レコードは果てしなく

好きなレコードや観たライヴのことを喋ります。'79年生まれ。

『SPEEDY MANDRILL』福岡史朗

つい先日6月10日、大阪天満宮の近くディープな音楽愛とご飯&お酒がすこぶる旨い音食堂酒場・音凪へ、福岡史朗+松平賢一+大久保由希のライヴを観に行った。お客さんと期待が満員御礼の中、来月発売される福岡史朗さんのニューアルバム『SPEEDY MANDRILL』収録曲を全曲曲順通りに披露してくれた。それだけでなく嬉しいことに、何とかこの日までにレコードも間に合わせてくれたので、つまり、超先行レコ発ライヴである。(バンドではやっていたが)トリオで全曲やるのは初めてのようで、思わず緊張すると漏らしながらも、そんなことを微塵も感じさせない(ちょっとしくじるところさえ)ピッタリ息の合ったゴキゲンな演奏は今宵あの夜も流石中の流石であった(あの肩慣らしのキャッチボールのフォームで150km/h投げ合うロックンロールセッションは唯一無二)。ファンとしては、何と言っても(前回拾得で同じトリオで観た時に数曲聴いてはいても)これから聴きまくるだろう初めて聴く新曲を次から次へと味わえるフレッシュな贅沢よ!ありがたき幸せ。しかも、そのどれもがシビれるほどカッコ良くて素晴らしくて、あまりの感動と興奮で店中を走り回りたい気分であったが、大人なので必死に抑えた。終演後、熱演の余韻とお酒で酔いながら、お三方と一緒に解説を訊きつつ音凪のスピーカーで出来たてホヤホヤのレコード『SPEEDY MANDRILL』を聴くという嬉し楽し時間を経て、帰宅してからも我が家のスピーカーで(外でも)狂ったように聴きまくっている。

『SPEEDY MANDRILL』を一言で言えば、もう言ってしまっているが、シビれるほどカッコ良いロックンロールアルバム、だ。それしか言葉が出てこないくらいである。以上、終わり...いや、続けるが。これまでGREEDY GREEN解散後2001年のソロアルバム『TO GO』から始まるフルアルバムは11枚、昨年には全曲新録2枚組31曲入りというフルボリュームのオリジナルアルバムのようなベスト盤『HIGH-LIGHT』もあり、とめどなく多作な福岡史朗さんであるが、そのどれもが甲乙つけがたく名盤ばかり。それゆえにどれが随一の代表作かを決めかねていたが(決める必要があるのかは知らないが)、こうやって最新作12th『SPEEDY MANDRILL』を聴いてからは、スパッと『SPEEDY MANDRILL』が最高傑作だ!と言えてしまう。近所のお兄ちゃんがTシャツ&ジーパンで八百屋に行ったついでにかき鳴らすロックンロール、日常生活から滲み出るSF情緒。そんな福岡史朗節は1stから出来上がっているし、今回も音楽性自体が特別に大きく変わったということはないのだろうけども、演奏もリズムも言葉も何もかもがより切れ味鋭くなったという印象で、緩急のある展開を見せていく曲が多かったり、凝ったコーラスやアレンジの幅も広がっているように感じる。SPEEDY MANDRILL(スピーディー・マンドリル)、聴く前はドラクエに出てきそうなものすごいイカれたタイトルだな(笑)と思っていたが、聴いてみればなるほどしっくり来るイカついモンスター感。そして、その奥底にドロドロと渦巻いているのは怒りの感情だ(個人の感想です)、今この世を不穏にさせている何かに対する怒り。かと言って、激しい感情をただ吐き出して並べるのではなく、そのどれもがしっかりとイカした詩(詞)であり、直接的ではないけども、繰り返され強調される言葉がヒリヒリとジワジワと突き刺さってくる。音楽性よりもメッセージ性が勝ってしまうものほどつまらないものはないが、何よりも史朗さんは独創的で刺激的なロックンロールに昇華させているので、もう最高なのである。とにかく、矢継ぎ早に繰り出されるスピーディー・マンドリルの痛恨の一撃!に身も心もシビれっぱなしなのだ。

さぁ、この勢いで全曲感想に行きたいところだが、正式発売は7/16なのでそれまで我慢することにする(笑)。何はともあれ言いたいことは、マストバイやで!

SPEEDY MANDRILL

SPEEDY MANDRILL

『SPEEDY MANDRILL』 福岡史朗(2017年)

01. ラウドスピーカー 02. マカロニチーズ 03. ストロボ 04. ガレージ 05. ステップ 06. グレープフルーツスプーン 07. ニュートリノ 08. 太陽 コロナ リフレイン 09. 狂った魚 10. 素数 11. シェルター 12. 法王のハーレー 13. モナリサ 14. ギフト

録音メンバー...
福岡史朗、松平賢一、大久保由希、ライオンメリー、高岡大祐、本橋卓、福田恭子、辻睦詞、平見文生

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【私の好きな歌020】「人力飛行機の夜」鈴木茂

鈴木茂『BAND WAGON』は言わずもがな問答無用の(邦楽・洋楽を超えた)ロック名盤であり、世紀の名曲「砂の女」「100ワットの恋人」あたりが名物であるが、私がロックバンドをやるとしたら、この「人力飛行機の夜」(B面1曲目)をカヴァーしたいと常々妄想している。スライドギターがねっとりと粘りつくファンキーな演奏は本場リトル・フィート(ピアノはビル・ペイン)よりもちょっとだけカッコイイのではないかと思っている。そして、何よりもグッとくる極私的ハイライトは、線の細い歌唱の鈴木茂青年が精一杯腹の奥底から声を絞り出して苦み走りながら吠える”茶ばしら”だ。それを聴いていると、とびきり熱いお茶の波に揺られながら立っている茶ばしらが、ノックアウト寸前のフラフラのボクサーが気力だけで立ち上がり何とかファイティングポーズを取っているかのように見えてきた(大袈裟)。歌詞としてははっぴいえんどの延長線上にあるのだろうけど、松本隆先生は何を思ってこの歌の決めフレーズ(かどうかは分からないが)に”茶ばしら”を持ってきたのかは全くの謎であるが、おかげで茶ばしらにも人生(茶生?)がありロック魂があることを教えてくれた(大袈裟)。そう、ロックは日常に転がっている。2分30秒くらいの短い曲でエンディングがフェードアウトなので、ライヴではどういう締めのアレンジにしようか頭を悩ませている。楽器は弾けない。

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人力飛行機の夜」鈴木茂
Takashi Matsumoto-Shigeru Suzuki
from 『BAND WAGON』(1975年)

※妄想ついでに、ライヴの出囃子は「ウッド・ペッカー」にするつもりだ(知らんがな)

【私の好きな歌019】「クリームソーダ・ベイビー」シネマ

NHK連続テレビ小説ひよっこ」は観れる時は観ている。そして、癒されている。向島電機乙女寮の6人の女子がホントかわゆくて、もうストーリーとかはいらないから(失礼!)、永遠にわちゃわちゃと女子トークしているところを覗いていたい。

そんな「ひよっこ」で、有村架純演じる谷田部みね子が巡査の綿引正義(竜星涼)と喫茶店に訪れると決まって飲んでいるのがクリームソーダ。あのメロンソーダのキラキラ眩いグリーン色を見ていると思わず私の頭の中で流れる曲がシネマの「クリームソーダ・ベイビー」だ(もはや勝手にみね子のテーマ曲)。松尾清憲鈴木さえ子、一色進(!!!)、小滝満、中原安弘という奇跡のウルトラポップな5人組シネマの1981年ニューウェイヴ全盛期に燦然と輝くニッポンの英国モダンロック金字塔1st『MOTION PICTURE』のA面2曲目である。10cc meets Niagaraといった趣のスカッと爽やかな逸品。松尾さんの芳しい甘味メロディーと、何と言っても、ソーダの泡が弾けるような多重コーラス(さえ子さんのキュートな歌声の魅力よ!)が聴きどころ。

クリームソーダ...これはひょっとして大滝詠一さんのサイダー(アメリカンポップ)に対するソーダ(ブリティッシュポップ)なのだろう、か。そう言えば、『MOTION PICTURE』と大滝さんの『A LONG VACATION』はほぼ同時期にリリースされている模様、両者ともCBSソニー所属でシネマの面々がロンバケのレコーディングを見学したこともあるらしい(『MOTION~』の推薦コメントは大滝さんと近田春夫さん!スゴい)。『MOTION~』はポップすぎたのか、残念ながら期待されたほど売れなかったそう(自然とバンドも解散状態に)だが、その音楽は古びるどころかますます新鮮で今でもビンビンくるレコードである。26年後に1stとほぼ同じ録音メンバーでまさかのカムバック大作2nd『CINEMA RETURNS』(2007)、男だらけの新体制グラムロック3rd『SCIENCE FICTION MAN』(2014)もことごとく傑作なのだ。シネマ・イズ・ポップ、ポップ・イズ・シネマ。

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「クリームソーダ・ベイビー」シネマ
作詞・作曲:松尾清憲/編曲:鈴木慶一&CINEMA
from 『MOTION PICTURE』(1981年)

※先日行われた一色さんの全キャリアからの名曲を演奏するバンドISSIKI AT ALL(一色進、鈴木さえ子、大田譲、松田信男村松邦男)は観たかった...観たすぎた...。これほどの豪華メンバーが集うのはひとえに一色さんの(可笑しな)人徳と音楽力によるものだろう。私はまだまだひよっこだ。

※ついでに、「ひよっこ」は一色さんもお好きだそう。

【私の好きな歌018】「LEXICON」MUSEMENT

我が家のiTunesには”YABE EXPO '16”なるプレイリストがある。昨年秋にリリースされたBAND EXPO『BAND EXPO』(9/28)、TRICKY HUMAN SPECIAL『黄金の足跡』(9/28)、柴山一幸『Fly Fly Fly』(10/5)、そして、MUSEMENTMusement Fair』(11/23)の矢部浩志四部作をパッケージしたプレイリストである。それにしても、あの怒涛のリリースラッシュは凄まじかった。カーネーション時代まで遡っても、あんなに矢部台風が吹き荒れたことってあったっけ?年を越して春になってもまだ余韻が続いている。先日、東京でその矢部さんのソロユニットMUSEMENTの2ndアルバム『Musement Fair』のレコ発ライヴがあったそうで、レポートや写真動画などを見るにつけ、あまりの豪華さにクラクラした。私が生で観たMUSEMENTは、BAND EXPOのレコ発ライヴ@梅田ムジカジャポニカ西村哲也さんがボーカルを取った「ストーリーズ」であるが(MENSMENTか?)、それはそれでレアかもしれない(再演望む)。

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そのBAND EXPOのライヴでの矢部さんのMCで「MUSEMENTもEXPO'70世代の音楽だと思っています」と仰っていたのが印象的だったけど、まさしくそうで。MUSEMENTは見目も歌声も麗しい歌姫たち(羨ましい!)を迎え、レトロフューチャーなキラキラしたディスコポップこれでもかとてんこ盛り。エレクトロでありながら人肌の温もりがあるサウンド&グルーヴ(敢えてドラムを叩かない粋なこだわり)、アレンジには80'sテクノポップというよりもトッド・ラングレンやELOが透けて見えてニヤリ。矢部さんはスーパードラマーでありながら類稀なるソングライターでもあることは、カーネーション時代から周知の事実ではあるけれど、さらに頭にドがつくぐらいポップにキャッチーに突き抜けている。とにかく無敵の名曲オンパレードなのだが、私は『Musement Fair』ではリードトラック「LEXICON」が大好物で、MUSEMENTワールド全開な一曲だと思う。スペイシーに弾むシンセベースがひたすら心地良く、Controversial Sparkでもお馴染みkonoreさんのPerfumeライクな無機質お人形ボーカルがバックトラックと完璧な融合、間奏の華麗に疾走するギターソロも会心のテイクだ(konoreさんはこの曲を含め3曲歌っているが、どれも見事にキャラが違っていて、ホント素晴らしい)。ヘッドホンで爆音で聴くと、踊りながら時空がゆがむ...最高。それでは、まさしくこの光景が目に浮かぶMVをどうぞ...


MUSEMENT "LEXICON feat. konore"

超個人的には、通勤で使う六甲ライナーからの夜景に似合いすぎて、たまらない...


六甲ライナー 夜景前面展望 3/5

やっぱり、ポップスには夢がなきゃ。MUSEMENTには夢がある。

Musement Fair

Musement Fair

「LEXICON」MUSEMENT
words:konore/music:矢部浩志
from 『Musement Fair』(2016年)

『三匹夜会』三匹夜会

「この三人はメトロファルスの残党だから...」と思わず漏らしてしまうフロントマン気質ではない、ライオンメリィ、西村哲也、熊谷太輔というシャイで愉快な三人組、その名も”三匹夜会”。一夜限りのユニットかと思いきや、意気投合したのか毎年じわじわライヴを続け(沖縄まで行っちゃったり)、おまけに(おまけではないけど)なんとまぁ1stアルバムが届いちゃいました。昨年4月の大阪・音凪ライヴの時に、CD作りたい願望を聞いていましたが、まさかこんなに早く実現するとは!凝りだしたら止まらないメリィさんや西村さんがいるにも関わらず(笑)。これはもう影のプロデューサー?最年少の熊谷さんの手腕でしょう。当初は5曲入りくらいのミニアルバム的なものを考えていたみたいですが、あれよあれよで9曲入りのほぼフルアルバム。思いつきのようにジャンルがバラバラ、既発ソロ曲のリメイクやカヴァーなんかもあり、名刺代わりの1枚と言った趣もありますが、取っ散らかったが故の心地良い混沌。私はNRBQが死ぬほど好きなのですが、それにも匹敵するくらい。聴き始めると魔法にかかったようにリピートしてしまっている謎の中毒性然り。ここには、世にもユニークな三人の歌と音とリズムしか入っていません。それがもう最高にラヴリーなレコード!

オープニングはメリィさん作の文字通りの中毒ソング「アリスとテレス」、サイケ&デリック。エルスD夢の世界は、ほのぼのと危ない。私は、華がない三匹夜会をナメてた...ウソ。西村ソロ『ヘンリーの憂鬱』収録の名曲「牛の群になって走る」は三匹夜会バンドサウンドで(元々は弾き語り)。まさしく泥沼を鈍く走る牛の群のようにズシリと重たい足取りの熊谷ビート、メリィさんの孤独な旅人の背中が見えるアコーディオンも素晴らしい。名演。曇天から一瞬で晴天へ、超ゴキゲンなでっち上げアフリカンダンスナンバー「フリカオネーラ」で踊ろうや。何気に筒美京平(少年隊)まで取り込んだ!?意外とミクスチャー。メリィさん特有の言葉の摩訶不思議グルーヴ、私は”なかみ汁でしょ サマーランド”が頭の中でグルグル...。あまりにも有名なジャズのスタンダード「TAKE FIVE」をジャズ畑でないロックな三人が真面目にカヴァー。なんちゃってが微笑ましくもエレガントにキまっている。続くのは何と!驚愕のシンセサイザーインスト「三匹旅の手引き」、西村さんのブライアン・イーノ趣味がここで爆発するとは!許した二人の寛大さ(笑)。チルって下さい。西村さんが熊谷さんの為に書いた「ケモノたちの夏」は、これまた予想外の小粋なブリティッシュポップBEATLESQUEEN調。熊谷さんの真っ直ぐでピュアな歌いっぷりにスカッと清々しい気持ちになる。メリィさんの怪しすぎる夜会に集いし酔いどれブルース「Mad-Hatter Blues」は、どことなくメトロファルスの残党的味わいが。西村ソロ『ハンナと怪物達』収録の前代未聞の養老院ロック「グレートフルハウス養老院」も素敵に生まれ変わり。三匹夜会のラグタイム風のお茶目な演奏で、ますます滲み出るユーモア(そして、リアリティ...失礼!)。アルバム最後は、熊谷さん生涯初の作詞作曲ナンバー「チョチョイと三匹」で。ウヰスキーのCMソングにも似合いそうな鼻歌節、ため息で終わるトホホ感が『三匹夜会』のエンディング曲にはふさわしい!?エンドロールの文字もおどけているよ。

そうだ、私もこういう愛嬌のあるオッチャンでいよう。

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『三匹夜会』三匹夜会(2017年)

01. アリスとテレス(Lion Merry)
02. 牛の群になって走る(西村哲也
03. フリカオネーラ(Lion Merry/熊谷太輔)
04. TAKE FIVE(Paul Desmond
05. 三匹旅の手引き(西村哲也
06. ケモノたちの夏(西村哲也/熊谷太輔)
07. Mad-Hatter Blues(Lion Merry)
08. グレートフルハウス養老院(西村哲也
09. チョチョイと三匹(熊谷太輔)

三匹夜会 are...
西村哲也 GUITAR/BASS/Vo.
ライオンメリィ KEYBOARDS/木琴/Vo.
熊谷太輔 PERCUSSION/Vo.

※録音やライヴや沖縄旅行の模様を記録したオモシロDVD付きありますが、DVD残り少ないようです。通販等はライオンメリィさんのHPをチェックしましょうね。

【私の好きな歌017】「バイバイグッドバイサラバイ」斉藤哲夫

先日4/9の三匹夜会(ライオン・メリィ+西村哲也+熊谷太輔)@拾得で、メリィさんが歌ったレオン・ラッセルの「タイトロープ」が忘れられない。以前、西村さんとクロシバ(黒瀬尚彦&シバ)でカヴァーしたことがあって、それも良い雰囲気だったけども、やはり、レオンが乗り移ったかのようなメリィさんが歌うと格別なものがある。拾得のピアノの位置の関係で、客席からはメリィさんの左後姿しか見えないのだけど、それがまた物寂しく切なかった。「タイトロープ」は私が生まれるずっと前のヒット曲(1972年)だそう。正直、このヘンテコリンな曲がなぜ大衆の心を打ったのかイマイチ分からなかったのだけど、メリィさんの歌とピアノを聴いていて、単純に、ああ素敵な曲だなぁ、泣ける、と腑に落ちた。

私が「タイトロープ」を聴くと、決まって頭の中で次に流れるのが、斉藤哲夫さんの名曲「バイバイグッドバイサラバイ」である。哀愁いっぱいのメロディーにはポール・マッカートニーがやりそうなラグタイムっぽい感じも入っているだろうけど、場末の寂れたサーカスみたいなアレンジは、「タイトロープ」と共通する匂い。そして、何よりも哲夫さんの絶妙に声がひっくり返る瞬間はレオンを彷彿とさせるものがある(というか、これほどまで声がひっくり返って様になるボーカリストはレオンと哲夫さんくらいしか思い浮かばない)。そんな綱渡りをしているかのように危うい歌唱には、人間の弱さ情けなさがとめどなく溢れ出し、それでも堂々と痛快に歌い切る。倍々グッときてしゃあない。演奏陣にはムーンライダーズ以前の若き岡田徹さん(24歳)や白井良明さん(19歳)がいて、録音もまたしっかり1973年の素直な音で素晴らしい。LPの哲夫さんがカバンを肩から提げて立っているだけのジャケットは、小西康晴さんがフェイバリットに挙げていたように思う。何から何まで、アナログレコードで味わうべし。

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「バイバイグッドバイサラバイ」 斉藤哲夫
作詩曲:斉藤哲夫/編曲:瀬尾一三
from 『バイバイグッドバイサラバイ』(1973年)

※スカートの澤部渡さんは次作『グッド・タイム・ミュージック』が大好きだそうだ。それだけでも彼を信用できる。

【私の好きな歌016】「Sweet Little Lisa」Dave Edmunds

イギリスで最も好きなバンドは?と問われれば、無難に、ザ・ビートルズと答えておこう。本心はロックパイル(Rockpile)なのだけど...いちいち説明するハメになりそうなので面倒臭い(汗)。デイヴ・エドモンズニック・ロウ、ビリー・ブレムナー、テリー・ウィリアムズ...スター性からは遠くにいるなんか地味な職人ロックミュージシャンによる4人組スーパーバンド、ロックパイルだ。時代はパンク&ニューウェイヴ、ちょっとオッサンの彼らはちょっと古臭いかもしれないロックンロールをゴキゲンにカッ飛ばした。ロックンロールと言っても、あまり不良っぽくなく、ロックンロールオタクが愛だけでやっている感じ。超ポップでどこか人懐っこい、のが何より好き。ロックパイル関連のレコードはどれも最高で、「恋するふたり(Cruel To Be Kind)」のニック・ロウ『Labour Of Lust』が大人気だろうけど、私的にはデイヴ・エドモンズ『Repeat When Necessary』を推したい。1979年6月リリース、嬉しいことに私が生まれた年月だ(『Labour Of Lust』は翌7月)。なんともテキトーなデザイン(と言えるのか?)のジャケットや、『必要ならばリピートしてくれよな』という名盤と呼ばれることを拒否するかのようなユルいタイトルがまたイカす(ホントか?)。デイヴ&ビリーのウキウキ痛快極まりないギターの掛け合い、ニックのスタイリッシュに熱くドライヴするベース、テリーのシャープすぎる爆裂ビート、79年のロックパイルは演奏の脂が乗り切っていて、それはもうキレキレの疾走感である(我が家のターンテーブルはちょいと速いので、ますます走っている)。とりわけA面5曲の充実度はハンパない、5曲目「Dynamite」のドカーン!と爆発音で終えるという愛嬌のある(ダサい)アレンジも含めて無敵状態である。4曲目の全くスウィートではない「Sweet Little Lisa」は、カントリーロッキンギターの名人アルバート・リーを大フィーチャー!指から煙が出るような息をつかせぬ速弾きに血沸き肉躍る。鮮やかに繰り出される麗しいトゥワンギーな音色にワクワクが止まらない。キング・オブ・快感。ギタープレイにも千差万別様々なスタイルがあるけども、私が一番アガるのはカントリーの匂いを感じさせるギタリストなんだろう。NRBQのアル・アンダーソンやラスト・ショウの徳武弘文さんとか、西村哲也さんもそうでしょう。あ、そう言えば、私の誕生日はチェット・アトキンスと同じだったりするので、もしやDNAに組み込まれているのだろうか...

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「Sweet Little Lisa」 Dave Edmunds
(H. DeVito/D. Cowart/M. Cowart)
from 『Repeat When Necessary』(1979年)

※一色進さん率いる東京の名B級ロックバンド、タイツのアンソロジー2.5枚組ベスト盤『GIRLIC REPRICA』に収録されている未発表曲「テンプテーション・オイル」ライヴ音源では、徳武弘文さんがゲストでアルバート・リーにも負けない砂嵐のようなカントリーロッキンギターが聴ける。燃える!燃えまくる!世に出してくれて、ありがとう(涙)。

アルバート・リー・モデルのエレキギターの使い手、と言えば、ぶどう÷グレープの永井秀彦さんである。永井さんが持つとあの妙な形のギターが不思議とカッコ良く見え、強力なカッティングギターにもよく似合うんだ、これが。

※日本のロックパイルは?BAND EXPOだろうな、うん。