシンガーソングライター名盤であり、私の心の名盤No.1である。もはや買わない理由なんて無い、ので買った聴いた惚れた。再生ボタンを押した瞬間に響き渡るアコースティックギターの洗練とイナタさが同居するつま弾きを聴いた瞬間、幸せな笑みがこぼれる。バンドの演奏もまさしく『ワン・マン・ドッグ』でバックを務めたザ・セクションのように、あのちょっとソウルミュージック入った温かい歌心のあるグルーヴだ。そこに乗る吉上さんの哀愁ある朴訥とした歌声は、これまた大好きな中川イサトさんを彷彿とさせる素敵さ。鶯じろ吉さん(長門さん曰く、バーニー・トーピンのよう)による何気ない街に生きるさりげない心象風景を小粋に切り取った詩もサウンドに見事に溶け込む。日常生活の延長線上で、あまりに自然にじっくりと歌と言葉と音とリズムに浸れるアルバムである。即ち、ある日の続きのソングブック。これでいいのだ、これがいい。

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そう、笑っちゃうくらい頭からお尻までジェイムズ・テイラーしてる愛すべき「ぼくが生きるに必要なもの」でアルバムはスタート。特に竹川悟史さんのゴリッとしたベースプレイが実にリーランド・スクラー、ドラマーのイメージなので驚いた。5分で消えてしまう夕焼け、コバルトブルーの自転車...タイトル通りぼくが生きるに必要なものが訥々と並べられる、私は何よりも”クリムゾンレッドのギター”にグッとくる。1曲目がそれなら2曲目は「Nobody But You」風のバラードで...と思いきや、渡瀬さん弾くデュエイン・オールマンばりの泥沼スライドギターがけたたましいブルーズロック「かもつせん」は、豪快な”Shyness Is a Warm Gun”だった。すっかり度肝を抜かれるも、谷口さん(タニー・クーチ)と吉上さんとのアコースティックギターのハーモニーが美しく穏やかな「犬の瞳が月より冴えたら」は再びJTムードで、ホッと一息。ついたかと思えば、次はどこか情けなくも憎めないホーボーソング「ホーボーだって深海魚の夢を見る」中川イサト「プロペラ市さえ町あれば通り1の2の3」に通じるゴキゲンで能天気なカントリー&フォークな逸品だが、最後に唐突に吠える並木万実さんの狂暴なトロンボーンでガツンと夢から覚める。さぁ歩き疲れたから家に帰ろうか、暮れなずむインスト曲「ieji」で前篇(A面)終了。ヴィブラフォンとフルートの音色が麗しいサウダージ感いっぱいのボッサ「one day~或ル日ノ続キ」は、ジョン・セバスチャン「Magical Connection」を参考にしたであろうメロウなアレンジにうっとりするが、時折聞こえてくる珍妙なパーカッションは照れなのだろう、か。夜空を照らす明るく朗らかなポップナンバー「ほしどろぼう」、ワウワウギターとペダルスティールの幻想的な音の重なりに天の川が見え、”Don't cry!”に肩をポンと叩かれてなんだか元気が湧いてくる。アコースティックギターとペダルスティールとピアノだけのシンプルな語り口で、ぐっとロマンチックにしっとりと「十一月の寓話」、歌われる”ジョニ・ミッチェル”という名前の甘美な響きよ。そして、タイトルからしてもう掛け値なしの名曲「ごはんの湯気で泣くかもしれない」は間違いなくアルバムハイライトだろう、フィフス・アヴェニュー・バンドにも負けずとも劣らない爽快なシティポップスだ。渡瀬さんの土釜から染み出るような旨味あるオブリガートにギターソロ、谷口さんの炊きたてホヤホヤのごはん粒みたくエレクトリックピアノの艶やかな音、ちょうどいい固さ柔らかさの瑞々しく粘りのあるリズム隊、とにかく絶品のバンドサウンドに舌鼓を打つ。思わず何杯もおかわりしたくなるが、最後の曲へ。泣くかもしれないから結局泣いてしまう「涙」は、古書ほうろうでの旧いラヂオから聞こえてくるかのような音質の弾き語り録音。感情の行き場を失いひとりでに流れる十七の娘の涙(詩:菅原克己)、うっすらと聞こえる外の通りの雑音まで愛しいエンドロール。

これがぼくが生きるに必要なレコード。だなんて、ちょっと言い過ぎただろうか。心のレコード棚の手に取りやすいところには置いておこう。


「ごはんの湯気で泣くかもしれない」by 吉上 恭太 @ひしょう 5.3.2017

”鈍感だから 笑ってる/臆病だから 生きのこる”


『ある日の続き』 吉上恭太(2017年)

01. ぼくが生きるに必要なもの
02. かもつせん
03. 犬の瞳が月より冴えたら
04. ホーボーだって深海魚の夢を見る
05. ieji
06. one day~或ル日ノ続キ
07. ほしどろぼう
08. 十一月の寓話
09. ごはんの湯気で泣くかもしれない
10. 涙

録音メンバー...
吉上恭太、谷口雄、渡瀬賢吾、竹川悟史、北山ゆう子、増村和彦、並木万実、影山朋子、松村拓海

Produced by 谷口雄
Co-produced by 吉村類
Recording engineered by 馬場友美、谷口雄
Recorded by TANGOK Studio and some other nice places
Mixed by 谷口雄
Mastered by 原正人

Cover & booklet illustration by 山川直人
Photography by 鶯じろ吉、とも吉
Design by 板谷成雄

『It's no secret』 秘密のミーニーズ

やっぱり秋はフォークロックが似合うよね。なんて言いながら、60年代~70年代前半くらいまでのレコードを棚から引き抜く。という選択肢に、最近、もうひとつ増えた。60年代~70年代前半くらいまでのレコードか秘密のミーニーズ『It's no secret』か、どれにしようかな?嬉しい悩み。

秘密のミーニーズの1stフルアルバム『It's no secret』。ナウなヤング6人組ロックバンドによるイカした西海岸の風が吹くフォークロック名盤が誕生、ピンポイントでこういうレコードが聴きたかった!おお同志よ!と叫びたい気分だ。それはニール(な)ヤング『渚にて』(1974年)の渚でぼんやり佇む後ろ姿LPジャケットを模した、ツボすぎるCDジャケットから既にプンプン匂い立っており、思わずルーツロック愛好家はニヤリと手に取ってしまうだろう。そして、その音楽をサウンドを聴いて更に倍ニヤリ。CSN&Yザ・バーズザ・バンドグレイトフル・デッド、ジェファーソン・エアプレイン、はちみつぱいGARO...彼らの生まれるずっと前の憧れの音世界(私もそうだが、きっと彼らは新譜のように聴いているのだろう)に近づこうとする並々ならぬ気概と探究心、でありながら、マニアックに閉じて終わる気配など無く、ダイナミックで力強いライヴ感のあるすこぶる風通しの良い開けた作品になっている。のが何よりも嬉しい。前向きなレイドバック感、フレッシュな鮮度抜群のロックアルバムである。また、そんなユニークなサウンドだけでなく、曲良し、アレンジ良し、演奏良し、アルバム構成良し、何と言ってもボーカリスト三人の歌唱&ハーモニー素晴らし!『それは秘密ではない』というアルバムタイトルが示す通り、1stにして堂々と出し惜しみなく集大成的な充実ぶりに、今年の私的最優秀新人賞(3年前にミニアルバムを出しているので、もう新人じゃないかもだが)どころか、私的ベストアルバムに挙げてしまいたい。私のようなルーツおじさんだけでなく、ヒップなロックを求めている若い人たちにも聴いてほしいし、青春のレコードであってくれたら最高だなぁ。


秘密のミーニーズ1stアルバム『イッツ・ノー・シークレット』トレイラー

最初の一音から生々しくガツンとくるロックな生ギターの響きで一瞬にグイッと心を掴まれる「ねずはうす」でアルバムは始まる、一歩一歩ズシリと大地を踏みしめるような重厚なグルーヴが完璧なリードトラック。クロスフェードで続くのは、一転して、マンドリンがおどけてる軽快なカントリーロック「モーニングレイン」でゴキゲンに踊らないか。「アルカイックスマイル」は現代的なサイケデリックサウンド(Beachwood Sparksを意識したらしい)でまどろみの世界、ゆらゆらとゆらぐ渡辺たもつさんの歌声があまりに溶け込んでいる。ここまでのリードボーカルが1曲目は菅野みち子さん、2曲目は淡路遼さん、3曲目は渡辺さんと三人のボーカルを順に紹介するという流れだろうか。菅野さん作の「風はざわめき」はスティールギターを基調にしたしっとりとしたカントリーポップの名曲、タイトルからシュガーベイブにおける大貫妙子さんを思い出したりもしたが、菅野さんの可憐に美しくも幹のたくましい歌声は本当に素敵で聴き惚れる。クラシックギターでポツリと優雅な調べ「#無題1」から気怠くどこまでも心地良いジャムセッションハマナス特急/海岸線より」へとインストナンバーが2曲(後者はメドレーだから3曲か)続くという展開は他ではなかなか見られないだろうが、無意識に音に身をゆだねていると気が遠くなり思わず寝落ちする...『渚にて』もそうだが、往年の名盤は大抵途中で眠くなるものである。菅野さん作のこれまた名曲「虹の架かる丘を越えては、アルバム最後にリプライズが来ることからも分かるように、アルバムの核となるであろう壮大で荘厳なフォークロックナンバー。菅野さんの切ない歌とメロディーにうっとりと酔いしれたかと思えば、終盤の突如熱く燃え上がる(スティールギター含む)ギターソロバトルに心震える。


秘密のミーニーズ〜風はざわめき【PV】

まだふわり夢うつつ状態の中、アルバム後半戦は景気良くウエストコーストど真ん中「名まえの無い鳥」(馬ではない)でスタートする。三声ハーモニーのあまりに爽快な疾走感に胸躍り眠気も吹っ飛ぶ、淡路さんのぶっきらぼうでダンディな70年代声で”悩んでる君も綺麗さ”なんて歌われたら...惚れちまうやろ。お次はタイトル通りの豪胆なスワンプロック「ヌマベの踊り」で溌剌と泥臭く攻める、ここでは誰よりも菅野さんのボーカルが男らしい!姐さんと呼びたいくらいだ。そんな怒涛のロック攻勢のとどめは青春がロックしてロールする「ローリン・アンド・タンブリン」、気づいたら一緒に拳振り上げ大合唱していた。吞めや歌えやの宴は続く。フィドルバンジョーお転婆にはしゃぎまわる、はちみつぱい「煙草路地」を思い出さずにいられない、酔いどれダンスミュージック「麗しの四姉妹」は唯一の淡路さん作、騒々しく微笑ましい姉妹喧嘩が目に浮かぶ。クラシックギターでポツンと寂し気な「#無題2」を挟み、今度は渡辺さん作のはちみつぱいムードのアーシーでメロウな「藪の中」。最後の黄昏色のセンチメンタルなギターソロまで、じっくりと静かに深く沁み入る。そして、『It's no secret』のエンドロールは、サイケさを増した「虹の架かる丘を越えて(reprise)」で再びドリーミーな余韻を残す...鮮やかな名盤の風格。


秘密のミーニーズ〜名まえの無い鳥【PV】

『It's no secret』 秘密のミーニーズ(2017年)

01. ねずはうす
02. モーニングレイン
03. アルカイックスマイル
04. 風はざわめき
05. #無題1(instrumental)
06. ハマナス特急/海岸線より(instrumental)
07. 虹の架かる丘を越えて
08. 名まえの無い鳥
09. ヌマベの踊り
10. ローリン・アンド・タンブリン
11. 麗しの四姉妹
12. #無題2(instrumental)
13. 藪の中
14. 虹の架かる丘を越えて(reprise)

秘密のミーニーズ...
菅野みち子 Vocal, Chorus, Acoustic Guitar
淡路遼 Vocal, Chorus, Percussions
渡辺たもつ Vocal, Chorus, 6-12 Acoustic Guitars, Electric Guitar, Banjo, Pedal Steel, Mandolin, Electric Sitar
青木利文 Electric Guitar, Fiddle, Rap Steel
高橋U太 Drums, Percussions
相本廉 Bass

Guest Musicians 藤本晃史(All Keyboards, Cowbell)、高田慎平(Conga)

Mixed by DEWマキノ
Mastered by 中村宗一郎


そう言えば、『渚にて』では砂浜に自動車が突っ込んでいたが、『It's no secret』では自転車が突っ込んでいる。そんなどこか親しみやすさのある彼らの佇まいも魅力的だ。好きなバンドはたくさんいるが、好きを超えてこのバンドに入りたい!と思ったのは、ラリーパパ&カーネギーママ以来である。楽器は弾けないが、見た目の雰囲気的に馴染める自信はある(笑)。先日のレコ発イベントではBAND EXPOとも共演し、漏れなく賞賛されていた彼らのライヴも是非観てみたい。いつか関西にも来てほしい、拾得とか似合いすぎるだろうな。

『Suburban Baroque』 カーネーション

夏の終わり~秋の入り口にカーネーションから飛びきりメロウなレコードが届いた。通算17枚目(毎度驚く)のニューアルバム『Suburban Baroque』

何と前作からわずか1年というハイペースぶりでこの充実ぶり、もう何度目のピークか分からないけども、とにかく絶好調である。前作『Multimodal Sentiment』では諦念や情けなさまでも包み隠さずグルーヴに昇華させたロックな痛快作であったが、今作『Suburban Baroque』では(郊外のバロックというタイトルからも滲み出ているように)メロディーや歌により焦点を当てたカーネーション歌謡集あるいはスタンダードポップス集といった印象だ。これぞ最高傑作!と興奮気味にガッツポーズする感じというよりは、嗚呼...ええやん...とボソッと無意識に洩れてしまう感じ。もちろん圧倒的にポップであるが、派手さは控えめにキャッチー過ぎずジワジワくる。それってとってもカーネーションらしいアルバムだし、これまた私の好きなカーネーションでもある。そして、今作でカーネーションらしいと言えば、久しぶりに矢部浩志さんのドラムがカーネーションで聴けるというファン落涙の喜び(7曲も!)。とは言え、特別な感慨があるかと思いきや、私自身は意外とニュートラルに楽しんでいる。きっと矢部さんのドラミングがあまりにも楽曲に溶け込んでいるからなのだろう、後でクレジットを読み返したら矢部さんだったと思い出す。それが嬉しい。その他の参加メンバーの演奏も然り、いい意味で黒子的な仕事ぶりで(「VIVRE」のホーンアレンジは浦朋恵さんだったのか!とか)、見事に歌を引き立てている。聴き惚れる歌曲が滑らかに続く全11曲48分、繰り返し聴くのにはちょうど良い時間だろう、秋の夜長に本の頁を大事に一枚一枚めくるようにじっくり味わいたいアルバムだ。

Suburban Baroque

Suburban Baroque

再生ボタンを押した瞬間に流れてくるピアノのフレーズが「It's a Beautiful Day」のあの感じを思い出さずにはいられないウキウキ心弾むソウルナンバー「Shooting Star」で幕開け、どこを切っても直枝節で美味しいところだらけの大盤振る舞い(そう言えば、前作収録の「いつかここで会いましょう」は「Edo River」の地続きの風景であった)。続く「Peanut Butter & Jerry」では、矢部ドラムのリズムが「Superman」を匂わせる軽快さからサビで一気に狂おしくセンチメンタルなメロディーへなだれ込んでいく快感。ゴキゲンでハチャメチャなパワーポップ「ハンマーロック」は関節技と言うよりブレーンバスターばりの豪快さ、吊り橋の途中で技かけられたら危ない!待望の大田譲さんボーカル曲「Little Jetty」スティーリー・ダン『うそつきケイティ』あたりを意識したであろう粋なAOR、大田さんの加藤和彦ぶりを堪能してください。LPで言うところのA面ラストは、ポール・マッカートニーの小品バラードのような「夜の森」で、しっとりとマイ・マインドがメロウにとろける。ティーンエイジファンクラブ的なミドルテンポのギターロックで悩める若者たちへの静かな共感と励まし「Younger Than Today」は(年齢的に)自分に向けられているのかはともかく、その優しさに泣けて仕方がない。アイルランド民謡?賑やかなアレンジがすこぶる愉快な「金魚と浮雲はナイスアクセント。いつだってアイドルに夢中であるのと同時にアイドルに夢中であることの悲哀、「Girl」にはいろいろなことを考えさせられる!?気怠く愛らしい音像はNRBQが描く少女にも通じる、密かに好きな歌。一転して、質実剛健に男臭く攻める(大田さんのたくましいコーラス!)ニール・ヤング調フォークロック「Suspicious Mind」もまたカーネーションワールドなのだ。旬のキュートな歌姫・吉澤嘉代子さんをコーラスに迎え切なさの嵐を吹かせる「Please Please Please」で、グググっと込み上げてくる。そして、クロージングナンバーは、穏やかな多幸感に溢れた紛うことなき名曲「VIVRE」。”夜と朝の間”にピーター「夜と朝のあいだに」を思い出すのは私だけかもしれないが、いかにせよ往年のスタンダードナンバーに比肩する極上のメロディー、アレンジ、サウンドに夢心地にうっとりするしかない。エレガントなポップスはささやかな生きる灯火になる、ということ。


カーネーション「Peanut Butter & Jelly」Music Video

『Suburban Baroque』 カーネーション(2017年)

01. Shooting Star
02. Peanut Butter & Jerry
03. ハンマーロック
04. Little Jetty
05. 夜の森
06. Younger Than Today
07. 金魚と浮雲
08. Girl
09. Suspicious Mind
10. Please Please Please
11. VIVRE

カーネーション直枝政広、大田譲
参加メンバー:矢部浩志、張替智広、岡本啓佑、松江潤佐藤優介、藤井学、田村玄一、吉澤嘉代子、徳澤青弦 etc

【私の好きな歌021】「トランスファー」くるり

つい先日、東京のうちだあやこさんと不知火庵さんの摩訶不思議な男女ポップデュオdodoの初来阪ライヴを雲州堂で観た。彼らの絶妙に溶け合うユニゾンハーモニーが唯一無二な世界で感動、関西にはこんな音楽やってる人いないとうちださんに言ったら、うちださん「そうなんですね。でも、dodoは京都っぽいと言わることがあるんですよ。くるりとかボニーピンクとか京都の音楽が好きだったので、そう言われると嬉しい」と。ふむ京都かぁ、なるほどなぁ。うちださんが言う京都というのは、おそらく1990年代終わりから2000年代初頭くらいまでのくるりの登場で一躍注目されることになった頃の京都のことなのだろうと思う。京都の夏は猛烈に暑いが、あの頃の京都は猛烈に熱かった。くるりを輩出した立命館大学の軽音サークル”ロックコミューン”からはキセル、チェインズ、ママスタジヲなど続々と。そう言えば、雲州堂の前日にFUTURO CAFEでdodoと共演していた京都のSATOさんがビバ☆シェリーとして元カーネーション棚谷祐一さんプロデュースでデビューしたのもその頃だった(2003年2月。京都タワーレコードでのインストアライヴを目撃)。アングラっぽくポップな独特の京都臭というのが確かに匂っていた時代。

...とか書いていると、なんかその頃のことをいろいろ思い出してきたので、書き連ねていく。というのも、ちょうどその頃に私は京都に住んでいた。1998年4月18才の春、私は大学入試を大失敗し、兵庫の田舎に予備校が無かった為に、憧れの京都に出てきた。敢えて高校の友だちやクラスメイトが誰もいないマイナーな予備校に決め、同志社大学今出川キャンパスすぐ近くのシャワー(湯船はない)とトイレと小さいキッチン付きの狭い古アパートで一人暮らしを始める。予備校で仲良くなった人もいたが、そんな遊んだりすることもほとんどなく、基本的には予備校にいるか部屋にいるかしかない。部屋ですることと言えば、音楽を聴くことくらいしかない(勉強せえよ)。悶々としていた。あ、ラジオも聴いていた。高校から引き続きNHK-FMミュージクスクエアは聴いていたし、くるりが京都のFM局α-STATIONでやっていた”FOUL 54”という番組(1999年1月-3月)も楽しみで聴いていた。セロファンの西池崇さんが電話ゲストで出た時に、岸田繁さんがセロファン先輩と呼んでいたので、セロファンは偉いバンドなんやと思っていた。確か関西のNHK(テレビ)で、くるりセロファンスウィンギング・ポプシクルオセロケッツと関西出身のバンドが集ったライヴを観た記憶があるが、定かでない。そのくるりのラジオ番組に、”浪人ダブルヘッダー”のラジオネームでカーネーション「なにかきみの大切なものくれるかい」をリクエストしたら、かけてくれた(続けてかかったのはリール・ビッグ・フィッシュ)。それを聴いて、岸田さんは「ええ曲ですねー」と言ってくれた。そのリクエスト葉書で番組特製くるりタンバリンも当たったのだけど、大学が決まり、直後に引っ越ししたので、未だ届いていない...。浪人時代は北大路ビブレのJEUGIAまでチャリンコ走らせてCDを買っていた(調べたら、2012年に閉店)。くるりさよならストレンジャー』歌詞カードの「ランチ」の頁に写る北大路通りの交差点を見ると、何とも言えないむず痒い気持ちがする。これも青春、の風景。

くるりはデビュー当時のやるせなくサエない感じが好きだった。なので『さよならストレンジャー』~『図鑑』に思い入れがある、「春風」も美しい名曲だ。正直、「ばらの花」はあまり好きではない。久しぶりに『さよならストレンジャー』を聴いたら、「東京」に続く軽やかな「トランスファー」が小粋でええなぁとグッとくる。サビがビートルズの「She Said She Said」だと気づく、そりゃあ好きだ。ドラムス森信行さんは私と同じ誕生日、私のちょうど4つ年上。

さよならストレンジャー

さよならストレンジャー

京都の音楽思い出話は続く...かもしれない

【PLAYLIST】『SUMMER AOYAMA』

クーラーの効いた部屋で寝転がって高校野球を眺めながら寝落ちする...それが私の夏。朝まで世界陸上にもクールに燃えた!そんな夏の日射しに滅法弱い出来るだけ出掛けたくないインドア人間に心地良いサマーソング、と言えば青山陽一さんである。そのルックスや風貌は涼しげであっても、海!ドライブ!リゾート!がまるで似合わない青山陽一さんであるが(失礼!)、8月26日夏生まれだからなのか意外にもサマーソング(と言えそうなもの)が多い。ということに気づいたので、私がグッとくる青山陽一さんのサマーソング(と言えそうなもの)を集めて仮想カセットテープにしてみた46分21秒。う~ん、ナイスメロウ!

『SUMMER AOYAMA』
A-1. 停電
A-3. Los Angeles
A-3. 世にも奇妙な女(guitars version) with 堂島孝平
A-4. 夏らしい
A-5. SPIDER (from outa space)
A-6. 五つめのシーズン

B-1. 水に浮かぶダンス
B-2. 2つの魚影 【GRANDFATHERS
B-3. Cyclone
B-4. Thunderbolt
B-5. 夏は喧騒なり

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A-4~A-5の”どうやら夏らしい”から”どこが夏だ!”への繋ぎがやりたかっただけというか何というか(笑)。皆さんも選曲して作ってみましょう!楽しいよ。

My Summer Girl

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”夏の出来事 みんな許せる”(南沙織


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”夏はいろいろです ほんとに”(麻丘めぐみ


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”いーじゃないの 夏なんだし”(星野みちる


「夏の感情」南沙織(作詩:有馬三恵子/作曲・編曲:筒美京平/演奏:キャラメル・ママ 1974年)
「夏八景」麻丘めぐみ(作詩:阿久悠/作曲・編曲:筒美京平 1976年)
「夏なんだし」星野みちる(作詩・作曲・編曲:小西康陽 2015年)

『SPEEDY MANDRILL』福岡史朗

つい先日6月10日、大阪天満宮の近くディープな音楽愛とご飯&お酒がすこぶる旨い音食堂酒場・音凪へ、福岡史朗+松平賢一+大久保由希のライヴを観に行った。お客さんと期待が満員御礼の中、来月発売される福岡史朗さんのニューアルバム『SPEEDY MANDRILL』収録曲を全曲曲順通りに披露してくれた。それだけでなく嬉しいことに、何とかこの日までにレコードも間に合わせてくれたので、つまり、超先行レコ発ライヴである。(バンドではやっていたが)トリオで全曲やるのは初めてのようで、思わず緊張すると漏らしながらも、そんなことを微塵も感じさせない(ちょっとしくじるところさえ)ピッタリ息の合ったゴキゲンな演奏は今宵あの夜も流石中の流石であった(あの肩慣らしのキャッチボールのフォームで150km/h投げ合うロックンロールセッションは唯一無二)。ファンとしては、何と言っても(前回拾得で同じトリオで観た時に数曲聴いてはいても)これから聴きまくるだろう初めて聴く新曲を次から次へと味わえるフレッシュな贅沢よ!ありがたき幸せ。しかも、そのどれもがシビれるほどカッコ良くて素晴らしくて、あまりの感動と興奮で店中を走り回りたい気分であったが、大人なので必死に抑えた。終演後、熱演の余韻とお酒で酔いながら、お三方と一緒に解説を訊きつつ音凪のスピーカーで出来たてホヤホヤのレコード『SPEEDY MANDRILL』を聴くという嬉し楽し時間を経て、帰宅してからも我が家のスピーカーで(外でも)狂ったように聴きまくっている。

『SPEEDY MANDRILL』を一言で言えば、もう言ってしまっているが、シビれるほどカッコ良いロックンロールアルバム、だ。それしか言葉が出てこないくらいである。以上、終わり...いや、続けるが。これまでGREEDY GREEN解散後2001年のソロアルバム『TO GO』から始まるフルアルバムは11枚、昨年には全曲新録2枚組31曲入りというフルボリュームのオリジナルアルバムのようなベスト盤『HIGH-LIGHT』もあり、とめどなく多作な福岡史朗さんであるが、そのどれもが甲乙つけがたく名盤ばかり。それゆえにどれが随一の代表作かを決めかねていたが(決める必要があるのかは知らないが)、こうやって最新作12th『SPEEDY MANDRILL』を聴いてからは、スパッと『SPEEDY MANDRILL』が最高傑作だ!と言えてしまう。近所のお兄ちゃんがTシャツ&ジーパンで八百屋に行ったついでにかき鳴らすロックンロール、日常生活から滲み出るSF情緒。そんな福岡史朗節は1stから出来上がっているし、今回も音楽性自体が特別に大きく変わったということはないのだろうけども、演奏もリズムも言葉も何もかもがより切れ味鋭くなったという印象で、緩急のある展開を見せていく曲が多かったり、凝ったコーラスやアレンジの幅も広がっているように感じる。SPEEDY MANDRILL(スピーディー・マンドリル)、聴く前はドラクエに出てきそうなものすごいイカれたタイトルだな(笑)と思っていたが、聴いてみればなるほどしっくり来るイカついモンスター感。そして、その奥底にドロドロと渦巻いているのは怒りの感情だ(個人の感想です)、今この世を不穏にさせている何かに対する怒り。かと言って、激しい感情をただ吐き出して並べるのではなく、そのどれもがしっかりとイカした詩(詞)であり、直接的ではないけども、繰り返され強調される言葉がヒリヒリとジワジワと突き刺さってくる。音楽性よりもメッセージ性が勝ってしまうものほどつまらないものはないが、何よりも史朗さんは独創的で刺激的なロックンロールに昇華させているので、もう最高なのである。とにかく、矢継ぎ早に繰り出されるスピーディー・マンドリルの痛恨の一撃!に身も心もシビれっぱなしなのだ。

さぁ、この勢いで全曲感想に行きたいところだが、正式発売は7/16なのでそれまで我慢することにする(笑)。何はともあれ言いたいことは、マストバイやで!

SPEEDY MANDRILL

SPEEDY MANDRILL

『SPEEDY MANDRILL』 福岡史朗(2017年)

01. ラウドスピーカー 02. マカロニチーズ 03. ストロボ 04. ガレージ 05. ステップ 06. グレープフルーツスプーン 07. ニュートリノ 08. 太陽 コロナ リフレイン 09. 狂った魚 10. 素数 11. シェルター 12. 法王のハーレー 13. モナリサ 14. ギフト

録音メンバー...
福岡史朗、松平賢一、大久保由希、ライオンメリー、高岡大祐、本橋卓、福田恭子、辻睦詞、平見文生

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